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ある不動産屋で中古一戸建てを買おうとしたけどヤメにした話

最近、家賃が高くて貯金を切り崩しながら生活している状態が続いているため、中古の家を住宅ローンで買って、月々の支払い額を抑えようと考えていた。良さそうな物件が見つかったものの、不動産屋への不信感から、その契約書にサインをする直前でヤメにした。そんな顛末記である。

予め書いておくと、もちろん、その不動産屋が100パーセント悪いというわけではないだろうと考えている。大方は、お互いに信頼の構築に失敗したということである。そして、不動産屋から見れば、僕はモンスター乞客だったのかもしれないし、葱を背負っているくせに鍋に入らない鴨だったのかもしれない。その答えは風の中にある。

いざ物件探し

思い立ったのは2月頃だった。

いつものようにマネーフォワードをチェックしていると、今月も生活費が赤字だった。家賃が収入に見合わないほど高いというのが主な理由だ。総資産額の推移グラフを見ると、全体としては綺麗な直線を描いて資産総額が減少していることに気がついた。この調子では、あと数年もせずに借金で借金を返す生活がやってくる。さすがにこのままではいけない。

そこで家を買おうと決めた。

月収から予算を逆算し、月々の支払が4~5万円となることを目標に設定した。

当初は500万円、ローン10年で買える物件を探していたのだが、リフォームの費用を考えると結局高くなってしまうことから、1000万円/20年で買える家まで対象を広げた。

そして、その物件は京都府某市のとある場所に見つかった。やや外壁の痛んだ中古住宅であったが、リフォーム費用を含めて1000万円に収まりそうだった。

ここだ、と思った。

予兆は1ヶ月前に

予兆は1ヶ月ほど前からあった。その不動産屋からは「建物の価値はゼロとした価格ですよ」という話を伺っていた。つまり、いわゆる「古屋付き土地」扱いの物件である。築24年の軽量鉄骨造りと考えると当然であろう。

しかし、建物の価値がゼロだとしても、そこに住むのだから安心はしておきたい。そこで、建物検査とまではいかないが、改修費用の見積もりぐらいは出来るだろうと、『知人の大工を連れて行きたい』と家族が連絡を入れた。直接その会話を聞いていたわけではないが、不動産屋はそれを渋ったと聞いている。

「別に来て貰っても良いが、売主は法的に告知義務があり、もし瑕疵があれば瑕疵担保責任が発生するから安心である。○○(有名メーカー)の家だから大丈夫。来て貰う必要はない」

というものだった。(聞いた話なのでどこまで正確かは分からない)

その時に違和感を覚えたが、関係のない第三者を連れて行くのは売主が嫌がるのかもしれないし、そもそも大工を連れて行ったところで法的に意味のある建物検査ができるわけでもなく、費用の相見積もり以上の効果はないだろうと考えた。そして、何よりも又聞きである。

不動産屋の意向を尊重することにした。

なぜか住宅ローン事前審査申込書の記載を無視

不信感が重なっていく出来事はもう一つあった。住宅ローンの事前審査である。その不動産屋経由で、その不動産屋が提携している、とある金融機関から住宅ローンを借りることとした。

それで、僕はその事前審査申込書に以下の事を記載した。

1.審査結果は本人または家族のみに伝えること
2.全期間固定金利とすること
3.元金均等返済とすること

今は金利が安く、今後の金利上昇リスクが高いと考え、全期間固定としたほうが良いと考えた。そして、元金均等返済にするのは、万が一の時に借り換えがしやすいようにと考えてのことである。もしかすると銀行にとっては不利な条件かもしれないが、普通、申込書にそう書けば、その通り審査されることを期待するはずだ。

ところが、審査結果は、不動産屋からの電話で返ってきた。

「事前審査OKでした。金利は変動金利で0.XX%です」

いや待てよ。
大丈夫かよ、その金融機関。

と僕は思った。

この時点で、その金融機関は個人情報の利用同意の範囲を逸脱しているのではないか。まあどのみち不動産屋は結果を知ることになるのだから、クレームを付けるほどの問題ではないが、審査結果の通知先として、本人、家族、(確か)提携業者の選択の中から、本人と家族だけを選んだにも関わらず、結果は不動産屋からもたらされたのはどういうことだろうか。まあ、不動産屋は提携ローンの申込窓口として、事前審査申込書のどこかの規約にうまいこと書いてあるのだろう。手元に控えがないので検証はできないが……。

