三島由紀夫の音声

 三島由紀夫vs東大全共闘の映像を観ると、彼の声質、語り口の妙技に惚れ惚れする。おそらく左寄りの人でも、それは認めざるを得ないだろう。
 だが実は三島の声や喋り方には元ネタがある、と言うと奇妙に聞こえるが、偶然にしては似すぎている人物がいる。それは江戸川乱歩である。やや低めのしわがれ声と、べらんめえな口調がそっくりだ。
 この二人は交流があったようで、乱歩原作の『黒蜥蜴』を三島が舞台化した際、座談会が行われている。どっちが喋っているのか、同席者が混乱しなかったか心配である。
 声以外の共通点を挙げるとすれば、両者とも活字に留まらず、独自のビジュアル・イメージを確立したところだろうか。乱歩といえば、マント姿の怪人、不気味なピエロ、サングラスをかけた謎の老人などなど。三島といえば、急なボディビルディング、軍服姿でハチマキ巻いての大演説、そして切腹といった具合に。
 悪趣味だったりクレイジーだったりするのだが、彼らがいなければ、日本は今よりつまらなくなっていただろう。

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