偏愛 -黄色い世界-

 エイジが父ヒサジから借りた写真用品の中には3本のレンズがあった。 いわゆる標準、望遠そして広角の3本である。

 ミノルタのカメラなのでレンズもミノルタ、ROKKORレンズである。
レンズコーティングが緑色に見えるので、「緑のロッコール」と呼ばれていた。

 エイジがヒサジから写真やカメラのことで教わったことはあまり無い。
その数少ない事柄の中で最初に聞かされたのが、「このレンズの名前はロッコール。あと、ニコンのニッコールというレンズがある。この2つが良いレンズ。」
かなり偏った意見である。
ただ、ヒサジが若い頃に撮っていた写真のジャンルは「ヌード」であった。
撮影会などに出掛けて撮っていたようである。
ならば納得。
女性を撮るならロッコールのほうが柔らかい描写で向いている。
かの篠山紀信先生もミノルタの愛用者であった。
対して、ニッコールだと肌の毛穴まで写ってしまうかもしれない。

 エイジが借り受けたボディのSR-3には標準レンズが装着されていた。
「AUTO ROKKOR-PF 55mm F1.8」であった。
「AUTO」とは、自動絞りを示している。
今では当たり前だが、ピントを合わせる時は開放状態で、シャッターを切った時に自動的に選択された絞り値まで絞り込まれる機構である。
この機構が無いレンズは少々面倒な儀式を強いられることになる。
「-PF」とは、レンズ構成を示していてこの場合は5群6枚を表す。
わかり易いモデル表記だったが、残念ながらMC-ROKKORシリーズから無くなってしまった。

 そして、このレンズの先端には黄色いフィルターが付けられていた。
なのでファインダーを覗くと黄色い濃淡の世界が広がる。
最初はそういう黄色い光に包まれた写真を撮るためのものだと思った。
なぜなら預かった品々の中には赤いフィルターもあったからである。
さすが元ヌードフォトグラファー。妖しい技を駆使していたのか、と。
しかし、やはり一応確認してみないといけない。
「この黄色や赤いフィルターは何のためにあるのか?」
ヒサジに問うと、「白黒フィルムの時に付けるとコントラストが上がる。」という答えが返ってきた。
安心した。妖しい技ではなく普通の技のようである。
しかし、実際このフィルターを付けた状態では非常に使いにくいものであった。すべてが黄色い世界なのだ。
昔の暗いファインダーの上に黄色一色で着色された中でピントを合わせないといけない。
どんな効果があろうとも自分には使いこなせないものだった。
二眼レフやレンジファインダーと言った、撮像の光路とファインダーの光路が別のカメラだと使えたのであろう。


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写真を撮り始めて40年。 楽しみながら写真の道を歩み続けて今や「道楽」。 そんな道に迷い、出口の明かりが見えない暗闇の中で綴る遺言。
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