偏愛 -策士策に溺れる-

 エイジは修学旅行にもう一台カメラを持って行った。

 写真部員としての活動は一眼レフ、minolta SR-3の出番。
釜山の街の市場の様子などを撮った。
そして、クラスの記録写真を撮る使命もあった。
同じカメラを使ってもよいが、一眼レフにはモノクロフィルムが入っている。クラスの写真用として割り当てられるのはカラーフィルムだ。
なので同じカメラとはいかないのである。

 実は、エイジが父親ヒサジから預かったカメラはSR-3だけではなかった。
ヒサジから引き継いだ写真用品の中には、1つのコンパクトカメラが入っていたのである。
それは、「RICOH AUTOHALF S」。
その名が示す通り、いわゆるハーフサイズカメラである。
35ミリフィルムを使うけど、その一コマ分の半分が撮影サイズ。
つまり普通のカメラの倍撮影可能な訳である。ただし、普通にカメラを構えると縦長に撮れる。横長の一コマを縦に半分に割るのだからそういうこと。
感光面のサイズが小さくなるので画質は少々落ちるが、どうせサービス版(L版)にしかしないのであるから問題はない。
それよりも通常の倍のコマ撮ることができると言うアドバンテージの方が大きいのである。

 ハーフサイズカメラと言えば、OLYMPUS PENシリーズが有名だが、このリコーオートハーフも中々どうして独創的である。
レンズは単焦点(26/2.8)で固定式だけど、フィルムの巻上げに特徴がある。普通のカメラと同じように裏蓋を開けてフィルムをセットし蓋を閉じる。一般的にはフィルムを巻上げて撮影することになるが、このカメラには巻上げレバーが無い。その代わりに巻上げ軸上にダイヤルが付いている。
巻上げ軸にはゼンマイが仕組まれており、フィルムをセットした後にこのダイヤルをグリグリと回してゼンマイを巻上げておくと、シャッターを押して撮影が終わるとこのゼンマイの力で次のコマまで自動的に巻上げられるのである。なので連写も可能であった。

 エイジはこのカメラを修学旅行に持って行った。
他のクラスよりも多くの写真を撮ることができる。したたかな思いであった。行きのフェリー船上での様子や、入国後様々なところに行った様子などフィルムの残数を気にすること無く友人たちの写真を撮った。
ところが、帰国後に現像から上がったものを見てエイジは愕然とする。
ほぼほぼ撮れていなかった。
どのコマも画面の半分ぐらいしか像が見えない。
どうやらシャッターが完全に開いていないものと思えた。
原因が何であるにせよ、まともな写真が無いという結果は現実であった。
同行カメラマンの撮った数枚しか記念になるものはない。
エイジは友人たちに詫びるしかなかった。

他のクラスよりもたくさんの写真を残す、と言う目論見は見事に外れ、他のクラスよりも劇的に少ない写真が残ると言う結果に終わったのである。


画像1


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?