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人的資本経営のその先へ③「HRスコアカードの創作」


あらすじ

登場人物

佐藤 優子(さとう ゆうこ)

  • 役職: HRマネージャー

  • 年齢: 38歳

  • 性格と特徴:
    冷静沈着で分析力に優れる一方、現場との対話を大切にする。HRスコアカード導入プロジェクトをリードする中で、スコアカードを単なる管理ツールではなく、組織文化を変革する手段として活用することに挑戦している。仕事に対する情熱とともに、部下への思いやりを持つリーダー。


山下 一樹(やました かずき)

  • 役職: CEO

  • 年齢: 55歳

  • 性格と特徴:
    先見性があり、変革を厭わないリーダー。HRスコアカードを企業全体の成長に結びつけることを期待し、佐藤にプロジェクトを託した。厳しい指摘をしつつも、部下に大きな裁量を与えることで信頼を示す。


渡辺 涼子(わたなべ りょうこ)

  • 役職: 製造部門のシニアリーダー

  • 年齢: 41歳

  • 性格と特徴:
    データ分析に長けたプロフェッショナルで、現場の改善活動を地道に進める実直なタイプ。新しい取り組みに前向きで、スコアカードを活用した製造プロセス改善のリーダー役を担う。チーム内では頼りがいのある存在。


高橋 真一(たかはし しんいち)

  • 役職: 営業部門部長

  • 年齢: 45歳

  • 性格と特徴:
    顧客志向が強く、顧客満足度向上のために部下と共に実務に積極的に関わるタイプ。スコアカードの導入に際しては、指標の具体性を重視し、実行力のあるリーダーシップを発揮。部門間の調整役としても活躍する。


田中 圭(たなか けい)

  • 役職: 製造部門課長

  • 年齢: 39歳

  • 性格と特徴:
    製造現場に深い理解があり、細部にわたる管理能力で評価されている。スコアカード推進チームの中心として、現場の意見を吸い上げつつ、改善活動を先導する。現場との信頼関係を築くのが得意。


中島 美咲(なかじま みさき)

  • 役職: 営業部門の中堅社員

  • 年齢: 33歳

  • 性格と特徴:
    顧客対応の経験が豊富で、柔軟なコミュニケーション能力を持つ。スコアカードの導入に不安を感じつつも、自分の価値が数字に限定されるのではないかと懸念している。チームでのディスカッションを通じて成長を目指す。


村瀬 智也(むらせ ともや)

  • 役職: 外部コンサルタント

  • 年齢: 50歳

  • 性格と特徴:
    スコアカード導入の専門家。理論的なアプローチを得意とし、プロジェクトの進行を支える。豊富な現場経験を活かして、フレームワークの提案や課題解決に貢献する。厳しさと優しさを兼ね備えた頼れる存在。


佐野 英二(さの えいじ)

  • 役職: 製造現場のベテランリーダー

  • 年齢: 52歳

  • 性格と特徴:
    長年の現場経験を持つ保守的な性格。数字を追求するスコアカードに最初は抵抗を示したが、対話を重ねる中でその意義を理解。現場の声を代弁しつつも、変革の必要性を認識している。


プロローグ:次なる要求

「佐藤さん、素晴らしい仕事をしてくれた。」

経営会議の終了後、CEOの山下は穏やかな笑顔で佐藤優子に声をかけた。半年間にわたる人事データの可視化プロジェクトが成果を上げ、DX研修の効果やリーダーシップ施策の成功が数字で示されたことで、佐藤と人事部の信頼は確かなものになりつつあった。

しかし、山下の言葉は続いた。
次のステップに進む時が来た。今後は、全社的な人事戦略を統合的に管理し、さらに成果を最大化する仕組みを作ってほしい。それには『HRスコアカード』を導入するのが良いと思うんだ。

佐藤はその場で応じたものの、内心は戸惑いを隠せなかった。「HRスコアカード」という概念には以前から興味があったが、それをゼロから設計するには膨大な時間とリソースが必要だ。そして、経営層だけでなく現場との連携が不可欠であることも分かっていた。


第一章:HRスコアカードとは何か

佐藤はオフィスに戻ると、早速チームを集めてHRスコアカードについて説明を始めた。部下たちは期待と不安が入り混じった表情で彼女を見つめている。

「HRスコアカードというのは、会社の人事施策と経営戦略をリンクさせるフレームワークよ。これを使うと、施策の効果を具体的な指標で測定できるし、経営層にとっても意思決定の助けになるはず。でも、これを実現するには、全社的な協力が必要になるわ。」

若手の渡辺がすぐに手を挙げた。
「面白そうですね!具体的には、どんな仕組みを作るんですか?」

佐藤はホワイトボードに図を描きながら説明を続けた。
「HRスコアカードには主に4つの視点があるの。財務的視点、顧客的視点、内部プロセス視点、学習と成長視点。それぞれに基づいて、私たちが何を測定すべきかを決めていく必要があるの。」

