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拝啓、2019年12月8日の私へ

お元気ですか。リーグ優勝、おめでとうございます。
昨日はよく泣きましたね。
サポーター友達と抱擁をかわし、握手をし、お世話になっている先輩の服を涙と鼻水で汚し…どれも今の私でも鮮明に覚えている、いい思い出です。
あ、そうそう。後になって先輩からクリーニング代を請求されたりはしてないので、ご安心を。

「祝勝会挨拶ばっかしてたけど、本当はもっと感情をぶちまけたかったなあ」「そもそも優勝したって実感、正直全然ないなあ」
なんて、忙しない祝勝会ラッシュの中で思ったでしょう。
それも余計な心配です。
シーズン振り返りDVDをしこたま見ては泣いたり、予期せぬ補強のニュースに小躍りしたりする日々があなたを待ってます。
優勝の実感とDAZNマネーの凄さは後から来るんです。
2019年とは違った楽しさが2020年で待ってます。

ですが、リーグはまだ1節しか消化していません。
ACLも2試合やったくらいです。オリンピックは延期になりました。
あなたが聞いたことすらないようなウィルスが、我々が愛してやまない「サッカーのある日々」を根こそぎ奪っていきました。

サッカーどころじゃなくなってしまったんです。

「日常」と思っていたことがほとんど全部変わってしまいました。
少しずつ外堀を埋められるように、暮らしは変えられて。サッカーを見ることも、友達に会うこともできなくなり、ついには家から出ることさえままならなくなりました。
もっとも幸い生活に困ることはなく、知り合いは皆元気そうですし、仕事もできてます。ただ、Jリーグはありません。
あなたと同じで私も大概嘘つきで、よく口から出まかせを言ったりしますが、こればかりは本当です。

けれど、嘘みたいな本当でも、案外慣れてしまうものです。

「多趣味だから。」
「サッカーがなくても大丈夫。」
だなんて言って、違う娯楽に耽りました。
やらずに置いていたゲームを引っ張り出したり、気にはなってたけど観てなかった映画を観たり。案外時間は過ごせました。

そんなことしているうちに、私はすっかりこの「サッカーのない”新しい日常”」という、炭酸も抜けてぬるくなったコーラみたいなものに慣れてしまいました。
甘い味はあっても、ただそれだけ。
弾ける泡のような感情の起伏もなく、とってつけたような笑顔して、甘ったるい時間を飲み干す日々を送りました。

でもそのうち、自分の言葉が嘘なのか、それともサッカーのことばかり考えてた日々が嘘だったのか区別がつかなくなったんです。
自分の視界からサッカーがなくなったわけではありません。
過去の名試合の配信もあったし、その良し悪しに関わらずサッカー談義もありました。
けれど、そのどちらに対しても、以前ほど興味が出なかったんです。イスタンブールの奇跡を見て酔いしれる気も、良し悪しに関わらず展開されるサッカー談義に首を突っ込んで一言物申す気も(面倒ごとが嫌いなのでそれは元から無かったかもしれませんが)、まったく湧いて来ません。
いい歳して恥ずかしい話ですが、「自分で自分がわからない」なんて理由で眠れなかった日もありました。

脇目も振らずサッカーに没頭し、依存し、愛し尽くした挙句、喜びに涙を流した2019年のあなた。そうなれない私。
白状するとあなたを羨み、妬みました。何度も。

別の娯楽に慣れた時、配信されている過去の試合を観てました。
別に好きなチームのゲームでもありません。どこのゲームだったかも覚えてません。だから最初は流し見するつもりでした。TLに出回っているからとりあえず、くらいの浅い動機で見始めたつもりでした。

でも、時間が経つにつれ徐々に映像を食いついていく自分に気付きました。
映画を観ても、好きな本を読んでも得られない没入感。
徐々に独り言を漏らすようになり(あなたもよくやると思いますが)、しまいには大好物のFWのプルアウェイからパスがちょっとズレたのを見て「ああ、惜しい!」と大きな声を出してしまったり。

90分経ったあと、ひとつの確信を得ました。「自分にとってサッカーに優る娯楽はない」と。

何を今更。いい歳になって、こんなことしなきゃ自分の好み一つ確認できないのか。などとお思いでしょうが、この紆余曲折は色々なことを教えてくれました。

例えばよく漠然と「サッカーが好き」と言ってきましたが、今ならもう少し具体的にどんなサッカーが好きか言葉にできます。好きが具体的になると、いかに「好き」によって自分の思考に癖がつけられていたかがわかります。
いま「いいサッカー」と思っているもののいくつかは、かなり極小的で単に「好きなサッカー」なんです。
自分は好きじゃないけれど、いいものはいくらでもあるんですが、それを「いいものではない」と言って見逃していたりします。

2019年を生きるあなたは”個人の質の集合だなんて楽しくない”なんて言ってた忌避してましたが、いまの私はバイエルンもウキウキしながら観たりしてます。信じてくれないでしょうが本当です。
あなたと同じで私も大概嘘つきで、よく口から出まかせを言ったりしますが、こればかりは本当です。

そんな紆余曲折を経て、私はあなたを羨むことをやめました。
きっと今なら、あなた以上にサッカーを楽しめると思えたからです。

そろそろプレミアリーグもJリーグも帰ってきます。大好きなリバプールやマリノスのサッカーも帰ってきます。
スタジアムには行けませんが、サッカーは帰ってくるんです。
私自身が紆余曲折を経た分、ゲームをもっと楽しめるだろうし、次に拝むシャーレはもっとまばゆいものになるでしょう。

あなたはいまサッカーがある喜びを噛み締めていてください。
その喜びの輪に、私もじき戻ります。

それでは、いつかスタジアムで。

…話が長い?結びがクサい?お互い様です。


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