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UC Berkeley Business Schoolからの手紙⑤(誰を採用するか)

ブログを読んでいただき、誠に有り難うございます。本ブログは、著者がアメリカ UC Berkeley留学期間中に学んだことを共有するブログです。気に入ってくださった方は、ぜひ、フォロー・いいねしてくださると嬉しいです。

では、今回も前回同様採用について書いてまいります。今回はその中でも採用計画の初期段階、すなわち「誰を採用するのか?」という事を考えるフェーズにおいて、具体的に何を進めていくべきなのか?という事です。

1. 辞めない人材を採用するのは、意味があるのだろうか?

せっかく採用した社員にやめてほしくない、という事は多くのHRの方々が思うことだと思います。一方で、「辞めない」ということは、「環境を変えない」ということでもあります。「40年間環境を変えない人材を採用する」ことは、現実的なお話ではありません。マズローの五段階欲求に例えれば、平均的な生活水準が一定レベルを超えている場合、人は「安全」よりも「自己実現」を選びます。従って、良い会社に入れば入るほど「チャレンジ」したくなるのです。もし辞めるかもしれない、という事を危惧した採用基準設計をされているようであれば今一度本当に必要か?という事を考慮して頂いたほうがいいと思います。

2019年に発表された“マイナビ転職『2019年新入社員1カ月後の意識調査』”では、2019新入社員の「約20%のみ」が定年まで働くと回答しています。きっとアメリカの教授陣や友人達に聞けば、「未だに20%強が定年まで働こうとしているの?(そもそもそんな会社あるの?)」と言われます。

なお、調査期間は異なるものの、2012年に発表された「2012 春・若者意識アンケート(実施機関:公益財団法人 日本生産性本部)」では「今の会社に一生勤めようと思っている」と考えている社員が60%を超えています。従って、景気に連動する形で転職に対する意識は大きく変わるという事、現状の数字を見ると5年以内に転職する可能性が高いと言える状況です。

・景気が良くなれば、転職意識が高まり、人事のコストは高くなりやすい

・景気が悪くなれば、転職意識が低まり、人事のコストが抑制しやすくなる

従って、私個人の意見としては「辞めない人材を採用する」というのは採用戦略としてあまり合理的と言えず、「辞めるかもしれないが高いパフォーマンスを発揮してくれる人材を採用する」にフォーカスすべきだと思います。

辞める辞めない、というのはざっくり言えば入社後のフォローに関する問題です。

2. 「ペルソナ、ペルソナ」という前に

(リクルーティング(採用)の原則 ※再掲)
• 採用したいボジションの仕事(役割・目標)を具体化する
• 具体化した仕事内容に必要な「知識・技術・能力(KSAs)」を言語化する
• 高いレベルのKSAsを持つ集団を「ターゲット」として設定する(ターゲットしか集めないということではない)
• 母集団形成に最大限マッチするツールを使い、可能な限り最大の母集団を形成する(PR方法・選考方法)
• 募集と評価の各段階で応募者の質を高めていく
• 入社後にレビュー&フォローを行いつつ、最大限リテンションする
• “オンボーディング”にできる限りのリソースを割く

昨今の採用関連情報を見ていると、「ペルソナを設計しましょう」という言葉が多くみられます。これは学術的にはマーケティングの領域でプロダクト開発によく使われる言葉です。「ペルソナを作る=顧客の生活スタイルや趣味嗜好、性格、行動範囲、友人関係、ニーズなどなどを具体的にイメージ(言語化)する」という事であり、採用担当の顧客が求職者だとすると簡単に言えば「誰を採用するのか、具体的にイメージしましょう」ということになります。

従って、ペルソナという言葉は少し目新しいかもしれませんが、実はHRの世界では目新しい考え方ではありません。アメリカでは兼ねてから「Job Analysis」というものがタスクとして一般化されており、その定義は「仕事における役割と必要なスキルを具体化し、どんな人材が採用されるべきかを具体化すること」になります。

3. 具体化すべきは知識・技術・能力(KSAs)

