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シャニマス初見の男の、浅倉透とかいう女についての備忘録

一枚絵のクオリティが異質な高さであること。日常描写の解像度が高いということ。シャニマスに関する知識は以上だった。つまり何も知らないに等しかった。

最初にプロデュースしたのは、月岡恋鐘という顔と胸の素敵な女性だった。彼女を選んだ理由は、顔と胸が素敵だったからだ。

(顔と胸が素敵な女性、月岡恋鐘。体型にはコンプレックスがあるようなので、本人に言うと普通に悲しまれること必須)

トゥルーエンドを迎えてないのにこんなこと言うと怒られそうだが、月岡恋鐘というキャラクターやストーリーは、特に自分には刺さらなかった。超個人的に残念だった点なのだが、月岡恋鐘が「〜ばい」「よか〜」と長崎弁で喋るとき、5回に1回ほどの頻度で長崎在住の祖母が脳裏をよぎるのが辛かった。僕にとって長崎弁とおばあちゃんは完全にイコールだったのだ。

しかし、事件はサポートイベントで起こった。そしてそれが、浅倉透とかいう女との出会いだった。

まずは、その衝撃の一部始終を御覧頂きたい(左が浅倉透、右が樋口円香)。

え、なにこの距離感。そして会話の純度。

一瞬「こんな中身のないやりとり」をイベントと銘打っていいのか? イベントの日本語訳知ってる? と思ってしまったが、瞬時に思い直した。

これは、彼女らのコミュニケーションはこれである、という提示であり宣言だ。わざわざ値段を読み上げるタイプのコンビニ店員が会話(沈黙)を引き取ることが「彼女らの関係性はこれで完結している」ことを物語っている。

というか普通に読んでたら仲悪いんか? と読む方もいらっしゃると思うが、そこはしっかりフォローが入る。

(仲が悪いわけではなさそう)

なお、「待っててくれたの?」に対する「コーヒー飲んでた」という返答は100点満点中200000億点である。

その後も絶妙な距離感が保たれた会話が続くのだが、最後のあたりでこんなやりとりがなされる。

う、うっわ〜。うわああ〜〜〜〜。はいはいはいはいなるほど〜〜〜〜〜。

オタクは気持ち悪い生き物なので、3枚目の樋口円香の沈黙の意味を0.03秒で理解してしまう。無粋だが言葉にすると「樋口円香には浅倉透に聞けないことがある」、なぜなら「聞いたらこの完成された関係性が壊れるかもしれない」から。もしくは(これは妄想だが)「聞いてしまったら樋口円香という存在も変わらざるをえないから」あたりだろうか。

本当は何を聞きたかったのか。「なんでアイドル始めたの?」あたりが推理としては無難かな〜と思うが、ここは断定せずに焦らずに読み進めたいところ。伏線は大事に。

……で、このサポートイベントの何が衝撃だったかというと、一言でいえば導入として完璧すぎた。会話の量に対しての情報量の凄まじさと言い換えてもいい。

例えば、完成された距離感からは二人が長い間同じ時間を過ごしてきたことが伺えるし(お互い名字呼びなのも最高過ぎる)、それでいて二人の関係性がやや非対称的なのが推理できる(樋口→浅倉)。

で、樋口円香という女が惹かれている(と推測される)浅倉透という女に単純に興味が出た。月岡恋鐘ちゃんの次は、この人をプロデュースしたいと思った。

プレイ済みの方はご存知の通り、この衝撃的なサポートイベントすら、ほんの序の口の序の口に過ぎなかったのだということを、その後僕は嫌というほど思い知る。


先に結論を書いておくと、浅倉透という女を一言で説明するなら「底の知れぬ女」である。

アイドルをプロデュースするとき、まずプロデューサーと当該アイドルとの出会いが描かれる。浅倉透との出会いは「バス停でスカウトする」という、ありていに言ってつまらないものだった。

が、描かれ方が凄かった。

(ジャーン♪)

浅倉透はことある毎にジャングルジムを回想する。

ジャングルジムを登ること、ジャングルジムの向こう側に誰かがいること。これらは浅倉透のテーマというか、アイドル活動の比喩表現としてよく登場するのだが、ジャングルジムが回想される場面では、必ずピアノの和音が鳴るのだ。

(ジャーン♪)

このコードが、凄く絶妙なのだ(Dsus4?)。このピアノの音が、ジャングルジムを文学足らしめていると言ってもいい。

ジャングルジムの力は絶大で、例えばいきなりスカウトしてきた不審者から名刺をもらってもいいかな、と思わせる力を持っていた。

そう、浅倉透のアイドルの物語は、文学だった。少なくとも、文学的な物語だった。

例えば、事務所のテレビに恋愛映画が流れていてプロデューサーとちょっと変な空気になるイベントがある。そのオチなのだが、

倒置法。しかも暗転。

浅倉透とかいう女は、表現がいちいち詩的なのである。

しかもこのセリフである。明日世界でも終わるんか?

