【ネタバレ】沈黙のパレード/東野圭吾 読了

ガリレオシリーズの文庫が、新しく発売されていたので購入した。
ガリレオシリーズは、短編、長編含めて、文庫になっているものは全て読了している。お気に入りは「容疑者Xの献身」と「聖女の救済」だ。

ちなみに、ガリレオシリーズのTVドラマ版はほとんど見ていない。番宣で「天才」を強調していたけれど、どうしても天才に見えなかったからである。俳優のイメージが天才とマッチしていなかったと感じたことと、黒板に難しい数式を書くという天才像がチープに感じたからだ。

さて、本作「沈黙のパレード」について、400ページ超のボリュームにも関わらず、一気読みをしてしまうほど楽しかった。次々と展開していくストーリーに好奇心が刺激された。二転三転するストーリーは、ミステリー好きにはたまらないだろう。

そして、レギュラーキャラクター達も健在だ。「聖女の救済」でも感じたのだが、草薙がストーリーの中心になると面白みが増す。

タイトルにある通り、パレードの裏で進むトリックを楽しんでほしい。



ここからはネタバレありになるので、未読の方はご注意願いたい。気になったところを書き出しておこうと思う。

■今回のトリックについて
序盤で暗に仄めかされるが、これはミスリードを狙ったものだろう。文庫版のP157で「オリエント急行の個室でさえ」と不自然だがあえてオリエント急行という単語を出すことで、全員が共犯というトリックを意識させている。事実、文中では全員が共犯であるかのように進む。

そのため、この共犯がどの範囲で、どう工夫されているのかを気にしてしまったが、結末は読んでの通りだ。オリエント急行に挑み、綺麗にまとまっている。

■高垣について
被害者の直接的な身内の一人として登場し、ラストでは、並木家と対話も果たし許された感が出ているが、実際はこの事件の元凶だ。10代の女の子に手を出し、「プロの歌手になる夢を支える」と思いつつも結婚したいと言い、妊娠させるという悪党。社会人で、実家で母親の世話になっている。母親に交際相手のことを話す男性はどのぐらいいるのだろうか。この設定には何か意図を感じる。

なお、最後にキーアイテムとなる金色の蝶のバレッタ。これは高垣が佐織に誕生日にあげたプレゼントだった。もちろん、バレッタとは銃ではなく髪留めのことだ。

■佐織について
高垣のところで妊娠に触れたが、これは本当だったのだろうか。もしこれが本当だったのなら、捜査でわかったのではないだろうか。実は、歌手をやめたかったから、高垣を優先したかったから嘘の理由を作ったのではないだろうかとも考えられる。これが嘘だとすると、最後の「母親になることを心底喜んだはず」という並木のセリフが救われなくなる。

この沙織と高垣は、今の新倉と留美の対比だろう。

佐織についての描写は非常に面白い。ラストになるまでは、才能に溢れアクティブで明るく、夢に向かって一生懸命で評判もいい。ポジティブな表現がされているが、ラストでは一時の恋に溺れている自分勝手な印象さえ受ける。

■夏美について
おそらく唯一共犯ではない人物。かなり映像化を前提にしたキャラクターにも感じた。とくにラストで湯川を追いかけるシーンは、映画のラストで映えるようなシーンになるだろうが、かなりとってつけたようなシーンに感じた。それと、今時の若者は、ポアロが探偵のイメージになるのだろうか。

■留美について
文庫版のP68で、三年前の事件について刑事が来た後に「あの写真の男が犯人なのかしら」と発言しているが、どういう胸中だったのだろうか。
佐織事件は自分(留美)が犯人だと思っているので、この発言は自分が犯人じゃなければいいのにという願望から出たのか、もしくは夫に対して自分は関係がないとアピールしたかったのか。

文庫版のP257で「素晴らしい日々が続いていたのに」とあるが、これは現在進行形の話ではなく、三年前の自分の犯行(実際は未遂)以降についてのことだろう。

ただ、湯川が真相に気が付いた時に、なぜ留美にたどり着いたのかは不明だ。共犯になっていない、かつ新倉が自供したことで庇っていると感じたのだろうか。メタ的な話だと、登場人物の中から消去法になるが。

■新倉について
文庫版のP267で、留美への「安心していいから」は、蓮沼の件がばれたとしても、新倉が蓮沼の件だけを自供するから、留美の三年前のことには手が及ばないようにすることをすでに考えていたためだろう。

■戸島について
文庫版のP90で、冷凍機により従業員が危険な目にあっていたというエピソードが語られている。

並木と戸島は、湯川と草薙の対比だろう。

■宮沢摩耶について
直接的な表現はされていないが、共犯の一人だと考えられる。文庫版のP336で沈黙罪の話をしていることもそれを示唆している。チーム菊野がパレードで4位になったのも、手をまわしたと考えても違和感がない。文庫版のP333で、3位以内ならもう一度出番があると記載がある。念のため、宝箱に出番がないようにした可能性も考えられる。

■宝箱の謎
文庫版のP138で「宝箱同士がぶつかる音にも迫力があった」とあるが、重石が入っていたためだろうか、もしくは液体窒素が入っていたためだろうか。文庫版のP329で、刑事が宮沢摩耶を訪ねた際、宝箱は「ぽんぽんと軽薄な音がなった」と記載があり、印象が違う。

■検察審査会
文庫版のP194で、湯川が検察審査会の話で「クジに当たったものがいる」と言っているが、これが本当かは不明。

■ミルク
文庫版のP259で、留美が組んでいたバンド「ミルク」について描写されているが、ここまで掘り下げられている理由は何だったのだろうか。留美が事件の真相に直結していることが関係しているのだろうか。

■高垣の上司、塚本
文庫版のP340で、高垣の上司である塚本が「君は事件とは関係ないんだろうな」と言っていた。その後、刑事に連れていかれる高垣をみて唖然としていたとある。一見すると、まあそうなるだろうという感じもするが、もしかすると塚本も共犯の一人なのかもしれない。モブならここまで描写する理由がない。役割としては、高垣に田中、佐藤と一緒にパレードに出かける口実を作る目的だったのかもしれないが、もちろんアリバイ目的ということは塚本は知らなかっただろう。

■容疑者Xの献身
文庫版のP463で、「真相を暴いたため、その女性は両親の呵責に耐えられなくなり、結果的に彼の献身は水泡に」は容疑者Xの献身のことだ。

■ギター
ラストで湯川がギターを弾いて、付け焼刃がばれてしまうと言っているが、映画で福山雅治にギターを弾かせるためだけの演出だろう。

と、長くなったが、真相も心情も複雑な一冊だった。

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