必要なスキルを具体化する、という事は一見容易に見えるかもしれますが簡単ではありません。以下の1-5までを可視化・言語化することがJob Analysisであり、ここまできちんとやれない(やらない)というのが日本の仕組みではないでしょうか。

1. 仕事のWhat・How・Why・Whenを言語化する
2. 上記に必要な“行動”を言語化する
3. 行動に伴い使用するツール(Mac book or windowsを使う、Power point、口頭での商談、C++を使う)も言語化する
4. レベルごとの行動基準(高いパフォーマンスの人は...、低い人は...)を言語化する
5. 1-4を通じて、「知識・技術・能力(KSAs)」を要約する

KSAsそれぞれの違いを、野球選手に例えてみましょう。

知識」:バットの持ち方・振り方を知っているかどうか。
スキル」:知識をもとに練習し、身につけた速くて確実性の高いバットスイング(開発が比較的容易)。
能力」:結果的にボールを当てる動体視力だったり、筋肉量(開発が比較的困難)。

知識・スキルは比較的早めに習得可能ですが、能力はものによって時間がかかります。従って、どちらかというと先天的な要素という風にとらえられるのではないでしょうか。アメリカ人でも混乱される言葉ですが、きちんと分別して整理しておきたいところです。

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4. 採用したいポジションの社員の近くで1日を過ごそう

日本の採用でありがちなケースは以下のようなものではないでしょうか。

① そもそも社員の目標や求める成果が曖昧で「とにかく一緒に働きたいと思えれば誰でもいい(ビジネスの結果は自分には関係ないから)」という結論に至る
② 採用担当と現場のコミュニケーションとして、「どんなKSAsを持った人材を、何人、なぜ」が会話されていない(or 会話がなされていても根拠が曖昧なまま決まる)
③ 人材像を作る採用担当が、そのポジションの仕事を実際に見たり、やってみたり、具体的な内容やプロセス並びに難易度を知る経験がない

上記からわかる通り、Job Analysisにおいて、近道はありません。誰しも「自分のポジションの後任を採用してください」と言われれば、具体化することは比較的簡単なはずです。普段行っている仕事内容とその業務に必要なスキルが頭に浮かんでくるのではないでしょうか。

5. Job analyticsとしてまとめる内容一覧

1)組織/個人のキャラクター・特性
2)実行された作業(その人は主にどのような作業をしましたか?)
3)従業員の態度(この人はこの仕事をどのように実行しているように見えましたか?生き生きしていましたか?)
4)従業員のパフォーマンス(この人は自分の仕事をどの程度うまく行っていたと思いますか?)
5.)HRMとの関係(どんなHRの機能が個人のパフォーマンスをより良くすると思うか?例、採用?育成?報酬?など)
6)パフォーマンスの改善に向けて(この人のパフォーマンスを改善するために人事の原則をどのように適用させるべきか)

※レポートは最下部に添付しております(たくさん間違った英語を使っていますがご容赦ください)。

従って、もし中途採用で特定のポジションの採用をかけたいのであれば、①そのポジションの方がどんな役割を持っていて、②どんな作業にどのくらいの時間をかけているのか、③だれとコミュニケーションをとっているのかを観察し、④観察情報からパフォーマンスの高低を分ける要因を明確にできれば、効果的なPRと選考ができるようになるのではないでしょうか。

① 役割
② 作業内容とその時間
③ 関係者
④ パフォーマンスの差別化要因(能力)

また、配属によってさまざまな可能性を持つ新卒採用であったとしても、大きく3分類(営業・技術・管理)ほどのカテゴリーを作り、特定の世代(2年目、3年目)の日々に密着し、同じような作業をし、具体化していく必要があります。数時間でも構いません。自分の目で実際に見てみることをお勧めします。

現場の社員はその現場の作業に対してはスペシャリストだと思います。しかし、HRとしての目線や知識はありません。従って、HRの目線で現場を体験・客観視することができれば、最強でしょう。

最後まで読んでいただき有り難うございました!

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