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20171103.04 トロントの街

感謝の気持ちでいっぱいのこの地を呆気なく去るのは心苦しいところがあるが、本日中にはトロントについていなければホステルのチェックインを逃してしまう。
しかし、残り百六十キロ近くある道のりは単純に計算をしても十六時間かかってしまうのでどう頑張っても本日中には着かない。総重量三十キロは時速十キロで引っ張るのが私の脚では限界だった。
さらに、この時期のカナダでの野宿は寒さが堪える事と、今後の天候が良くないと言うことも判断して、あまり使いたくない手だったが列車でトロント入りする事にした。
調べてみると丁度キッチナーの駅からトロント行きの列車が朝の八時頃から出発するらしい。

そうと分かれば早々にチェックアウトを済ませ、水溜りに朝日が輝くキッチナーの町を駅に向かって走る。

駅はモーテルから近く、自転車を輪行袋にいれて列車の切符を買うのだが券売機に何故か私のクレジットカードが読み取ってくれず、
近くにいた老夫婦に助けを求める。『何でできないかわかる?キャッシュで買えないの?』と訪ねたのだが勿論良くわからない筈で、『ウェブで買えるからそれで買うか、周りにスタッフも居ないし列車も来たから、とりあえず乗り込んじゃったらいいよ』とのアドバイスを頂いた。
もう時間もないので発券できないまま、とりあえず何枚もエラーですと出ている紙を握りしめて大荷物でのりこんだ。
大きな荷物をクロークスペースに押し込み終えると案の定、切符を拝見しますと言われてしまう。
覚悟を決めておずおずと、または堂々とアホのフリ、つまりは英語も禄に出来ない観光客だと分かってもらうために『エラーです』の紙を見せて、現金で払えるかいつもの調子で訪ねた。
すると、理解してくれたのか決して嫌な顔せず、紳士的な態度で空いている席を探し、案内してもらい、現金、しかもUSドルを渡して何とか席を買う事ができた。
その時に日本人だと伝えると『彼は日本人の友人がいるよ』と車内販売をしている男性を指した。その車内販売の彼にコーヒーを頼み、サンキューと言うと彼が片言でアリガトウゴザイマスと言ってくれたり、この列車の接客の良さなのか、カナダ人の気質の良さなのか分からないが、とにかく感動した。
途中で、私が急遽入った事によりあとから乗ってきたお客さんと席が被る事件もあったが、それもそのお客さんが先程のスタッフに訪ねてくるよと言ってくれて、何事も無かったかのようにスムーズに解決された。

こうして私は無事にトロントへと降り立ったのだ。

それにしても、たった二時間程度で私の二日間の距離を走破してしまうのは少しだけショックだ。

何はともあれ、まずは自転車を組み立てて今夜から四日間もお世話になるホステルへと向かう。
軽く街を観察しながら走っていくのだが、自転車の道路がきちんと整備されていてとても走りやすい。だからなのか、自転車でピザ配達をする人。通勤、通学等の交通手段の一つとして利用している人。勿論、レンタルサイクルを利用している観光客の人まで今までの街よりも多い印象を受けた。
さらには自転車を停めておく地面ロックのスタンドも歩道の脇に沢山あるので、自転車乗りとして非常に快適な街だった。
ただし、そのスタンドには何故か前輪が無いものや、何らかのパーツが無いものも幾つか見受けられたので、そういう輩は都市だけに多数居るらしい。

あとは、ユニオン駅を正面に左側の区域であるトレファンコートと呼ばれる場所は何となく近づき難い雰囲気を走っていて感じた。
私の利用するホステルはそれよりも北側にあるのと、大通りから一本のところだったのでギリギリ安全区域のような感じだ。あくまでも私の持った印象の話だが。

さて、チェックイン開始の時間まで二時間程度あるので荷物を預かってもらえないか聞いてみると、すんなりとオッケーがでた。
一先ず身体が軽くなったので、まずは自転車の整備をしよう。
昨日はケンのお陰でパンクは治ったものの、すり減っていたタイヤ自体は交換していないので、それを購入するのと今後のために予備のチューブ、修理キット、野宿の為のマッチも無くなってきたので追加購入した。

