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ストロングゼロ文学ゲー Disco Elysium

【5/12追記】
公式が翻訳希望言語の投票受付を開始しました。詳しくは↓から!

Twitterの細切れな感想以外にも、もう少しちゃんと書いてみたかったのでnoteのアカウントを作りました。時々洋ゲーの感想を投下する場所になると思います。

Disco Elysiumってどんなゲームなの

ひと言で言えば刑事になって殺人事件を解決するゲームです。日本語にするとディスコ天国とか楽園ディスコって感じでしょうか。語感はものすごくダサいですが、ゲーム世界には常にそんな『いなたさ』が漂っています。

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舞台はラヴァショルという国の西にある町、マーティネーズ。景気と治安が悪く、数えるほどのお店と酔っ払いとクソガキがほとんどの、活気のない港町です。名前の響きも併せて、60~70年代のリヴァプール(国の名前だから多分違うし、町の寂れ具合は比較になりませんが)がモデルなのかな、という印象。ラヴァショルはかつて王国として栄えた歴史ある国ですが、過去に大きな共産主義革命が起き、革命は失敗に終わったものの、王国はなくなり、連合と呼ばれる多国籍機構の占領下にあります。そのため自治権は奪われていますが、実質的な支配権を握っているのは労働組合で、連合とは対立しがちです。港は現在ストで閉鎖され、港湾労働者も、連合から派遣された人員も、中に入れない状態になっています。 

主人公はこの町で起きたリンチ殺人の捜査のために連合配下の警察組織から派遣されたとある刑事。状況が状況のため、『連合の犬』は誰からも歓迎されません。そんな彼は、どういうわけか捜査もせずに華々しく酒とドラッグをキメて大暴れした挙句に心臓発作を起こし、九死に一生を得て町内唯一のディスコ兼ホステル、『ワーリング・イン・ラグス』の自室で目を覚まします。気がつけば、すべての記憶と自分の身分証、加えて拳銃までも紛失した一文無し。さらに未払いの宿代と自分が割った窓の修理代を請求され、今日から宿代は前払いね!と宣告される最悪の状態からゲームが始まります。ちなみにスタートして意識を取り戻した直後は、画面中央に靴下と肌色と布地の区別がつかない色のパンツだけを履いたおっさんが立っています。

刑事なのにサタデーナイトフィーバーも真っ青の出で立ち、酒とドラッグで濁った目と実際よりも老けて見える見た目、彼自身は覚えていない派遣後の様々な行状のせいで、さらに非協力的な住民たちから情報を引き出し、殺人事件を解決するのがゲームの目的になります。

主人公の脳内では、常に自分自身の中のいろいろな役割の自分が自分を諫めたり、正しいとは限らない助言を与えてくれます。主人公自身はもう破滅同然状態のため、何が正しい判断なのかわかりません。しかし、別の所轄から派遣されたパートナー、クールなメモ魔キツラギさんの反応を見ることで、ある程度のスタンダードはわかります。スタンダードに沿うか、酒とクスリに溺れ続けるか、終末思想に憑りつかれるか、どう生きるはプレイヤー次第です。

人を選ぶゲーム

日本語版がないこと自体そもそも人を選んでいますが、いわゆるメインストリームのゲームではありません。
基本的にはテキストを読むことが主体のゲームで、アクション的な戦闘はありません。ダイアログも会話文というよりは小説的です。
ゲームの世界観や主人公のバックグラウンドと相まって挫折の苦みが利いた内容は、ストロングゼロ片手にクダを巻きたい気持ちがわかりすぎる私のようなロスジェネ世代や、挫折を経験した人の方が向いていそう。逆に刺さりすぎてつらい場合もありそう。
とはいえ鬱ゲーかと言うとそうでもありません。私はある程度前向きな方向で進めましたが、プレイヤーのRP志向次第で、ストーリーの印象は鬱にも素っ頓狂にも変わりそうです。また、ゲーム中本当に爆笑したシーンがいくつかあり、全体的にトーンが抑えめな分、笑わせに来る時のギャップが大きいので油断は禁物です。

それに、目が覚めて鏡見た主人公の顔がこれ↓ですから、光の戦士的なあれは一切期待できません。だがそれがいい

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このSSでおわかりのように、劇中に挿入される画像はアーティスティックな油絵タッチです。こういう挿絵が入った退廃的なハードボイルド(選択によっては恋愛要素もあるようですが未トライだし幸せにはなれなさそう)小説を読んでいる感覚に近いな、と思いながらゲームを進めていました。

たぶんこんな人に向いている

・文字を愛している
文字を読まないと生きていられない人には大満足のテキスト量。日本語化を考えただけで遠い目をしたくなるレベルに大満足。

・推理小説が好き
宿の裏庭にひっそりと佇む枯れ木に吊るされた死体から始まる殺人事件。自分自身のアイデンティティ、刑事としての在り方を探しながら被害者の身元を洗い出し、様々な思惑を持った周囲の人々の真意を解き明かし、意外な犯人にたどり着く正統派の推理小説がストーリーの軸になっています。
それだけに現状日本語版がないのが本当に悔やまれます。作業所を準備してくださっているそうなので、オープンしたら及ばずながらお手伝いいたす所存です。

