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賛美をもっと豊かに!~ヒム・フェスティバル(hymn festival)のすすめ~

 キリスト教の特徴の一つに「歌うこと」があるのではないかと思います。日本にはいくつかの翻訳聖書がありますが、そのうち「新改訳2017」版では「歌」という字が331回出てきます。(検索はこちらから)
 コロナ下の日曜礼拝(等の集会)においては、その特徴にも変更が余儀なくされました。出席者のマスク着用は当然として、何節かあるうちの一節分だけを歌ったり、歌わずに「奏楽(伴奏)を聞きながら歌詞を黙読してください」という対応を取る教会もあるそうです。このような状態が当分続くと思うと鬱屈としてしまいますが、心置きなく歌えるようになる日が一日も早く来るのを願うばかりです。
 そのような状況下で歌うことを推奨する記事を書くのは自分でも多少気が引けますが^^;、「来たるべき日」のためということでご理解ください。そして、以降の内容はコロナ禍を考慮に入れない表現となります。

1.概説

 教会で最もよく歌う場面は、言うまでもなく日曜礼拝です。教派(宗派)や教会によって曲数はまちまちですが、平均すれば4曲程度でしょうか。カトリック・聖公会・ルーテル等、詠唱(chant)を取り入れている教会では10曲近くに及びます。それ以外にも、前奏・後奏等、会衆の黙想(黙祷)のために音楽が用いられています。
 礼拝以外にも歌う場面がいくつもあります。昼食会の始めに、食事が与えられたことへの感謝の歌を歌う教会もあるでしょう。平日に行われる祈り会でも何曲か歌うでしょうし、「賛美歌を歌う会」やいわゆる歌声喫茶のような集会を行っている教会もあります。(賛美歌以外の童謡・唱歌を歌う場合もあるようです) また、歌を極める集会(聖歌隊練習、ゴスペルワークショップ)を行っている教会も多いのではないかと思います。クリスマス前の時期には、駅前や病院、福祉施設等でキャロリング(クリスマスの賛美歌carolを歌うこと)を行う教会もあります。
 ここで一つご紹介したいのは、お知り合いの教会での事例です。その教会では毎月一回、その月の誕生者をお祝いする時を持っておられますが、その方の愛唱賛美歌を皆で歌うそうです。ハッピーバースデーも悪くはないですが、愛唱賛美歌というのもいいですよね。

 さて、本題に入ります。
 ヒム・フェスティバルという言葉をご存じない方が比較的多いかもしれません。日本基督教団出版局が2018年のアドベント(待降節)期間中に開催されたヒム・フェスティバルのチラシ(リンク先はPDF)から、説明文を引用させていただきます。(当日の様子は『礼拝と音楽』180号(2019年冬号)に掲載)

 ヒム・フェスティバルは、キリスト教の暦や習慣、出来事など、あるテーマに沿って、たくさんの賛美歌を歌う集会です。
 独唱や楽器の演奏、詩の朗読などが盛り込まれることもあります。ヨーロッパや北米の国々の教会で行われており、特にアドヴェントからクリスマスにかけてのこの時期は、ヒム・フェスティバルの「はしご」をする人びとも見られます。
 日本基督教団讃美歌委員会では、ゆたかな賛美体験のひとつであるヒム・フェスティバルの普及に取り組んでいます。

 ワーシップやゴスペル、CCM(Contemporary Christian Music)の場合は、かなり前から「賛美集会」等という呼び方で「たくさん歌う集会」が行われています。一方で、クラシカルな作品を中心とした「賛美歌」については、日本ではなかなかそういう機会がないのではないかと思います。
※賛美集会に関しては、山下真実牧師(日本バプテスト連盟・ふじみ野バプテスト教会埼玉県 富士見市)による論考が、いずれ『礼拝・音楽研究』(東京基督教大学=千葉県 印西市教会音楽アカデミー発行)に掲載されるようです。その根拠となる公園チラシはこちら(PDF)から。

 私がヒムフェスに初めて触れたのは、2016年夏のキリスト教音楽講習会の中で行われたものでした。その時のテーマは、たしか教会暦だったと思います。当時のfb投稿には、2時間弱で18曲を歌ったと書いてありました。ただし、これは全曲斉唱という訳ではなく、「男女」「座席の左右」など、適度に休憩?を入れながら、様々な歌い方を楽しんだのです。聖歌隊が活動している教会では、聖歌隊と会衆、さらに独唱者を交えたコール&レスポンスの形もあり得るかもしれません。
 翌年以降の講習会でのヒムフェスは、下記のテーマで行われました。
 2017年:ルターとわたしたちの賛美歌(筆者注:この年が宗教改革500周年)
 2018年:みつばさのかげに~J.クレッパー(注:「この聖き夜に」等の作者)の日記と詩で綴るいのちの歌
 2019年:賛美歌詩人パウル・ゲルハルト(注:「まぶねのかたえに」「血しおしたたる」等の作者)

