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『まくらばな』柳亭小痴楽、ぴあ

 柳亭小痴楽は昨年9月に落語芸術協会としては15年ぶりの単独真打昇進を果たした期待の若手。真打ちとなったいま本当は師匠とつけなければならないけど、まだ「小痴楽」「ちー坊」の方が本人も売れると思うので。

 小痴楽の魅力はなんといっても様子の良さ。故歌丸師匠が次の芸協のスターはちー坊だと決めていたフシがあるぐらいの華がある。文楽師匠(もちろん先代)も様子が良くてモテていたらしいが、いま一番様子の良い落語家は小痴楽だと思う。

 「枕花」は故人の枕元に飾る花のこと。亡き父の痴楽、歌丸師匠との思い出などを「マクラ(落語の前の小噺)」のように語る本です。単独昇進に合わせて上梓されたんだと思いますが、若いだけに家族の話しが中心。でも、単なる家族じゃなくて、父親が痴楽という落語家だったら、江戸の風が吹く、みたいな。

 なにしろ、小遣いをもらって、それを使わずに帰ると《「そんなセコい料簡の野郎だ」と方々に言いふらされて、ひと月はそれをネタにされる」》ような家庭。

 落語会の二次会で「昔から冬場にはこたつに四方から足をつっこんで家族四人で寝ていた」という話しを聞いたことあるんですが、今どき素晴らしいな、と。

 《「親父はよく、『仁義なき戦い』と『寅さん』さえ見てれば、学校なんか行かなくても人生大体わかんだよって言ってた」》というのも偉い!

 歌丸師匠との思い出話しはちゃんと落ちを付ける。嫌いな食べ物を回し回して誰が食べるかという場面で、最年少の小痴楽が指名される《ぐうの音も出なかった。そして勝ち誇った師匠が最後に言った決め台詞がすごいもんで ─私は会長です!  ここで香盤を出されるとは思わなかった》という呼吸はたいしたもの。 

 面白く読み切ったんですが、もう少し良さを紹介すると、例えば文楽師匠(先代)も当代小痴楽も『明烏』がいいんですよ。要するにオレはもてたよ、という噺だから様子がよくて少しチャラい感じのする噺家がやんないときまらない。いまどきの少し売れたと思ったら焼肉バクバク食べて太ってしまうような噺家がやってもシャレんならない(ちなみに、小痴楽の『明烏』はネタ下ろしの時に聞いているのが自慢)。

 噺家も落研出身の大卒が当たり前になってきた中、高校中退=中卒で古典中心というのも希少価値を高めている…なんていうけど、やっぱ、芸人なんでルックスが大切。文楽(先代)、円生、談志、志ん朝もみんな様子がよかった。様子が良ければ人気が出る。人気に溺れず精進していけば、評価が高まる、みたいな。

 閑話休題。

 愛する談志師匠が笑点の司会をやっていた頃のかけあいが強烈だった先々代?の小痴楽も破天荒で面白かった。
小痴楽「癲癇持ちの女との初夜とかけてビールととく」
談志「そのこころは?」
小痴楽「抜いたら泡吹いた」

なんてのも思い出します(当代の小痴楽と血縁関係はありません)。

ちなみに現役では入船亭扇辰、古今亭文菊の様子の良さが好きです。

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