・心悲しい雰囲気が好き
人影の少ない寂れた町、町はずれの荒涼とした寒々しい海岸、打ち捨てられた教会、かつては活気にあふれていたであろう市場。その中を奔走するうらぶれた初老の刑事とそのパートナー。心躍る景色ではありませんが、もの悲しい詩情が漂う美しい世界です。そこに流れる音楽もまた、そこに暮らす人々の心を表すように、どこか悲しげで繊細です。

・考えるのが好き
物語の中に登場するトピックは、単に事件に関係することばかりではありません。現実世界にオーバーラップする形で、エリシウム世界の歴史をベースに政治的右派・左派、レイシズム、セクシュアリティといったデリケートなものも含まれます。かといって、どちらが正しいかを確定的には提示せず、作り手側の立場はある程度ニュートラルに保たれているように思いました。
加えて哲学やアート論に陰謀論、おまけにUMAなども登場して、堅くなりがちな中にも独特のニュアンスを持ったおかしみが散りばめられています。

・他人の秘密をほじくり返すのが好き
これはVampyrに近いものがありました。あっちはただの(吸血鬼)医者ですが、こちらは刑事さんなのでどこにでも首を突っ込んでいろんな謎や秘密をほじくり返す行動に違和感はありません。

・男同士の友情の物語が好き
これも進め方によるのですが、パートナーのキツラギさんは常識的なナイスガイで、寄る辺ない主人公にとっては唯一そばにいてくれるありがたい(時に鬱陶しい)存在です。初めはあまりにも破滅的すぎてこんなやつにはついていけない、といった風情のキツラギさんを疑いながらも、ともに事件を追い、固い絆で結ばれて行くプロセスはなかなかに熱いものがありました。

難を言えば

ゲームが嫌になるほどのものではなく、もうちょっとこうだったらよかったのになー程度の不満です。

・移動が面倒
移動はクリックした場所に歩いて/走って行くのですが、オープンワールドのわりには狭いとはいえ、エリア間移動に少々ストレスを感じました。移動では時間経過がほとんどなくてゲーム進行には関係しないので、FT機能があればもっと幸せになれたのに。

・運ゲー要素
ダイアログの途中で、自分の能力値によって成功率が変わるチャレンジ項目が出ることがよくあります。自動的にサイコロが振られて成否が決まり、一部を除いて能力値を上げてから再挑戦することができます。が、97%でも失敗することがあって、そのたびにクイックロードしてロード画面見るのはちょっと面倒でしたね。

・ちょっと不親切
開始当初はとある理由で別エリアに行けません。一定の日数が経つとそこが通れるようになりますが、それに関して説明がなく、気が付くまでに時間がかかったりするなど、ひと言説明がほしいな、と感じることがありました。

1番目と2番目の面倒さのせいで、初回クリアできなかったチャレンジ達成を狙う、違うビルド(思慮深い/繊細/脳筋/カスタム)での周回意欲を高めてくれなくなるのがちょっと残念です。つよくてニューゲームがあったら移動以外は解決なんですけど。

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追記:アップデートが来ました(1/25)

ハードコアモードを追加するアップデートが来ていました。リリースノートによると、
・より一層失敗する
・より一層貧乏に
・より一層おクスリがお高く
・より一層おクスリに頼るように
・より一層思慮深く
・より一層学習が早くなる
最後がなかったらただの嫌がらせにしか見えなかったと思いますが、レベルアップが早くなることでいろいろ工夫してまた違った楽しみ方ができそうです。現在繊細タイプで3周目を回っているので、それが終わったらまたのんびりハードコアモードで遊んでみたいと思います。

まとめ

・今の世の中的な情勢とシンクロした内容が示唆に富む良ゲー
・新人賞獲るのは納得
・内容は地味だが英語が苦にならないなら日本語訳を待たずに買いだ
・ZA/UMさんの次回作楽しみにしています
・公式日本語版がほしいけど、日本語化作業所ができたらがんばります
Disco Elysium、私は大変好きでした。脳筋気味のカスタムで2周目をのんびり遊びたいと思います。

こっちも追記:能力によって提示される選択肢が変わったり、クリアできるチャレンジが変わったりして、ほんの少しストーリーの細部が変わるんです。結末が大きくは変化しないので周回するかなあめんどくさいなあと思っていたんですが、その辺りも面白いんですよこれ。

主人公とキツラギさんのコンビで続編が見たいなーって思ってるのはきっと私だけじゃないはず。ほんとどこか心悲しくて愛さずにはいられない不思議な世界とキャラクターたちのゲームだと思います。いいぞ。

Final Cut差分の感想も置いておきますね。

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