見出し画像

TM NETWORK「10 YEARS AFTER」:ダイナミックに転換する俯瞰と対話のリリック・スタイル

TM NETWORKの活動は1994年に一度停止し(「TMN終了」)、1999年に再開しました。再始動にあたってリリースされた2枚のシングルのひとつが「10 YEARS AFTER」です。アコースティック・ギターとエレクトロニック・サウンドが組み合い、穏やかな雰囲気ながらも芯の通ったサウンドを響かせます。ウツのボーカルは緩やかに言葉をつなぎますが、あふれんばかりの言葉をラップのように歌うこともあり、言葉に合わせて変わる譜割が印象に残ります。

小室さんが「10 YEARS AFTER」で綴った歌詞の特徴は、大胆に転換する視点であり、歌ったウツも印象的だったと語りました。地球を俯瞰していたかと思えば、次の瞬間には、地上でのささやかな心の触れ合いにフォーカスする。「人間」や「国家」といった大きな単位で語る一方で、大事な人に向けた気持ちを表現しており、その切り換わりが唐突で意表を突かれます。こうした転換は折に触れて登場し、例えば2004年の「PRESENCE」や2012年の「I am」などを聴くとよく分かります。

「10 YEARS AFTER」の音に関わるトピックとして挙げられるのがヒップホップです。当時の小室さんがヒップホップに関心を寄せていたためか、ラッパーのCOMMONが参加したリミックスが制作されました。アウトテイク集『キヲクトキロク』で聴くことができます。ベースやキックが強調された肉厚なエレクトロニック・サウンド、ボーカルの大部分がミュートされて代わりに差し込まれたCOMMONのラップ。TM NETWORKの曲の中で、最もヒップホップに寄った作品となりました。

「10 YEARS AFTER」をコンサートで聴けたのは、2004年のDOUBLE-DECADEです。横浜アリーナに響き渡るイントロの中、「聴けるとは思わなかった」という驚きと「聴けてよかった」という感動が交錯しました。コンサートの音楽的テーマがトランスだったため、「10 YEARS AFTER」でもキックの音が強調され、ずしりと身体に響きました。重厚なリズムの中で、ボーカルの優しいメロディやギターの音が心地よかったことを覚えています。

その後、コンサートで聴く機会は得ていません。2012年の〈TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-〉では、セット・リストの草案に「10 YEARS AFTER」が入っていたのですが、最終的に外れました。このコンサートの「潜伏者が宇宙から地球に降り立つ」というテーマに合う曲なので、セット・リストに組み込まれていたら、僕のイマジネーションは大いに刺激されたことでしょう。

僕がTM NETWORKを現在進行形で聴けるようになったのが1999年であり、「10 YEARS AFTER」は記念碑ともいえる曲です。改めて「10 YEARS AFTER」を聴くと、再始動について「これから何が起こるのだろう?」と思いを巡らせ、期待に胸を膨らませていた1999年を思い出します。タイムマシンに乗って時間を遡ることができるのなら、当時の自分に「素晴らしい曲に次々と出会えるよ」というメッセージを伝えたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?