で、思い出して欲しい。僕は全期間固定金利で申し込んだはずだ。なぜ審査結果が全期間変動金利となるのだろうか。不動産屋に、

「全期間固定金利で審査するよう申し込んだのだから、その通りにして欲しい」
と言った所、しばらくして

10年固定なら1.XX%で審査が通りました。全期間固定は別途審査が必要なので、契約締結までには結果が分かると思います」
という旨の回答が返ってきた。

そこで、
「では、全期間固定で審査をお願いします」
と伝えて、その場は終わった。

この件を通じて、僕は不動産屋と金融機関の両方に小さな不信感を抱くに至った。もちろん、全期間固定で審査落ちするのなら別に良いのである。だが、それはそれで「変動金利じゃないと通らない」と教えてくれたら良いはずだ。この件に関しては、不動産屋も金融機関も対応を誤っていると思わざるをえない。

住宅ローン減税を受けたい! 既存住宅売買瑕疵保険があるじゃない!

それを知ったのは、契約締結日の少し前のことである。

通常、住宅ローン減税は築20年を超える中古住宅には適用できない。しかし、既存住宅売買瑕疵保険の付保証明書があれば、適用できるという情報を得た。

実際の所、少し古いインターネット情報なので、どこまで正しいのかは知らない。調べたところ、最近ではもう少し制度が改善されているという情報もある。

もちろん、実際に制度が上手く活用されているかというのも分からないし、保険料や保険を通すための修繕費を誰が負担するかという問題はあるかもしれない。しかし、この保険を使えば売主も買主も安心である。そして、当初希望していた建物検査も行われるし、その過程で修繕できれば安心して住めるに違いない。

そこで、契約の2日前、契約書の記入のために訪問して欲しいという不動産屋の電話に対して、

「なんとか瑕疵保険(その時言葉が出てこなかった)に入れば築24年でも住宅ローン減税の対象となると聞いた。この保険の適用に必要な手続きを調べておいて欲しい」

と伝えた。不動産屋は既存住宅売買瑕疵保険のことを知らないようだったが、こちらが強くお願いし、不動産屋は了承した。

それと並行して、こちらでもどのような制度なのかインターネットで保険会社のパンフレットを読むなど、頭に情報を叩き込んだ。

いざ契約の日! しかし——

契約当日。

重要事項の説明が始まる。ひとつひとつの項目に丁寧な説明をしていただく。だが、浸水想定区域に指定されているという部分を読み飛ばされたとき、不信感が一つ積み重なった。(指定されているのは既に知っていたけど)

そして、「家の部分の価値はゼロだから瑕疵担保責任は負わない」という旨を説明された。

……あれ?

当初、告知義務と瑕疵担保責任があるから安心だという旨を聞いていたはずだが……。(もちろん又聞きなので正確とは限らない)

もちろん、契約次第で瑕疵担保責任の期間を短縮したり免責とできることは知っている。こちとらIT業界人である。瑕疵担保責任の怖さは知っている。古屋付き土地扱いで売買するなら、まぁ、分からなくもない。だから相場に比べて安くなっているというのも理解ができる。が、前に言ったことと矛盾しているではないか。

それに、いくら古屋付き土地といっても1000万円級の買い物である。ちょっとぐらい安心を付けてくれても良いのではないか。ここで思い至る。後で既存住宅売買瑕疵保険について説明があるに違いないと。だから、念押しとして瑕疵担保責任免責とするのだろうと。

もちろん、その期待は裏切られることになる。
重要事項説明書にサインをした後、契約書へのサインに進もうとした。

だが、待てど暮らせど既存住宅売買瑕疵保険の説明がない。そしてよく見たら、重要事項説明書に記載されているローン利率が変動金利の「0.XX%」である。了承したはずの全期間固定金利での審査は行われていなかった。

