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HR豆知識⑪コンピテンシー

皆さんは「コンピテンシー」という言葉をどこかで聞いたことがあるんではないでしょうか。

・コンピテンシーは行動特性
・コンピテンシーは能力

などなど。この言葉は様々な解釈がなされるものですので、改めて、その抽象的な概念について書いていこうと思います。

コンピテンシーが提唱されたのは1971年。

「名著17冊の著者との往復書簡で読み解く 人事の成り立ち: 「誰もが階段を上れる社会」の希望と葛藤:海老原 嗣生 (著), 荻野 進介 (著)」の中で、コンピテンシーの始まりは、ハーバード大学のマクレランド教授が、外交官の業績を差別化する要因を調査していく中で、それは語学力でもなく文化的な知識でもなく、「対人感受性」であることに気づき、同教授がそれを「コンピテンシー」と名付けたところから始まっています。

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それを応用し、社内の好業績者を集めどのような特性があるかを分析するという試みがなされたことから、コンピテンシーは「業績を差別化する要因」、「好業績者の行動特性」などと定義が幅広く曖昧になっていきます。

職能要件との違い

職能要件とは、所謂「職務に必要な能力」の事で、日本型の人事制度の代表的な考え方として使われるものです。本来は職務に必要な能力なのですが、日本では直接職務に使われていない能力も評価の対象となることがありました。例えば、英語を使わない仕事でもTOEICが900点であれば資格手当を付与する、などもその一種です。

職能資格…発揮されている場面の有無は関係なく、「保有している能力」を指す

「能力」という観点では同じような定義に見えるコンピテンシーですが、その違いは「発揮されているか否か」になります。

コンピテンシー…業務に使われ、業績差に影響がでている能力(影響がなければ意味を持たない)

従って、上記の例で英語を使わない職種の場合、たとえTOEIC990点を持っていう社員がいたとしてもその点は評価に考慮されないという事を意味しています。

日本におけるコンピテンシーの捉え方「職能資格制度的要素×コンピテンシー要素」

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出典:太田隆次『コンピテンシー人事』(経営書院)128頁

日本では従来から導入されていた職能資格制度的要素(保有している能力を報酬に反映させる)からの変革になるため、①過去の要素を残すor廃止する、②コンピテンシー的要素(今発揮されている能力を評価する)を全面的に入れるor部分的に入れる、という点で夫々の制度が変わってきます。

職能資格制度的要素は、ポテンシャルをも評価している制度でありますし、長期的な雇用を前提としているのであれば適したものと言えます、

一方でコンピテンシー的要素が強い場合はメンテナンスが常に必要で、特に変化のスピードが速まっている現代社会では「コンピテンシーの作り込み・拘り過ぎ」は制度疲弊を起こしてしまう可能性が高いのではないでしょうか。

都度コンピテンシーを理解し正確に運用しなければいけない管理職、正確性を保つためにメンテナンスを都度行わなくては行けない人事の疲弊を生んでしまい、結果形骸化した評価プロセスになる可能性が高いのです。

アメリカの授業で「コンピテンシー」は出なかった

ここまで一般的となった概念であるにもかかわらず、私が留学をしていた際にコンピテンシーという言葉は使われることがありませんでした。教授は絶対的に知っているはずです。

それよりもKSAという概念が使われ、それらを基に物事を評価していくんだよというお話が中心でした。

その背景を考えると「大学が教える概念」としてコンピテンシーは非常に曖昧な概念で説明が難しいのかなという点やONet(アメリカのJD検索サイト)などでその概念が存在しないから、という事も考えられます。

たまたまかもしれませんが、個人的にも10年その考え方の人事制度を運用した実感値としてコンピテンシーは抽象度が高く、①評価者の力量によって大きな差が出る、②評価をするための情報収集に時間がかかる、③時代とともに致命的なずれがでてくる、点も経験しています。

では、ない方が良いのか?というとそれは極端な意見で私は「あった方が良い派」です。特に日本のように配属希望が通らない場合も考えると「職能×コンピテンシー」が現実的な考え方だと思います。

それよりも、管理職の各要件を「本人の目指したい姿」と関連付ける説明能力と、部下の努力(行動と成果)を正確に見る観察能力が重要であり、そのスキルを高めていくためにはいわゆる評価者トレーニングのようなものが必要だと思います。

最後まで読んで頂き有り難うございました。

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青山学院大学を卒業後、トライアンフへ入社。人事コンサルティング事業部の執行役員を勤め、採用・組織開発のコンサルティング並びに研修を提供。2018年にUC Berkeleyへ留学。ビジネススクールでHRMを学び2020年6月にEvery Inc.を創業。

参考:






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