(『CROSS†CHANNEL』Switch版発売おめでとうございます)

このように彼女特有の感性で表現される場面というのは本当に山のようにあって、

一生のうちにやりたいこと10個答えるアンケートで、プロデューサーの答えに対してこういうことを言ったり(一休さんのトンチか?)。

ファミレスで奢るって言ってるのにこういうことを言ったり(奢る奢られるでそんな判断基準ある?)。

マイペース特有の思考過程すっ飛ばし問いかけをしてきたり(最もこれに関しては「自分が他人にどう見られているか、自分の思考や行動がどう伝わっているのか、いまいち分かっていない」問題があるので、理にかなったテキストとも言えるが)。

かと思ったら、後輩に奢るって言っといてド天然発揮したり(なにわろてんねん)(いきなり形而下過ぎる)。

要するに、マジで何考えてるのかが分からない女なのだ。ちとメタい感想を言うと、ライターさんが「何を考えてるのか分からん女」を描くバランス感覚が凄すぎる。多分これ以上論理的でもダメで、これ以上電波女でもダメ。その両方を満たしながら、そのどちらでもないカリスマ性、それが浅倉透とかいう女なのだ。そりゃ樋口円香も惹かれるわ。

ただ、そんな彼女のストーリーにも欠点がある。
例えばこのシーン。

相変わらず独自の感性で様々な「光」について所感を述べる彼女だが(谷川俊太郎か?)

プロデューサーがゴミみたいな返答しかできないのだ。

プロデューサーの感性が、浅倉透に追いついていない。

(『ヒカルの碁』17巻 第140局より 1人じゃ神の一手は打てんのじゃよ)

……いやごめんなさいゴミみたいな返答は言い過ぎた。プロデューサーがクソつまらない男なのにはちゃんと理由があるのだ。

ハーレムものなどにも当てはまるのだが、それは一対多の一に該当するものの宿痾、大勢の多種多様な女の子に対応できるキャラクターでなければならない、色んな人間から好かれなければ物語が成立しない悲しい運命を背負った装置としての主人公。女の子を際立たせるためだけに生み出された道化。2桁を超える女の子に関わらなければならない最大公約数的パートナー。
平たくいうと「好かれやすい性格でなければならない」、それが真面目で誠実なつまらない男の正体である。

断っておくが、個人的に嫌いなだけで悪いわけではない。悪いわけではないが、あからさまに浅倉透とかいう女と釣り合ってないのが、見てて悲しくなってくるのだ。

まあこういうゲームの性質上仕方ないけどな〜と半ば受け入れていたのだが、違った。

何が違うのか。

樋口円香とかいう女、こいつがまた凄い。

なんと僕がこの男主人公に対して気持ち悪いと思っていたことを、彼女は代弁してくれるのだ。

何が凄いって、この女、割とガチでプロデューサーのメンタルを削ってくるというか、マジで普通に人として嫌いなんやろうな……という言葉を吐いてくるのだ。

確かに、いわゆる日本の伝統的ツンデレ的挙動を取ることも何回かある。

が、本気でプロデューサーの「人としての至らなさ」を指摘してくる場面がほとんどなのだ。女子高校生にズケズケとコンプレックス指摘されたらおじさんショック死しちゃうよ……。

……で何が言いたいかって、浅倉透ルートのあとに樋口円香ルートを進めることで、自動的に先ほど言った「欠点」が補完される構成になっているのだ(自分のプレイ順的にそうなっただけだが)。いわゆるツッコミというやつ。樋口円香がボロクソに言ってくれるおかげで、僕は浅倉透(ら)を安心してプロデュースすることができる。

「そんな罵られるアイドルプロデュースして何が楽しいの?」と思われる方のために一応補足しとくと、ツンとデレの黄金比は9対1だとか罵られるのが好きなマゾの方がいるだとかそういうの以前に、当たり前だが彼女には彼女の物語があるのだ。

というか、このノクチルとかいうグループ、一人ひとり癖強すぎんか?

なんというか……感情矢印の向き加減が非対称過ぎるというか、歪みすぎてませんか……? グッチャグチャよ……?

アイマス文化を経ずにオタク人生を歩んできてしまった弊害なんだろうけど、アイマスのユニットってこんな歪でリアルなもんなのか……?

……まあまだトゥルー誰も見てないし天蓋?も最初のしか見てないし、まだまだ楽しみは残ってて嬉しい限りですね。


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