ボイスドラマ制作側のキモチ
お恥ずかしながら、私も10年前くらいにサウンドプロデューサーと名乗りまして、某PBWにてボイスドラマの編集やボイスアクターさんの選出などに関わったことがあります。
最近もボイスドラマの制作はしたんですが……たぶん1年前ですかね。皆さんにも見ていただきたいので、こちらに掲載しますね!
和風WTRPG「舵天照 DA-TEN-SHO」の二次創作「天儀異聞録」の前日譚として制作したボイスドラマであり、登場人物は3年後の「天儀異聞録」にも登場します。
どのくらい和風だったかは、アーカイブページがありますので、ぜひそちらをご覧ください!
さ、ひとしきり「いちおう関係者でした」というアリバイを証明したところで本題です。
ボイスドラマの制作陣だって悩んでる!
昨日の深夜……
私はある場所で「ボイスドラマの制作陣もツライんだよぉ~!」と熱弁していたのです。
で、昼過ぎに起きた時にそのことを思い出したので、3連休の最終日にこんなツイートをしたのです。
それを踏まえて、制作陣目線で見た「ボイスドラマに応募されるネット声優さんに向けたアドバイス」みたいなのを呟いたわけです。
そこから日課の「市川智彦のボイスドラマ視聴紀行」の作業に入ったのですが……個人的には「ちょっと反響が大きいな……」と感じたので、しっかりと記事にまとめておこうかなと思った次第です。
実際にビュー数は、数字だけ見たらそんなに伸びてません。ただ、3連休終わりのSNSの表示頻度なんてこんなモンですし、逆に「むしろ多くない?」と誤解する程度には焦ったわけです。
だから、改めて「ボイスドラマ制作陣は、実はこのように苦しんでいる!」というドキュメント日記を記録しておこうと思いました。
ただ、賢明な皆さんならおわかりかと思いますが、これはボイスドラマ制作陣の一部のご意見や実体験であり、ボイスドラマ界隈で絶対的に通用する不文律ではないということです。
しかし、掲載したツイートに「芸術は不正解はあるが、正解は数多ある」と書いています。少なくとも不正解を回避する手段には使えると思うので、興味のある方はこの先もお付き合いくださると幸いです。
制作陣から見た応募について
まず、感謝しかない。
ネット声優さんの競争倍率が高いのを承知の上で、制作陣はいつも決められた枠の募集をかけています。本当はね、マジで応募者全員を起用したいんです。でも、それやったらボイスドラマ作る暇がなくなるので、断腸の思いでキャスティングをしているのです。
スタートラインに立つために必要なコト
応募者さんの熱意に満ちた文章やサンプルは、隅々まで拝見します。
しかしながら、ボイスドラマ界隈においても「不正解の存在する世界」であることはご理解いただきたい。つまりボイスドラマ作品をご提供する皆様に対して、視聴や聴取に耐え得るだけの要件を満たして頂けなければ、スタートラインにすら立てないということです。
では、どのような要件が必要なのか?
既存のサンプルを提示する場合、古くとも半年以内に収録されたモノ。
収録サンプルに、除去不可能なレベルのノイズが入っていないモノ。
制作陣が提示したキャラを把握し、ストライクゾーンに入っているモノ。
この辺を注意して頂ければ、制作陣がサンプルを聞かないということはほぼありません。つまり、この段階で不正解を弾いているということになります。
よーいドンした後で声優さんが有利になるコト
視聴や聴取に耐え得るサンプルが提示できたら、残った応募者たちとの競争になります。応募の規模にもよりますが、この段階で「最終選考に残すかどうか?」を判別します。
ここでネット声優さんの誤解を解いておきたいのは「必ずしも、演技がお上手じゃないから落ちる」というわけではないということです。皆さんは「そんなバカな!」と驚くかもしれませんが、本当です。
だって、最終選考では「とんでもなく演技がお上手なんだけど、今回は見送る」ということすら起きるのですよ?
でも、ご安心ください。
日頃からお世話になっている皆さんに向けてのアドバイスというか、今後の活動にチャンスが見出せるかもしれないヒントをいくつか書いていこうかと思います。
サンプルを提出する際、礼儀正しい文章で応募することを心がける。
もし応募の役にこだわりがないのなら「他の配役でも構わない」と書く。
制作陣に伝えたいことがあるなら、長文になってでも素直に書いて出す。
もし起用を見送られても、致命的なミスがあったかどうか尋ねてもいい。
制作陣だって、人間です。
応募の文章を見た時に「サンプルの直リンクだけバーンと貼ってあるだけ」のモノと「この度はお世話になります、○○と申します~」と始まってるモノを見た時の反応なんて、もはや説明するまでもありません。
だから、才能以前の部分で生き残れてない方も一定数おられます。
制作陣としては「チームを組んで作品制作するから、円滑にコミュニケーション取れる人と組みたい!」と考えるのは、至極当然の発想です。お互いに尊重し合える関係を築けそうと思ってもらうこともまた、配役を得ることには不可欠な要素になります。
応募で長文になってしまうことは、必ずしもマイナスには作用しません。ほとんどの制作陣は、応募の文面を最後まで丁寧に読んでます。
むしろ、いろんな段階で競争が起こった時、制作陣は「その長文からあなたの情報を得るかもしれない」のです。制作陣も手が空いていれば、応募者の情報を探しに行ったりもしますが、応募文に情報があるのなら手間も省けますし、一概に「長文の応募は悪手」とは言えないのです。
特に制作までの時間が差し迫っている時など、制作陣に余裕がない場合は下手すりゃ長文のアピールが決め手になる可能性すらあります。
起用を見送られた場合、気持ちが落ち込むのは本当によくわかります。制作陣だって、どこか隙間があったら起用したいですからね……
理由もわからず、とにかく闇雲に応募しまくる前に「今の自分がどの状況に置かれていたか?」を制作陣に尋ねるのも、実はアリです。これも見抜き方があります。
返信の内容がアッサリしていたら、さほど上の段階まで行ってない。
返信の内容がわりと詳細、もしくは長文なら、かなり惜しかったかも?
