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なぜキング牧師がリーダーになれたのか?:リーダーシップ発現の条件

大学の講義が一通り終わり、あとは期末試験を実施して成績をつけるだけになった。一方、新たに研究のプロポーザルを書く必要が出てきて、本格的に研究に時間をさけるようになった。

そんな中で読んで面白かった論文が以下のもの。

McClean, E., Martin, S. R., Emich, K. J., Woodruff, C. T. (2018) The Social Consequences of Voice: An Examination of Voice Type and Gender on Status and Subsequent Leader Emergence, Academy of Management Journal, 61(5), 1869-1891.

まず、この研究はリーダーシップ発現 (leadership emergence) の条件を研究している。リーダーシップ発現とは、簡単に言えばリーダーシップを他者に行使するようになること、リーダーシップを発揮するようになることを意味する。リーダーが誕生するプロセス、と言ってもよいだろう。

彼女たちは人々の発言 (voice) に着目し、この発言によってグループメンバー内で地位 (status) が形成され、ある人はグループ内で高い地位を獲得するようになるという。そして、グループ内で高い地位を持つ人はリーダーシップ発現しやすくなることを実証している。

ここで重要なのは、発言のタイプである。彼女たちは発言を二種類に分けて分析している。一つ目は周囲を促進する発言 (promotive voice) である。これは、「ワークユニットや組織全体の機能を改善するための新しいアイディアや示唆に関する表現」であり、理想的な状態へと集団を突き動かすものであるという。

二つ目は、禁止に向けた発言 (prohibitive voice) である。これは、「組織に害をもたらす仕事における慣行、事象、従業員の行動に対する懸念の表現」であり、好ましくない状態に集団を向かわせないためのものである。

彼女たちの分析の結果、周囲を促進する発言をする人ほど、集団内で高い地位を確立することができ、その結果リーダーシップ発現に結びつくことが明らかになった。一方、禁止に向けた発言をする人が集団内で高い地位を確立するかどうかに関して、有意な関係性を見出せなかった

さらに、彼女たちはこの関係性が男性と女性とでどのように変化するのかを分析した。分析の結果、女性の場合は周囲を促進する発言をより多くしようがしまいが、地位の向上と関係性は見いだせなかった。一方、男性の場合は周囲を促進する発言をするほど集団内での地位が向上する傾向が見られた。そして、その結果女性よりも男性の方がリーダーシップ発現の可能性が高まることが示唆された。

この研究から言えることは、男性は周囲を理想的な状態へ動かすような前向きな発言をすることで、よりリーダーとして振る舞えるようになる、ということである。典型的な例は、マーチン・ルーサー・キング牧師の “I have a dream” という演説だろう。もし彼が女性で、スピーチの内容が白人への批判めいたものであったのなら、歴史に名を残さなかったであろう。

二つ目は、女性はリーダーになるうえではやはり不利な立場にある、ということである。他のリーダーシップ発現の研究においても、女性は男性よりもリーダーシップ発現の可能性が低くなることが統計的に実証されている。この研究では、その差は「発言」という要因によるものであることを示唆している。



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