 知りうる限りでは、上記講習会と同時期に行われる関西キリスト教音楽講習会日本賛美歌学会全国大会の際にもヒムフェスが行われています。
 ヒムフェスの最大の特徴は、賛美歌に関する知識が深まることなのではないかと思います。賛美歌をもとに作られた奏楽曲の演奏や賛美歌作者による詩の作品、あるいは賛美歌そのものについての解説等、礼拝で賛美歌を歌う時にはできない体験がヒムフェスでできるんじゃないかと思うのです。(奏楽曲は礼拝の前奏・後奏で聞けますが) 先述した多様な歌い方も、礼拝ではなかなか難しいのではないかと思います。

 讃美歌委員会が「普及に取り組んでい」ると書いている通り、日本でのヒムフェス普及は途上にあると思われます。それなりにヒムフェスを経験している人間としては、各教会で多彩なヒムフェスが行われてほしいと思うのです。
 先に引用した「(教会)暦や習慣、出来事」を手掛かりにするならば、賛美歌集の項目を参考にすれば比較的容易にプログラムを組めるかもしれません。また、講習会での事例のように賛美歌作者を一人取り上げるというのもやりやすい方法だと思います(歌集巻末の作者索引参照)。讃美歌第二編は曲のスタイルごとに曲が配列されている特徴があるので、それも参考になるかもしれません。ここからは個人的な意見ですが、「皆の好きな賛美歌」も一つの立派なテーマなんじゃないかなぁと思っています。

2.筆者による主宰事例の紹介

 実はこのヒムフェスを2回主宰したことがありまして、その実例をご覧いただきたいと思います。
・2019年11月 日本基督教団Y教会(関東地方)(見出し画像はこの時のもの)
 第一部 「キリストの半年」を歌う―讃美歌21を手がかりとして―
 小話:開催に至った経緯
    教会暦が「待つ」ことから始まることをもとにした浅い話(^^;;
 聖書朗読:イザヤ書25章7節~10節前半
 1.待降―久しく待ちにし(231)
 小話:賛美歌には替え歌が多い
 聖書朗読:イザヤ書42章5節~7節
 2.降誕―生けるものすべて(255)
 小話:「長い賛美歌」の歌い方から、日本人の歌集信仰の話
 聖書朗読:イザヤ書53章
 3.受難―救いのぬしは罪もなしに(293)※2、5、7節は独唱者
 小話:会衆賛美の歌い方の紹介―合唱、輪唱、男女別、会堂の左側・右側…
 聖書朗読:マタイによる福音書28章5節後半~6節前半、8節
 4.復活―主はよみがえられた(331)※輪唱
 小話:歌うだけでない、賛美の表現
 聖書朗読:ハバクク書3章17節~18節中盤
 小話:キリスト者は何を喜びとするのか
 5.キリストの生涯を総観―おどり出る姿で(290-1、2、5)
 ~牧師によるショートメッセージ~
 第二部 コンテンポラリーの部
 6.鹿のように
 7.Still(ミクタム版)
 8.花も
 9.叫べ全地よ
 10.ハレルヤアーメン
 11.真昼のように
 12.土の器
 13.I give you my heart(歌集情報不明)
 14.君は愛されるため生まれた
※第一部で朗読した聖書箇所は、すべてその曲の引照聖句として譜面に記載されていた箇所(前後を足したりした場合もあり)

 このヒムフェスの特徴は、クラシカルとコンテンポラリーの融合でした。講習会にしてもこういう集会にしても、どちらか一方の場合が多いのではないかと思います。しかし、長年親しまれている賛美歌詞の口語化も徐々に進んでいますので、演奏方法の固定観念が打ち破られて「コンテポラリーな集会でクラシカルな賛美歌も」もっと歌われるようになってほしいと思います。
教会福音讃美歌では、多くの曲でギターコードが記載されています
 一番感謝だったのは、独唱とフルートで共演してくださる方々が与えられたことです。輪唱は会堂の左側・右側・フルートの3手に分かれて行うことができました。(写真はリハーサルの合間に。ピアノを弾いておられるのが牧師)