ボイスドラマの制作陣は不思議なもので、最終選考の惜しいところまで進んだ方への返信には「どこか言い訳じみた、懺悔のような長文が付与されることが多い」気がします。その真意は「ホントは起用したかったんだけど……」という制作陣の未練がほとんどなのです。
なので、お辛いとは思いますが、採用の合否を伝える文面が長いか短いかを確認する作業だけは、必ずやっといてほしいです。もし、手元に長い文面の返信が多いようなら、後はご縁を待つだけの状態だと思います。
各配役に2~3人ずつ最終選考に残している
制作陣は各配役に対して、2~3人程度を演技を並べて配役を決定します。ちなみに他の役とダブってエントリーされるケースもあるので、実際に残る人数はその時々に応じて上下します。
ここからが制作陣にとって、胃の痛い作業となります。
さっきからずっと言ってますよね……そう「正解は数多ある」のですから、それを決めるというのは「よりよい可能性を自分で選択する」わけです。いい作品に仕上げるには、どなたにお任せするのが正解なのか……制作陣は本当に悩み抜きます。
そんな「お前ら、何を偉そうに……」とお思いの方?
正解が数多あるということは、言い換えれば「ここから先に、明確な答えは存在しない」んです。制作陣の皆さんがね、今まさに画面の向こうでこう言ってます。
「正解があるっつーんなら、今すぐに教えてくれよ!!」
さながら人生のよう。産みの苦しみとは、ここまで俺たちを狂わせるかとばかりに、遠慮なく痛めつけてくるんですよ。
ネット声優の皆さん、前項で試すべきコトを思い出してください。
この項目は最終選考に辿り着いた時においては、とんでもない武器に早変わりするんです。チームで制作するにあたって人当たりがよさそうな印象があったり、希望する配役じゃなくてもいいとか書いてあったら……そういう部分で起用を判断してもらえる可能性があるのです。
つまり、この項目で何が言いたいのか?
それは「ここまで来たら、ほぼ運任せに近い」んです。よっぽど役にハマっていた場合は例外ですが、それ以外は「ご縁があるかないか」のニュアンスが強くなります。
制作陣のつながりで思わぬコトも?!
こうして、ボイスドラマの選考も終わり……と思うじゃないですか?
我々だって才能豊かなネット声優さんとご縁がなかったのは悔しいし、どっかで使いたいし、いつかは起用したいけど直近では忙しいし……となった時、他の制作陣が困ってる時にコッソリ推薦したりするんです。
そう、そこまで残った人の名前は何らかの形で記録してあって、いざという時のために残してあるんです。誰でも持ってます、秘密の手帳を。
そこから思わぬ形でオファーが来たりすることは、ごく稀に起こります。なので「果報は寝て待て」ということも起こり得ますよ、と言い添えておきます。
将来性に賭けた配役をすることもある
最後に。
先述しました「いかに演技がお上手な方でも起用に至らない場合がある」について言及しておきます。これの理由は、わりとシンプルです。
別にウチの企画じゃなくても、別の制作陣が起用するだけの実力がある。
応募された役が不釣り合いで、もっと難度の高い役をお願いしたかった。
将来性を感じさせる演者を起用する都合で、ふさわしい枠がなくなった。
こういった方の「ホント、この企画に参加したいんですッ!」という気持ちは痛いほどわかるのですが、制作陣としては「お上手な方にはもっと華やかな役柄を演じてほしい」という気持ちがあるのも事実です。
そして最後の項目に付随するのですが、最終選考で天秤にかけた結果、「この声優さん、今は力量はないかもしれないけど、この役に据えることで化けるんじゃないかな?」と考えることも、往々にしてあります。
そうなった時に考えるのが「別にウチの企画じゃなくても~」になってしまい、必ずしも配役を得られない危険性もあるという結論に至る訳です。
そういった方への連絡は、例によって「未練タラタラの長文懺悔メール」になっているでしょうし、もしかしたら「次回出演確約」とかの約束もあるかもしれませんので、どうか前向きに捉えていただければ幸いです。
えーっと、参考になりました……?
誰が読むんだよ、こんな長文!
あと、制作陣もうちの記事では運営陣も褒めちぎるから、こっちの企画への自薦他薦も待ってるぜ!