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散歩するとモヤモヤが霧散するタイプ『アヴリルと奇妙な世界』

『アヴリルと奇妙な世界』クリスチャン・デスマール、フランク・エキンジ
アマプラで視聴。ひょんなことから普仏戦争が回避されたフランス・パリが舞台。
1870年から1941年の間、優秀な科学者が次々と謎の失踪を遂げたことで産業革命は起こらず、科学技術が蒸気機関で止まっているという世界観はスチームパンク的でロマンがある。パリ唯一の樹木、コナラの木のある場所が暗くて寂しくて打ち捨てられてて良い。動く要塞メカや飛行機も心躍る。
アマプラでは日本語版も出てるけど、雰囲気出てるのはフランス語版かなと個人的には思った。


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今日は夫が休みだったので、散歩に出たいと申し出た。

僕は夫と散歩に出るのがとても好きです。
歩いていると色んなことを発見するので、それをすぐアウトプット出来て、しかも返事がもらえると、自分の中にすぐ落とし込めて充実した心持ちになる。まあ、たいてい断られるけれど。
今日もやはり断られた。理由はゲームをやりたいからと言っていたが、違うのは分かっている。

彼は生来の舌の繊細さで、偏食が多い。大体肉か魚しか食べたくないし、加熱したトマトや玉ねぎ、にんじん、かぼちゃが好きではない。あと食べたことのないものは原則挑戦しない主義だ。
また、今まで僕が仕事をしていた頃は彼が食事の担当をずっと担ってきた。
ずうっとだ。僕の弁当を作っていた時期すらある。僕は彼と暮らし始めてから十年弱、ついぞほとんど料理をしたことがなかった。

ゆえに彼は、彼自身の食べられる好きなものしか作らない。
彼の得意料理は唐揚げとローストポーク。揚げ物やオーブン料理など面倒だろうに、たくさん作ってくれていた。
…つまるところ何が言いたいかというと、彼は肥満なのだ。

肥満は、エネルギーを奪う状態異常だと僕は認識している。
この十年弱、彼の出す食事に不満がなかった僕であるし、苦手な食べ物がないことも拍車をかけたのか、実は僕の方が先に太った。
当たり前のことだが、長年慣れた体重より太っている状態で普段通り動こうとするとすぐに体力が尽きる。常に体がだるく、眠りが浅い。
平日仕事で疲れきっていても、今までは眠ることで回復出来ていたはずなのにうまくできなくなる。休日も体力を削ることが怖くて無意識に外出を避ける。家ではやることがないので食べるか眠るかどちらかしかない。そしてまた太る。

今思えば、かなり生活に支障が出ていたように思う。
ゲームにおいてスリップダメージを食らう状態異常を、好き好んでそのままにしておくプレイヤーはいるだろうか。特殊な性癖を持っている人以外いないだろう。
僕もそんな、「人生」というクソゲーのプレイヤーであるので、ご多分に漏れず、食事の量を減らし、ジムに通った。トレーニングはすごい。自己肯定感と全能感と、何かこう、ヤバいものが脳髄から全身に沁みわたっていた。
そんなわけで初めての大幅減量だったのだが、健康診断の結果もオールAに戻って今に至るわけだ。

さて一方、彼の方は取り残された。
何度か彼を誘ったが、一向に気にする素振りもないし、別に健康に支障がないのならいいかと思っていた。
しかし違ったのだ。彼は健康診断で芳しくない結果を僕にひた隠していたのだった。

(↑こちらの記事にも詳細が載っております。もしよろしければぜひ。)

僕は彼を散歩に誘い、断られるという一連の流れを繰り返している。
実体験で食事だけでなく、運動もやはり健康維持のために必要だと身につまされているからである。断じて、僕の趣味を彼に押し付けているだけではない。

そうしてひとりで散歩に出た。
よく見知った道を知らない方向へずうっと歩いていく。断られて悲しいというよりは一人だと寂しい気持ちが強い。
でも僕は飽き性なので(ハンドルネームにするくらいだ!)歩いていると見えているものに興味が引かれて、頭のどこかに投げてしまった。

一軒の本屋を見つけた。長く住んでいても新しい店が見つかるものだ。
軒先では安価な絵本が適度な量、箱に入って立てかけられている。挿絵が美しい同作者のものを何冊か見繕う。
店内にも絵本の大棚があったが、幼い女の子がその棚の前で難しい顔をして物色していたのでまたの機会とする。

ピカソの画集を見つけた。ピカソってシャガールと仲良かった人だったかしらん。
そうして、さっき聴いたフランス語を思い出す。終盤でキスシーンを挿入する映画はお約束感があって時に冷めてしまうのだけれど、アヴリルとジュリアスのキスシーンは良かった。

こういったあれこれの振り返りを今、夫に話せたらどんなに楽しいだろう!

楽しい気持ちを夢想して、どこかに投げた気持ちも取り戻した。
取り戻したはいいけれど、どうしたらよいのか分からないので、支払いを済ませた絵本を携えて歩き出した。
歩いていたら、美味しそうなパンの匂いやフローズンドリンクの色鮮やかさを見つけた。

僕は今日もたくさんの発見をして、帰途についた。
ちなみに、取り戻したあれこれは持ち切れなかったので、やはりどこかに投げてしまった。

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