HRスコアカード

第二章:現場との葛藤

佐藤の提案を受けて、HRスコアカードの設計が本格的に始まった。しかし、最初からスムーズに進むわけではなかった。特に製造現場の田中課長は、新たな仕組みに懐疑的だった。

「また新しいフレームワークですか。これまでだって、いろんな施策が出てきたけど、現場にどれだけの成果があったか正直分からない。」

佐藤は田中の不満を受け止めながらも、彼を説得する方法を模索した。ある日の訪問で、田中がこう言った。
「優子さん、現場の人間は数字じゃ動かないんだ。何をどう変えるのか、具体的に見せてもらわないと。」

その言葉に佐藤はハッとした。現場が求めているのは、単なる測定ではなく、実際の変化だった。そこで、彼女はHRスコアカードを使って製造現場の効率を改善する具体的な提案を作成することを決めた。


第三章:データの力

外部コンサルタントの村瀬智也も再びプロジェクトに参加し、HRスコアカードの設計をサポートした。
「佐藤さん、まずは具体的なKPIを定義するところから始めましょう。例えば、製造現場の生産性向上を測る指標として、『不良品率の削減』や『プロジェクト納期遵守率』を設定するのはどうでしょうか?」

村瀬の助言を受け、佐藤とチームは以下のようなKPIを設定した。

  1. 財務的視点:DX研修後のプロジェクトコスト削減率。

  2. 顧客的視点:製品開発スピードの改善。

  3. 内部プロセス視点:リーダーシップ研修後のチーム満足度向上。

  4. 学習と成長視点:社員スキル評価スコアの変化。

若手の渡辺は、このKPIに基づいたダッシュボードを作成し、経営層や現場がリアルタイムでデータを確認できる仕組みを開発した。


第四章:現場の巻き込み

設計が進む中で、製造現場の田中課長や営業部長の高橋を巻き込むことがプロジェクト成功の鍵となった。佐藤は各部門のリーダーたちを集めて、スコアカードの重要性を説明するミーティングを開いた。

「この仕組みを使うことで、私たちがどれだけの成果を上げているのか、全員が把握できるようになります。そして、それが会社全体の目標達成にどう繋がるのかも明確になるんです。」

高橋は頷きながら言った。
「確かに、これがうまく機能すれば、現場も経営層も同じ方向を向けるかもしれないな。」


第五章:成果と課題

半年後、HRスコアカードを試験的に運用した結果、以下の成果が明らかになった。

  • プロジェクト納期遵守率が15%向上

  • DX研修を受けた社員の生産性が20%改善

  • リーダーシップ研修後のチーム満足度が25%増加

しかし、一方で以下の課題も浮かび上がった。

  • データの信頼性:現場からの報告が一部不正確で、改善が必要。

  • 負担の増加:KPI報告の手間に対する不満が一部から出た。

佐藤はこの結果を受けて、さらにスコアカードを改善する計画を立てた。


結末:新たな文化の創造

最終的に、HRスコアカードは「東和製作所」の新しい文化の一部として定着した。現場と経営層が同じ指標を共有し、データに基づいて議論を進めることで、組織全体の連携が深まった。

佐藤は新たな挑戦に向けて、チームと共に歩み続ける決意を固めた。「数字で語れる人事部」という目標は、もはや単なる理想ではなく、現実となっていた。


学術的な要点:HRスコアカードの設計と運用


1. HRスコアカードの設計:理論的基盤と4つの視点

HRスコアカードは、バランスト・スコアカード(Balanced Scorecard: BSC)を人事管理に応用したフレームワークとして広く知られています。この理論の基盤は、1992年にロバート・カプラン(Robert S. Kaplan)とデイビッド・ノートン(David P. Norton)によって提唱されたものです。彼らは、財務的指標だけでなく、非財務的指標を加えることで企業パフォーマンスを多面的に評価する必要性を強調しました。

HRスコアカードでは、BSCの4つの視点を人事に適用して設計します。具体的には次の通りです:

  1. 財務的視点

    • 目的: 人事施策がコスト削減や売上向上にどう寄与するかを測定。

    • : DX研修がプロジェクトコストをどの程度削減したか、離職率改善による採用コスト削減額などをKPIとして設定。

    • 補足情報: 例えば、Becker, Huselid, & Ulrich (2001) の『The HR Scorecard: Linking People, Strategy, and Performance』では、財務視点での効果測定が経営層の意思決定に不可欠であると指摘されています。

  2. 顧客的視点

    • 目的: 人事施策が顧客満足度や市場競争力にどう影響するかを測定。

    • : 新製品の開発スピード向上、顧客対応スキル研修後のクレーム減少率。

    • 補足情報: カプランとノートンの著書『The Balanced Scorecard: Translating Strategy into Action』では、顧客価値を高めるための内部プロセスと学習の重要性が説かれています。