適当な公園を見つけてタイヤ交換をして、次はお腹が減ったので近くのビルのフードコートにて、久々にカレーを食べた。

なかなかのボリュームで味も悪くない。マンゴーラッシーも追加で注文しても千円くらいだ。
よくよく考えてみると、今の円カナダドルの相場は大体九十円くらいなので円で計算すると物価が安く感じる。

フードコートで腹を満たし、今夜のナイトクラブの予約も済ませたは良いが、どうやらののチケットにはプリントアウトしろとのことが書かれているではないか。
異国の地でPDFファイルをプリントアウトすることの難易度はサイゼリアの間違い探し位だろう。

ホステルに預けた荷物の中にはUSBメモリも入っていたが、パソコンのメールファイルから直接プリントアウトできる方法は無いかと探してみる。
どうやらネットカフェもあるようだが、図書館を利用するのが安く済むらしい。しかも、丁度隣の建物が図書館だったので社会見学がてら行ってみることにした。
中は広くて多国籍国家なだけある。様々な人種が利用していて、学生だけでなくてホームレスからお婆さんまで沢山いた。
そんな図書館のパソコンを借りて四苦八苦してみたのだが良くわからない。
図書館でのプリントアウト専用のプリペイドカードに十五セントを入れて使うらしい。それは無愛想な受付のおばさんに言って作ってくれたが、アカウントも必要らしくてそれをどうやって作るのか上手く伝えれなくて諦めた。
というか、大体のクラブのEメールチケットはQRコードなのだからわざわざプリントアウトしなくても大丈夫だろうと高を括ったのだ。

そろそろホステルに戻ってチェックインしようと、自転車を停めていた所に戻るとツールを入れていたチューブバッグが開かれているのに気がつく。
もしやと思って確認してみると、ライトを2つとチェーンカッターが無くなっていた。こればっかりは油断した。
勿論、後輪は地球ロックをして前輪とサドルにまでロックコードを付けておいたのにチューブバッグは放置してしまうとは情けない。被害総額は五千円くらいだろうか。なかなか高い勉強代だ。

これまでカナダ人は優しいという印象だっただけに、ちょっとだけ都会の人間性に対して悲しくなったまま、ホステルのチェックインを済ませた。


荷物を整理し、ようやく強力なネット回線をゲットできたのでスマートフォン内の各アプリケーションをアップデートをしたり友人に生存報告をしたりして過ごす。

先程遅めの昼食にしてしまったので、夕飯も遅めでナイトクラブのオープン前にその付近にあったラーメン屋に入ってみた。

味はまあまあだったが、久々に麺とスープとご飯も食べれたので満足はした。
それよりも、日本のラーメン屋に韓国人の店員、韓国のポップミュージックが店内に流れて、中国人客と日本人とカナダ人がいる空間が面白かった。
あと、この定食でサービス料含め千五百円くらいしたので国外で日本食が恋しくなったら高い値段を払わなければならないと勉強になった。

私がトロントのナイトクラブに行った日のイベントは四つ打ちの盛り上がる感じのパーティーだった。
オープンと同時に入っても面白くないのでビールを飲んでしばらくは後半に体力を残しておくために座っている事が多い。
今日もビールを頼もうとしたのだが、カナダドルしか使えないと言われてしまう。
今持っているのは列車に乗るときにUSドルで払ったお釣りの分の二ドルと何セントくらいしか無かった。
諦めようかと思ったが、ATMがあるではないか。
どう使うかわからなかったが、カードを差して何回かボタンを押したら二十カナダドル札が三枚出てきた。
さっきのバーテンダーのおねーちゃんに『ほら現金ゲットしたからビールをオクレ』という態度を出したら、なんか変な目で見られながらも、さっき注文して貰い損ねたやつを新しく出してくれた。

あとは適当に踊りながら人間観察をしていた。なんだか凄く盛り上がったパーティーでテッペンを過ぎれば人もいっぱい、意外と年齢層も幅広く、人種も様々。
因みに一人だけ可愛い子がいたが特に何かあるわけでもなく、私は二時くらいに途中で疲れてホステルに戻ることにした。
何だか色々と考えてしまってノれない夜になってしまった。

