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プレストンとバス停をめぐる2冊の写真集

この機会に改めて在庫の整理をしていたところ、イギリス人写真家、ジェイミー・ホークスワース(Jamie Hawkesworth)の絶版作品集が新品未開封の状態で見つかりました。

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Preston Bus Station by Jamie Hawkesworth (Dashwood Books, 2017)

ジェイミー・ホークスワースは1987年英国生まれ。Alexander McQueenやLOEWEをはじめとする大手ラグジュアリー・ブランドのメインヴィジュアルを撮影してきたことで知られている。

この若き写真家のファッション写真における功績は、前世代の写真家たちがコンパクトカメラを使用したラフで、時に過激な写真で既存の「ラグジュアリー」像を打ち壊したのに対し、その遺産を受け継ぎながらも、より精巧で職人性(あるいは写真家性)の高い写真で、今一度その美意識を刷新した点にあると言えるだろう。ホークスワースは一貫して中判のフィルムカメラを用いた撮影を行い、プリントも暗室での手焼きプリントにこだわっている。

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LOEWE Spring Summer 2018 Menswear Catalogue (LOEWE, 2018)

そんな彼の作家としての初の作品集であり代表作が、本作『Preston Bus Station』である。

プレストン・バス・ステーションはイギリス北部に位置する地方都市、プレストンに位置するその名の通りバス停だが、道端の小さなバス停ではなく、長距離バスも行き来する大型ターミナルである。そのため自然と様々な人種や年齢の人々が往来し、また建物自体もブルータリズム様式を採用した名建築のひとつと言われている。

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長年にわたり撮影されたプロジェクトということもあり、大御所作家のモノグラフのようなサイズと厚みである。個人的に写真集について話す上でこのような言い方はあまりしないようにしているが、卓越した技術によるアナログ中判写真のこってりとしたカラーが大変美しいと言わざるを得ない。

ホークスワークは学生時代からプレストンで撮影はしていたものの、意識的にそのバス停を撮影するようになったのは、彼の大学の写真教師であったアダム・マレー(Adam Murray)とその友人であるロバート・パーキンソン(Robert Parkinson)によるプロジェクト、『Preston is My Paris』がきっかけだった。

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Preston is My Paris 2009-2019 by Adam Murray and Robert Parkinson (Dashwood Books, 2019)

マレーとパーキンソンは、2011年にプロジェクトの一環としてタブロイド(新聞)の出版を決めるが、自分たちの写真にイマイチ納得ができていなかったという。そこでマレーの生徒であり大学を卒業したばかりのホークスワースに、プレストン・バス・ステーションを訪れる人々のポートレート撮影を依頼したのである。(当時撮影した写真はホークスワースの作品集にも収録されている)

そしてふたりの10年にわたるプロジェクトをまとめたものが、昨年出版された『Preston is My Paris 2009-2019』だ。本書は彼らが撮影した写真に加え、その最初期にふたりが出版していたZineの書影や展示風景、論考なども収録しており、いかに写真を用いた長期プロジェクトとして、根気強くプレストンという土地に密着してきたかを目にすることができる。

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本書にはホークスワークの写真や当時共作したタブロイドだけでなく、彼が当時を振り返って書き下ろしたエッセイも収録されている。

以前、アメリカで写真を学んだ写真家の友人から、最近アメリカの現代写真家たちは「プロジェクト」という言葉をあまり使いたがらないということを聞いたことがある。ぼくはイギリスで写真を学んだが、イギリスでは逆に学内でも積極的にプロジェクトという言葉が使われていた。そしてイギリスで制作されたこれらの作品もまた、「プロジェクト」という形容がふさわしいように思う。

「イメージ」としての写真、あるいは視覚言語としての写真を探求するのが近年アメリカを中心に発展した現代写真だとすれば、プロジェクトと称して、社会や特定の題材を「記録」する写真は古風な写真に該当するのかもしれない。だが、両者は共に社会や時代性と密接な関係に写真を配置するという点においては共通しており、この2冊の作品集も単なる記録にとどまらない社会的プロジェクトであることは明白だ。

そもそもプロジェクトという呼称自体も、素朴な記録としての写真に対して、より社会的に意義のある写真作品を作ろうという意志のもと生まれたという点においては前者と同様であり、自身の作品をプロジェクトと呼びたがらないその心理的背景には、どちらかといえば、その仰々しい響きを表象性を意識した作品に纏わせることに対する違和感があるのではないだろうか。

ある時代に教師と学生として偶然出会い、その後共作したタブロイドから派生、時を経て同じ出版社から別々の作品として出版された2冊の写真集。これらの本からは、そのような写真と現代性をめぐる問いをも投げかけられているような気がするのである。

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石川県金沢市にて、現代写真を中心とした作品集の展示/販売を行っています。 https://www.iack.online
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