既存住宅売買瑕疵保険について調べたかと尋ねると、不動産屋は、「その保険は知らないが、売主や仲介業者にとっていかに瑕疵担保責任が怖いか」ということについて切々と語り始めた。調べておいて欲しいと言って了承したにも関わらず、不動産屋は調べていなかったのである。こちらから、詳しく知りもしない保険の概要や仕組みを説明する羽目となった。

その後、何度も繰り返し瑕疵担保責任の怖さについて説明を受けたが、そんな事は聞いていない。重々承知している話だし、買い手保護に偏重している現状に同情すらするが、そもそも論で言えば買主にとってはどうでも良い話である。けれども買主の得だけでなく、売主や不動産屋に配慮できるからこそ保険加入をお願いしているということである。(その保険が、実際の所どの程度役に立つのかは知らないが)

そこで「保険について売主の意向を確認してほしい」と何度も繰り返した。詳細なやり取りをここに書くと面白いのだが、まぁ、それを公開するのはさすがに問題もあろうから省略する。

そして、僕はだんだん腹が立ってきたので、最後に以下のようなことを言った。

僕「僕もソフトウェア業界にいるので、瑕疵担保責任の怖さについては身を以て知っています。でも金持ちじゃないし、安い買い物じゃないわけですから、住宅ローン減税の対象になり得るなら試して見たい、検査で建物の状況を知っておきたいという、別に至極真っ当な事を言っていると思うんですよね」
不動産屋「……(ニコニコ)」
僕「費用負担を誰がするかも含めて、売主さんの意向を聞いて、それを踏まえて判断したいので、まずは電話で意向を確認してください」
不動産屋「……(ニコニコ)」

残念ながら、その要望に応じて頂ける雰囲気がなかった。

もちろん、既存住宅売買瑕疵保険について直近に知って、話が突然になってしまったのはこちらの落ち度でもある。保険会社に電話できない土日だったことも不運だった。不動産屋からすればこちらが直前になってコロコロと要求を変更する乞客に見えたことだろう。その気持ちは分かる。

けれども、直前に要求を変えたことを批判するのであれば、そもそも最初から瑕疵担保責任免責という重要な条件を伝えていない不動産会社の落ち度ではないのか。もうすっかり買う気は失せていたので、口にはしなかったが、そういうことである。

そして、こちらとしては人生を賭けた買い物である。一度失敗すれば、人生を棒に振るかも知れないレベルの買い物なのだ。言ったことをやっていない、曖昧なままで推し進める、自分の瑕疵担保責任だけを心配する、検査や保険を自己負担でやりたいと伝えても同意しない、そんな業者のために、自らリスクを受容するべきだろうか。

他にも色々な不信感が重なっていたこともあり、契約は中止とすることになった。

教訓

今回の教訓をまとめると以下のようになるだろう。

1.最初に感じた違和感を大切にしよう 
 (IT業界で養ったヤバイ案件センサーは、不動産売買でも役に立つ)
2.瑕疵担保責任免責かどうかを最初に確認しよう
3.既存住宅売買瑕疵保険に加入できるかを最初に確認しよう
4.検査を嫌がる不動産屋や売主は信頼してはいけない
5.言ったことをやらないのは不信感につながる
  (その逆も然り)

最後の項目は自分に関しても言えるので、そこは反面教師としなければならない。

IT業界に身を置きつつ、自主アニメ制作団体を主宰するという職業柄、契約書は一応隅々まで読み込むようにしている。理解できないことがあれば尋ね、意図を確認する。リスクがあればリスクに備える。これが功を奏したといえる。

でも、うっかり押し通されていたら、数ヶ月後の自分は悔し涙を流していたのだろうと思うと、恐怖を感じる。

繰り返しになるが、もしかすると不動産屋の主張が完全に正しく、僕はただのモンスター乞客なのかもしれない。法律や不動産に詳しいわけではないため、もし認識に誤りがあればぜひご指摘いただきたい。

ただ、本当に疲れた。
良い家は見つかるのだろうか。

家探しはまだまだ続く。