『ブラウニー』#172

西洋菓子の、というか洋菓子の焼き菓子には色々と種類があって、タルトであるとかケーキであるとか大きな括りがあってそういったなかでクッキーであるとかビスケットであるとかマカロンであるとかまぁ色々ある。
そうした色々あるなかで、洋菓子屋さんに行って見目美しく、美味しそうな甘いものものを目にしているうちに迷うことは多々ある。誰もがそうだろう。そんなとき、ダントツの「これ」が無い時にもそうであり、また並ぶものものの中に見つけたブラウニーを見つけたときには必ず、最終候補にブラウニーが残る。
好きなものって、こういうものだと思う。たくさんの選択肢のなかからダントツであれば、「一番好きなもの」であるけれど、絞られる選択肢に必ず残ってくるもの、それを私は「好きな食べ物」に位置付ける。果物におけるメロン然り、食べ物という括りにおけるアジフライ然り。洋菓子においては私はブラウニーが、好きなのです。フィナンシェもかなり好きな部類だけれど、味の大きな差異を感じ取りづらくて(じゃあアジフライだってそうだろう、と言われたらぐうの音も出ないが、アジフライは味の安定感・底値がカタいことに強みがある)、ブラウニーの王道感から意外性までの振れ幅に私の心は踊る。
一度だけ、作ったことがある。まだブラウニー経験が浅いころ、レシピの文字に心を惹かれて作ってみたのだった。本自体はなんだったかよく覚えていない。脳内から引用をすると、
「材料を用意してどんどん次々に加えて混ぜていって、焼く」
、というもの。
菓子といえば計量と時間と手間に、細やかな注意を払わなければならない。そんななか、「あの」ザクザクとしたりしっとりとしたり食感の楽しい濃厚なチョコ味のブラウニーは、こんなざっくりとした注意書きから作れてしまうのかと、面食らった。
事実、計量もそこそこにアーモンドとクルミを好きなだけ砕いて入れて、かなりナッツ系の油っ気が多くて濃い味になった。それでも。濃厚なチョコの味としっとり感、それに対して外側の硬くさっくりとした食感は、初めての手作りを感動的体験に仕上げてくれた。
ビスキュイのような、キュッとした噛みごたえになったのも面白かった。
ガパオライスにしても、ブラウニーにしても、原体験的に「美味しい」と感じた味の記憶が、それ以降のパラメータを司る基準になる。私にとっては、外側のさっくり感に対する内側のしっとり感、それは歯にまとわりつくような、カタカナの「ヌ」と効果音を用意したくなる口内体験が大事で、そこにナッツのザクザク感とチョコの濃さが相まった濃密体験でもって「ブラウニー」が次の「ブラウニー」を呼ぶ。
入手に際しての手軽さもいい。手づかみでもよいし、簡易包装で求めることもできる。クリームやゼリーでは無いので取り扱いに丁重さはいらない。気温や熱くらいのものだ。金額もそう高くない。それでいて、差異のパロメータは幾通りもある。
問題は。括りとしてのブラウニーにハマっているのであって、ラーメンなら「この店」とか特定する限定性があるのに対し、こちらはどうも購入店を覚えられなかったり場所や時間の記憶ともうまく結びつかなくて、「とにかくおいしくて、愉しい」という全く再現性の低い感動であるということ。そうして。また食べたくなってくる。

#ブラウニー #180608

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