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「エプロンが僕に旅をさせてくれる」DRESSSEN 後藤順一が考える“場の価値”。

「エプロン」と聞いて、どんなものを想像するでしょうか。無地で目立たず、シンプルなもの。お洒落なものであっても、柄が入っている程度。作業着であって、それ以上でも以下でもないといった印象が強いと思います。

しかし、2015年にスタートしたエプロンブランド『DRESSSEN』のエプロンは、従来のイメージと大きく異なっています。ひときわ目を惹く、“YES!”や“GOOD JOB!”などのシンプルなメッセージ。どこか懐かしさも感じるデザイン。見ているだけで、ワクワクしてくる。

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そんなエプロンブランド『DRESSSEN』を手掛けるのは、フードコーディネーターでもある後藤順一さん。エプロンの作成はもちろんのこと、展示会なども積極的に行っています。なぜエプロンブランドを立ち上げるまでに至ったのか。そして、“場の価値”をどのように捉えているのか。後藤さんのこだわりを、たっぷりと語っていただきました。

「ないなら作ろうじゃないか」という想いから始まった。

フードコーディネーターになる前は、20年ものあいだアパレルの仕事をしていた後藤さん。アメリカの西海岸を訪れては、古着を買い付けるバイヤーの仕事をしていたそう。

アパレルの仕事に不満はなかったけれど、その傍らずっと趣味として身近にあったのが「食」。食べ歩きなども大好きで、いつか「食」に関わる仕事もしてみたいと思っていたとのことです。

「もちろんやりきったとは思っていませんが、『衣』に関する仕事は20年間で一区切りつけても良いのかなと。同じようにアパレルの仕事を続けるよりは、自分の心の声に従ってみようと思ったんです」

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こうして、「衣」から「食」に舞台を移した後藤さん。フードコーディネーターの資格をとるため、専門学校に通うことに。そこでの出来事が、後藤さんを『DRESSSEN』に向かわせることになります。

学校の調理実習にて、毎回必要だったのがエプロン。後藤さんはせっかくならと、バイヤー時代に買いためていた、たくさんのヴィンテージのエプロンを持っていったそう。毎回違うエプロンを着ていると、同級生や先生、ついには学長にまで「今日のエプロンも素敵ね!」「かわいい!」と褒めてもらえるように。

「褒められると良い気分になるじゃないですか(笑)。それなら、もっと違うエプロンを着ていこうと思って、日本で探してみたんですよ。でも、僕がワクワクするようなエプロンはなかったんです。それが『DRESSSEN』誕生のきっかけですね。自分が好きなエプロンがなかったから、それなら作ってみようって」

そこから工場へ飛び込み、おひとりでエプロンを作り上げた後藤さん。2015年2月、ついに『DRESSSEN』が誕生します。

コミュニケーションを生み出す、シンプルなメッセージ

『DRESSSEN』のエプロンの一番の特徴は、全面に押し出された“YES!”や“GOOD JOB!”などのポジティブなメッセージ。どういった想いで、このようなメッセージを採用したのでしょう。

「普通のお店のエプロンって、無地が多いじゃないですか。それがもったいないと感じていたんです。エプロンが無地だと、なんの広がりも生まれない。でも、コーヒースタンドだったらコーヒースタンドに合わせたメッセージが、バーだったらバーにちなんだメッセージがあったら、そのメッセージをきっかけに会話が生まれる気がしたんです」

多くの飲食店では、店員さんがお水やメニューを置いてくれて、その店員さんを呼んで注文します。そのとき、エプロンに“YES”という文字が大きく書かれていたら、たしかにこちらの気持ちも明るくなり、コミュニケーションが生まれるかもしれません。

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「大盛りにしてほしいなとか、ちょっと辛めにしてほしいなとか、そういったときに“YES”って書かれたエプロンを着けてくれていたら、頼みやすいじゃないですか。“YES”って言葉が、僕たちと店員さんをつなげてくれるんです」

エプロンに書かれた言葉が、客と店員をつなげてくれる。だからこそ、最高のポジティブ言葉である“YES”を真っ先に発表しようと思っていたんだそう。

たったひとつの言葉によって、コミュニケーションを生みだす。『DRESSSEN』の魅力のひとつが分かった気がします。

使い込むことで、エプロンは世界にたったひとつの芸術作品になる。

2015年の『DRESSSEN』スタート以降、ずっと後藤さんおひとりで運営されているとのこと。もちろん大変なこともあるけれど、それ以上の嬉しさを感じるからこの仕事を続けられていると、後藤さんは語ります。