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 「キリストの半年」とは教会暦の前半部分、すなわち待降節~昇天日を指します。上掲の「『待つ』こと」というのは待降節(アドベント)のことです。半年の概要は下記の通りです。(呼称は教派によって違う場合あり)
 降誕節(クリスマス以降)
 受難節(2~3月にある「灰の水曜日」以降の40日間)
  受難週(受難節最後の1週間。棕櫚(しゅろ)の主日から始まる)
   洗足木曜日(最後の晩餐の中でキリストが弟子の足を洗ったことに由来)
   受難日(洗足木曜日の翌日。キリストが十字架につけられて死んだことを記念)
 復活節(イースター以降)
  昇天日(イースターから数えて40日目(木曜日)に、キリストが天に昇られたことを記念)

 第二部については別の方にすべてお委ねしたんですが、元々は第二部で「教会の半年」を歌う予定にしていました。参考までに、そこで想定していた内容もご紹介します。
 聖霊降臨  346来たれ聖霊よ(信ずる群れに)
 教会のわざ 礼拝  19み栄えつげる歌は
       伝道 408この世のもので
      交わり 393こころを一つに
   平和をつくる 371この子どもたちが
          419さあ、共に生きよう
 契約節      226輝く日を仰ぐとき
 聖徒の日     385花彩る春を
 大トリ      564イェスは委ねられる
 契約節というのはあまり一般的ではないんですが、10月中旬からの約1ヶ月を指します。神が私たち人間を含む天地のすべてを造られたこと、その御心から離れて人間が罪に堕落してしまったこと、そこから救い出すために神が救いの計画を用意してくださったことを想起する季節です。ちなみに、降誕前節の始まりは契約節のそれと同じです。

・2020年8月 日本ホーリネス教団S教会(新潟県内)
 1.新潟出身の作詞者による賛美歌

  新聖歌 85「羊はねむれり」1、4節(21-252、福讃86)
  新聖歌207「ああ主のひとみ」2~4節(21-197、福讃219)
  会場教会の礼拝で使われているのが新聖歌だったので、この表記です。
 2.最近作られたおすすめ曲
  21-346「来たれ聖霊よ(信ずる群れに)」
  『讃美歌21略解』では、旋律ABBOT’S LEIGHについて、“第2次世界大戦以後に書かれた創作曲のうち、混声4部合唱のスタイルで書かれたもっともすぐれた作品の一つ”と紹介されています。
  同じ旋律との組み合わせで収録されている日本聖公会聖歌集492「神こそ愛なり」も、譜面だけご紹介しました。前掲の21-564も含め、一つの旋律を覚えれば3曲歌えるようになるのはお得ですね(笑)
  聖公418「だれも一人だけでは」
  曲も詞も現代的かなぁと思いまして。この歌集のオリジナル曲の中ではトップ5に入るくらいには気に入っています。
 3.前日に経験した出来事から
  福讃339「この世にイェスのみ名を」2節(聖公204、別訳で21-379)
  この曲は少々難しいので、聞いていただくだけにしました。

 このヒムフェスは、前回(約2時間)と異なり20分と短時間でした。ただ、これでも何とか成立するなぁという手応えをつかむことはできました。内容はさほど統一感がないですが、これもアリではないかと思います(正当化)。
 最初で地元ゆかりの作品を紹介しましたが、正直言うと日本の賛美歌作家を出身都道府県別にまとめてどこかで掲載してくれないかなぁと思ってしまいます。もちろん『21略解』等の情報を自分でまとめれば済む話ですが、なかなか時間がなく(^^;;

3.おわりに

 今回も長くなってしまいましたが、前後編に分けると中途半端になってしまうので一気にお届けしました。
 この記事ではヒムフェスを推しはしたものの、極論を言えば「スタイルの如何は構わない」と思うのも事実です。すべては賛美が豊かにささげられ、それによって神の栄光が現されること、さらに言えばそれを通してキリスト(教)と出会う方が一人でも多く起こされることが願いだからです。
 外部からゲストを招いてコンサートを開催する教会は多いと思いますが、地産地消?な賛美集会はどうでしょうか。一教会単位では難しいとしても、地区・県単位であれば様々な楽器の賜物を持つ方がいらっしゃるんじゃないかと思います。
 再び心置きなく賛美ができるようになった時には…とコロナ禍の話題を再出してしまいましたが、いずこの教会でも賛美がより身近になることを心から願うものです。

 主を賛美するために民は創造された。(旧約聖書 詩編102編19節冒頭=新共同訳)

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