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TM NETWORK「KISS YOU」:地球から宇宙に接続し、宇宙から世界を俯瞰するダンス・ミュージック

1987年はTM NETWORKが躍進し、活動が拡大した年です。シングル3枚、アルバム2枚、ベスト盤1枚、ツアー2回、初の武道館公演。そうしたなかで、11月にリリースされたアルバムが『humansystem』、リード・シングルが「KISS YOU」です。ヒット・シングル「GET WILD」の後に発表された「KISS YOU」は、アプローチを変えてTM NETWORKの幅の広さを見せつけます。コンサートにおける定番曲となり、節目のライブでセット・リストに名を連ねてきました。

「KISS YOU」にはオリジナル、アルバム・バージョン、リミックスの3種類が存在します。カラーは異なるものの、すべてを貫く要素がファンクなのではないかと思います。オリジナルではファンキーなギターが全体を引っ張り、ホーン・セクションの音が彩りを添えます。アルバムに収録された「KISS YOU (More Rock)」では、ファンクを軸にしつつもロックに寄せたアレンジが素晴らしく、重くて鋭いギターが印象的です。1989年には、Bernard Edwards(Chicのベーシスト)によるリミックス「KISS YOU (KISS JAPAN)」が発表されました。ファンクのなかにメランコリックな冷たさを感じるサウンドが第三の印象を生み出します。

サブタイトルは「世界は宇宙と恋におちる」。ここでいう「世界」とは地球上の国々であると同時に、地球そのものと捉えることができます。宇宙から見た地球の姿、地球からイメージする宇宙は、歌詞のテーマやビデオの演出として表出します。揺れ動く世界の姿を俯瞰しつつ、二人だけの世界で ♪I kiss you♪ と歌う。視点は行きつ戻りつ、やがて交わります。また、イントロに加えられたノイズのような声は、地球と宇宙との交信を思わせます。相手はスペース・シャトルの仲間なのか、あるいは宇宙のどこかから来た生命体なのか。

「KISS YOU」といえば思い出すのが、2012年の〈TM NETWORK CONCERT -Incubation Period-〉です。コンサートの序盤から中盤に入るあたり、「LOVE TRAIN」の演奏中に突如「機材トラブル」が起きました。明るくなったステージから三人が姿を消し、スタッフが慌ただしく動きます。その様子を見守る観客のざわめきが会場を満たします。

この演出の意図について、後に小室さんは『Keyboard magazine』で語りました。強制的にライブを中断し、会場の熱気がリセットされた状態で、またゼロから盛り上げることが目的だったそうです。そんなことをよく考えつくものですが、別の曲でも観客を驚かせる演出があり、「ファンの予想を裏切るTM NETWORK」の面目躍如といえます。

会場が再び暗くなると、このコンサートのために作られたエレクトロニック・サウンドが流れ、スネアの音が重なります。宇宙との交信ボイスが会場に浸透したところで、サウンドが分厚くなって「KISS YOU」のイントロに接続します。その流れがとても格好良く、ライブが途切れて困惑していた気持ちに再び火が点きました。小室さんの狙いどおりというべきか、気持ちのgo downからgo upへの変化を見事にコントロールされた、心地好い驚きと感動の体験でした。そんな記憶が残る曲です。

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