「みなさん、それぞれの場所でエプロンを使ってくれていますよね。油シミがついている人やコーヒーの茶色いシミがついている人、ブリーチがついている美容師さん。みなさんが使い込むことで、その人だけの汚れがついて、世界にひとつだけのエプロンになるんです。それって、芸術作品みたいだなって。みなさんが使い込んで、たったひとつの大切なものになる。それほどにエプロンを愛してくださっているのが、本当に嬉しいんです」

その人だけの汚れで、世界にたったひとつしか存在しないエプロンになる。それは、汚れるほどに『DRESSSEN』を愛している証にも。

「新品のエプロンと交換して、その芸術作品を買い取りたいくらいなんです(笑)。でも、どのお客さんも『ごめんなさい、このエプロンが気に入っているから』って言ってくれる。あぁ、僕が作ったエプロンをこんなに愛してくれているんだな、って実感できる瞬間ですね。やってきて良かったと心から思います」

エプロンが旅をさせてくれる。だから、一つの場所には留まらない。

『DRESSSEN』は、いわゆる常設店を設けていません。多くのファンがいるのだから、お店を構えても良さそうなところ。けれど、お店を持たないことにも後藤さんのこだわりがありました。

理由のひとつは、後藤さん自身が刺激を受け続けるため。

「コロナが蔓延する前は、年に2回ほどアメリカへひとり旅をしていました。アメリカって色んな人種の人がいるから、どの人にも分かるよう、広告や売り文句が短文で表現されているんです。そんなメッセージに触れ続けていると、どんどんアイデアが生まれてくる。こんなメッセージをエプロンに書いたら良いんじゃないか、お客さんが喜んでくれるんじゃないかって」

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お店を持たないからこそ、こういった旅に出かけることができる。この旅は、海外に限った話ではありません。

日本国内でも「DRESSSENさんのエプロンを売りたい」と色んな地域の人が声をかけてくれる。その度に、後藤さん自らその地域に出向いて、取引をするんだそう。

「先週は函館にいたんですけど、来週は鹿児島に行く予定です。こうやっていろんな地域に自分の足で行くと、それだけ新しい刺激をもらえるんですよね。そして、その刺激が新しいアイデアを生み出してくれる。その循環を止めたくなくて、お店は持っていないんです」

エプロンが僕を旅させてくれているんです、と語る後藤さん。その旅を続けているからこそ、多くの人を惹き付けるアイデアが次々と生まれるのだと思います。

人が動いている場所だからこそ、展示会がワクワクする空間になり得る。

常設店は持っていないものの、展示会は精力的に行っている『DRESSSEN』。展示会をどのような場所として捉えているのでしょうか。

「旅から帰ってきて、そこで生まれたアイデアをお披露目する場所ですね。お客さんも楽しみにしてくださっているんです。『こんなメッセージが出てる!』とか『あんな形が出てる!』とか。お客さんの喜ぶ顔と声に触れられる、貴重な機会だと考えています」

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展示会で新しい出会いが生まれることもありますし、と語る後藤さん。お客さんの期待に応える場所として、とても大事に考えているとのこと。

『DRESSSEN』は、そんな展示会をHYPHEN TOKYO の直営店舗である OPEN NAKAMEGUROで過去3回〔2021.8月現在〕行っています。OPEN NAKAMEGUROの特徴は、ただのレンタルスペースではなく、カフェが併設されていること。

カフェがあるからこそOPEN NAKAMEGUROを選んだと、後藤さんは語ってくれました。

「一般的なレンタルスペースだと、人が止まっているんですよ。受付の人も止まっていて、興味のある人以外は入りづらい。でも、カフェが併設されていることで、場が動くんですよ。人がひっきりなしに動いていることで、来てくれた人がワクワクするような展示会になっていますね。“空間演出としてのカフェ”がある強みだと思います」

コーヒーの豆を挽く人、レモンを切る人など、カフェの中では人が絶えず動いています。その動きがあるからこそ、展示会自体も外に開けたものになる。そんな“動き”に一目惚れして、いまやOPEN NAKAMEGURO以外での展示会は考えられない、とのことです。

常設店を持たずに動き続ける『DRESSSEN』と、人が動き続けるOPEN NAKAMEGURO。両者が合わさるからこそ、人を惹きつけ続ける展示会が生まれるのかもしれません。

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『DRESSSEN』の想い、そして後藤さんが考える場の価値についてお聞きした今回のインタビュー。

常設店を持たないからこそ、オフラインの場を貴重なものとして考えている『DRESSSEN』と、カフェを併設しているOPEN NAKAMEGUROの相性はとても良いのだと、後藤さんの言葉からも感じました。

HYPHEN TOKYOでは、このような展示会以外にもさまざまな用途に合わせて場を提供しています。

表現をしたいモノやコトがある方は是非お問い合わせください!

(取材・執筆:安久都智史

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