「やがてアートは消える」

自分自身が20〜30代の頃(1980〜90年代)はまさに現代アートもブームと呼べる時期で、様々な才能が開花した時期だったのではないかと思う。当時の熱狂を知る者にとっては、今日の状況は寂しいものがある。当時、この先どういった才能(スター)が現れてくるのかと、ワクワクしていた身からすると肩透かしをくったような気分である。もちろん今日においても特筆すべき作家の方はいらっしゃると思うのだが、熱狂とは言い難い。そもそもこのポストモダンな社会も2020年終盤となり、社会はより多様でより複雑化しているため、30〜40年前より熱狂やスターは現れづらいとも考えられるが、一考として当時の美術手帖と近年の美術手帖の特集内容を比べてみると、近年では個々の作家、作品にフォーカスするよりは、よりアートと社会との関係性の中でのアートが語られているように思う。

[1980年の美術手帖特集]
1980年1月号 特集 アート&イリュージョン 
1980年2月号 特集 身体の宇宙図タントラ 
1980年3月号 特集 美術に拠る写真、写真に拠る美術
1980年4月号 特集 生誕140年 オディロン・ルドン 
1980年5月号 特集 ファッション 
1980年6月号 特集 パロディー再考 
1980年7月号 特集 TOKYO 1920s 
1980年8月号 特集 マチスの切り紙絵 
1980年9月号 特集 ガラス透写 火溶粘色透映明鋭割 
1980年10月号 特集 フィレンツェ メディチ家の舞台
1980年11月号 特集 地図 私たちは何処に居るのか
1980年12月号 特集 ピカソのキュビスム 美術出版社

[2019、2020年の美術手帖特集]

2019年2月号 特集 みんなの美術教育
2019年4月号 特集 100年後の民藝
2019年6月号 特集 80年代★日本のアート
2019年8月号 特集 塩田千春
2019年10月号 特集 アーチストのための宇宙論
2019年12月号 特集 「移民」の美術
2020年2月号 特集 アニメーションの創造力
2020年4月号 特集 「表現の自由」とは何か?
2020年6月号 特集 新しいエコロジー
2020年8月号 特集 ゲームxアート
2020年10月号 特集 ポスト資本主義とアート
2020年12月号 特集 絵画の見かた


また西洋美術史の大概要をまとめると、

・写実主義中心の古典絵画の時代
・宗教絵画の時代
・作家、作品が中心となり表現の幅が広がるー印象派、抽象絵画の出現
・マルセル・デュシャン「泉」による現代美術の幕開け
・そして表現は多様の一途へ、
さらに今日ではビジュアル共有(Instagram、YouTube)の時代へ

また、視覚芸術、ビジュアルコミュニケーションの点から考えると、

「記録」の時代
 ↓
「表現」の時代
 ↓
「観念(思想、アイデア)」の時代

そして現代は「観念(思想、アイデア)」の表現としての現代美術の時代
へと移ってきているのではないだろうか。

当初の「記録」だけで考えれば現代は写真や動画が溢れる時代であるので、視覚伝達という点(機能、役割)においては、アートではなく写真やビデオなどのSNS(Instagram、YouTube)での共有に移ったのではないかと考えている。

そうなると「個」の表現のみが残されているが、それは幼稚園児の「お父さんの似顔絵」も高等教育を経た作家の作品も同じ尺度で見ることである。

しかも、もはや分かりやすく額縁に入って、美術館に飾られているだけが美術作品とされないことは十分認識されている時代であり、それはアート自身が選択してきた進化であり、逆にそれが視覚芸術自身のアイデンティティを弱めるという矛盾を孕んでいる。つまり、観念的であればあるほど、(いわゆるかつての美術作品然とした)美術作品から遠ざかっていく。

アートとは額縁あるいは美術館という容器(あるいはその考え)に入っていた脆いものであり、一旦自分自身でその額縁、美術館からはみ出た、あるいはその額縁を壊してしまったため、社会の中に分散してしまった(しまう)のではないか。

アートは社会の中に溶け込み、やがてその姿を消していくのではないだろうか。丁度、ジョン・ケージの『4分33秒』のように。


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