途中の24時間営業のスーパーでマフィンとヨーグルトを買って帰り、キッチンでマフィンを食べようと手にすると、別の部屋の男性も帰宅したようで、マクドナルドを片手にキッチンにやってきた。
そこで彼、ラヴと話をした。
話をしたと言っても、私はまだ相手の事を質問する会話が苦手なので一方的に自己紹介をしているだけだ。
『いつまでいるのか?』『トロントには何故来たのか』『何歳?』
普通の会話の流れで、私が音楽をやっている事の話になり、明日は路上ライブをやる予定だと伝えると、『友達もトロントに来るから一緒に見に行くよ』と言ってくれた。
私は内心、時間と公園の名前ともしかしたら駅でやるかも。とだけ伝えたのでまず会えないだろうと思ったが、来てくれると言ってくれた気持ちは嬉しい。

それからマクドナルドを食べ終えたラヴは寝室に戻り、私もチョコチップマフィンを二つ平らげてコーヒーを一杯飲んでから寝た。

翌日、起きると昼だったのでゆっくりとシャワーを浴びて昨日買ったヨーグルトとマフィンの調子を食べる。

その後、路上ライブをやるには時間がまだあったのでチャイナタウンを観光してみることにした。
チャイナタウンでは新鮮な野菜が売られていたり、中華レストランが並んでいたのだが、レコード屋さんも二軒ほどあったので入ってみた。
一軒目はタワーレコードっぽい雰囲気でしっかりとオリジナルグッズまであったりする所で、品ぞろえが大体新品で値段も高く、私は購入には至らなかったが有名所のレコードからアプリゲー厶のOSTのレコードなどもあるだけではなく、お土産も充実しているのでトロントではここに来ればお目当てのモノ以上が見つかること間違いないだろう。


二軒目は先程とは違い、ユーズドレコードが主な品ぞろえのお店。
手前がヒップホップで奥に進むとテクノやハウスの四つ打ちが多数置かれていた。
ただ、状態に対しての値段が少し高いものも多かったので曲の価値で値札をつけているのかもしれない。その辺りは良くわからない。
私はそこで、安牌を一枚とジャケットは素敵だが詳細が何もない賭けの一枚を購入。帰国したらのお楽しみにする。

そろそろいい頃合いになって来たので一度買い物した荷物をホステルに置きに戻り、路上ライブ用の荷物を取り出してラウンドハウスパークに向かう。

そこで路上ライブをするつもりだったのだが、先客の銅像系パフォーマンスが居たのと人の流れがあまり良くないと判断したので駅の方に向かう。
こちらに来てみると先程の公園よりも人通りも多く、寒さを凌ぐ壁もあるのでやりやすそうだ。ラヴには悪いがここでやってみよう。
さっさと準備をしていざ座り演奏してみると、寒さに耐えるので精一杯であまり周りを観察する余裕がない。
何となく耳に入ってきたのは、カップルの女性の方が『あれなに?』『あぁ、あれはDJみたいなもんだよ』『へぇ~それはかっこいいね!』という会話が耳に入ってきた。それは私がかっこいいのでは無く、その知識を知っている彼がかっこいいというニュアンスなのでは。
そんなことを思いながら寒さに震えながら演奏していると、なんとスピーカー横のヘルメットに二ドルコインが投げ入れられたではないか。そんなまさかと思いながら顔を上げるとホットドッグを手にした老夫婦がこちらを見ていた。
咄嗟にサンキュー!と私が言うと二人は歩き去ってしまったので感謝を最大限に、手応えを少しだけ感じながら次の曲を続けた。

一時間ほどその場に座り込み、シーケンサーを打ち込んでいたが寒さも限界になり、尿意まで襲ってきた。人通りも先程よりも減ってきたのでそろそろ引き上げるとしよう。
自然と身体は震えてしまう程に冷え切っていたが、心は暖かかった。
ホットドッグ屋の隣でドラムを叩いている男は未だに叩いていたので、おすそ分けとして幾らかのコインを投げ入れてからホステルに戻った。


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