  3. 内部プロセス視点

    • 目的: 人事施策が組織の効率やプロセス改善にどう寄与するかを測定。

    • : リーダーシップ研修後のプロジェクト達成率、チーム間のコラボレーション改善スコア。

    • 補足情報: Ulrich (1997) の『Human Resource Champions』では、内部プロセスの改善が人事部の戦略的パートナーシップを実現する上で鍵となると述べられています。

  4. 学習と成長視点

    • 目的: 社員のスキル向上やエンゲージメントの高まりを測定。

    • : 新しいスキルを習得した社員数、エンゲージメントスコアの向上率。

    • 補足情報: Kaplan と Norton は、従業員の能力開発が長期的な競争優位性をもたらすと強調しています。


2. データ収集とKPIの設計

HRスコアカードの導入には、適切なKPI(Key Performance Indicators: 重要業績評価指標)を設定することが不可欠です。KPI設計の成功例と課題を以下に示します。

  • 成功例:

    • DX研修後の「生産性向上率」をKPIとし、研修を受けた社員のプロジェクト達成率を比較。

    • リーダーシップ研修後に「チーム満足度スコア」を計測し、改善率を定量化。

  • 課題と解決策:

    1. 課題: データの整合性と収集プロセスの混乱。
      解決策: Becker et al. (2001) は、データの一元化とリアルタイム可視化が効果的であると述べています。クラウドベースのHRプラットフォーム(例:Workday, SAP SuccessFactors)を活用することで、この課題を解消可能。

    2. 課題: 現場リーダーの協力不足。
      解決策: 社員やリーダーへのKPI共有を徹底し、彼らが目標達成に積極的に関与する仕組みを構築する。


3. HRスコアカードの活用事例

  • 事例1: マクドナルド(McDonald's)
    マクドナルドは、従業員のスキル向上を戦略目標とし、「スキル習得後の顧客満足度向上率」というKPIを設定しました。このデータを基に、研修プログラムを改善し、最終的に売上増加を達成しました。

  • 事例2: IBM
    IBMはHRスコアカードを活用し、人事施策と業績の関連性を可視化。特にリーダーシップ開発プログラムが社員の離職率改善に寄与したことを実証しました。


4. 理論的補足:戦略的人事管理(SHRM)との関連

HRスコアカードは、戦略的人事管理(Strategic Human Resource Management: SHRM)の実践的なツールとしても重要です。SHRMでは、人事施策が企業戦略と一致し、競争優位性を高める役割を果たすことが求められます。

  • 理論的背景:

    • Barney (1991) の「リソース・ベースド・ビュー(RBV)」では、人的資源は企業にとっての希少で模倣困難な資産であり、競争優位を築く源泉であるとされています。

    • Wright & McMahan (1992) は、人的資源を経営戦略に統合することの重要性を説いており、HRスコアカードはその実現手段の一つとされています。


5. 持続的改善のためのフレームワーク

HRスコアカードは、一度設計すれば完了ではありません。持続的に改善し続けるためのプロセスが必要です。

  1. PDCAサイクル:

    • 計画(Plan):スコアカード設計とKPI設定。

    • 実行(Do):施策の実行。

    • 検証(Check):データ収集と分析。

    • 改善(Act):結果を基にKPIや施策を見直す。

  2. 成功要因:

    • 経営層の積極的な関与。

    • 部門間の連携。

    • データの透明性と信頼性。



※上記のブログは以下参考書を元に、著者がAIツールを用いて作成したフィクションです。

最後まで読んでいただき有難うございました。

グローバルスタンダードなHRをセルフペースで学べるE-Learning

著者:松澤 勝充

神奈川県出身1986年生まれ。青山学院大学卒業後、2009年 (株)トライアンフへ入社。2016年より、最年少執行役員として組織ソリューション本部、広報マーケティンググループ、自社採用責任者を兼務。2018年8月より休職し、Haas School of Business, UC Berkeleyがプログラム提供するBerkeley Hass Global Access ProgramにJoinし2019年5月修了。同年、MIT Online Executive Course “AI: Implications for Business Strategies”修了し、シリコンバレーのIT企業でAIプロジェクトへ従事

2019年12月(株)トライアンフへ帰任し執行役員を務め、2020年4月1日に株式会社Everyを創業。企業の人事戦略・制度コンサルティングを行う傍ら、UC Berkeleyの上級教授と共同開発したプログラムで、「日本の人事が世界に目を向けるきっかけづくり」としてグローバルスタンダードな人事を学ぶEvery HR Academyを展開している。

保有資格:
・SHRM-SCP(SHRM)
・Senior Professional in Human Resources – International (HRCI)
・Global Professional in Human Resources (HRCI)
・The Science of Happiness(UC Berkeley)、他

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【Fun with HR】HRをHackするMasaのnote
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