見出し画像

クリープハイプはNARUTO

序盤で出てきた敵キャラがボス戦で味方につくとか、もともと非戦闘要員だったキャラの思いがけない熱戦、飄々としたおとぼけキャラの回想で明かされる重い過去、あとは1話で出てきたセリフが最終話付近にまた出てくるみたいな、そういう、アツくてベタな展開が、結局一番好き。わたしも「立てよド三流」って言いたい。格の違いを見せつけたい。誰に?
ランドセルを背負っていた時から毎週「友情・努力・勝利」を買って読んでいた人間にはもう遺伝子にそういうもんが組み込まれている。展開なんてアツけりゃアツいほど良い。ベタでもなんでも、落ちこぼれの主人公には傷つきながら成長していってほしい。最終話で永遠のライバルと見開きカラーページで戦ってほしい。その際の戦闘シーンは台詞少な目でお願いします。なんならなくていいです。


ハイ。で。

好きなバンドがいます。クリープハイプと言います。みんなの心のやわらかい場所を今でもぎゅっと締め付け続けるでお馴染み。おれは札幌生まれサブカル育ちなので、夜中に酒を飲みながら致死量スレスレのクリープハイプを摂取して吐いたことがあるやつはだいたい友達。そういうバンドです。どういうバンドだ。

よくメンヘラ御用達みたいな扱いを受けがちだけど、メンヘラっていうのとはまたちょっと違うだろと思う。夜中にクリープハイプ聴いて吐いてるのはメンヘラじゃなくてただの感受性がバグっている人です。マジもんのメンヘラはラッパーじゃない方のR指定とか聴いて手首切っとる。
でも感受性がバグっているときに聴くと沁みすぎてえずく。昔友達の家で酒を飲んでいて、リクエストされたのでクリープハイプの君の部屋という曲をギターで弾き語りしたら目の前で泣かれたことがある。そういうバンドです。普通に生活していて、ふとしたきっかけで頭の中で鳴って苦しくなってしまうような、そういう歌詞ばかりで、そんなもん呪詛じゃんと思うときすらある。もうほとんど中島みゆき。

家の犬まで一緒に愛されてると思ってたよ
撫ででくれたのは嘘だったんだ

こんなもん失恋した日に聴いた暁にはお前を殺しておれも死ぬ。


クリープハイプの恋愛の曲は吐き気がするほど生々しくて悍ましいけれど、実体験を反映してる感じはあんまりしないところも良い。昔の恋人への想いをグズグズグズグズ煮詰めて垂れ流しているというよりは「お前らこういうのが好きなんだろ」「こういうの聴いて心のリストカットして気持ちよくなりたいんだろ」って穿った目線で書かれている感じがする。いや知らんよ。知らんけどさ。別に家に元カノとの思い出の品とかはなさそう。尾崎世界観は。いや知らんよ。知らんけどさ。
ちなみに椎木知己の家には元カノとの思い出の品が煩悩の数だけある。絶対にある。aikoの家にも元彼が部屋着で来ていたTシャツが同じくらいある。絶対にある。

なんの話ですか?

ちなみに恋愛の曲しかないと思われている気がするけどそんなことないです。なんなら世間に対する不平不満と怒り、それに伴う自己嫌悪みたいなものを歌っている曲の方が多い気がする。尾崎世界観はメンタルがパンクロッカー。すぐ「クソが」とか「馬鹿が」とか歌詞にしちゃうし。一時期めざましテレビに出てたんだけど、あんな怒りを原動力に生きている人間をおはようございますの時間にテレビに映しちゃダメだろと思ってひやひやしてました。
でもそういう曲にも、自分の情けなさを目の当たりにさせられてしまったり、静かに奮い立たされて涙が出たり、する。

歌詞のことばっかり書いたけど当たり前に曲も格好良い。ていうかわたしは本来歌詞よりメロ先行で聴くタイプなので、どれだけ歌詞が良くても曲が良くなきゃ好きになれない。曲、格好良いです。ていうか演奏がうめえ。だいたいイントロでぶん殴られる。



そんなクリープハイプを、2019年、RISING SUN ROCK FESTIVALで初めて生で見た。

出番は15時40分から。SUNSTAGEという、キャパ約30,000人の(今調べてビビってる。30,000人!?ほんとに!?)一番大きいステージで、クリープハイプを観た。夏真っただ中。初日が台風で中止になったのが嘘みたいに晴れていた。ステージに立つメンバーは米粒みたいに小さくて、でも、ウワ、いる!!!と思った。
そんで、ファンなら誰もがイントロのベースラインだけでわかる、初期の代表曲、それが一曲目に演奏された。



はあああ?と思った。一曲目にそれやるんか。爽やかな真夏の空の下で?
知らない人に簡潔に説明しますが、この曲には

今度会ったら?
\セックスしよう!/

というびっくりするようなコール&レスポンスがあります。言わされた。爽やかな真夏の空の下で。ちょうきもちよかった。こんなん言わせてる方も絶対に気持ちがいい。

そのあと、ドラマの主題歌もなった「鬼」やみんなのうたでお馴染み「おばけでいいからはやくきて」、代表曲のひとつでもある「ラブホテル」や「イノチミジカシコイセヨオトメ」等わりと有名な曲もやってくれたし、アルバム曲の「5%」や「火まつり」もやってくれた。終盤「二十九、三十」という曲が始まった時はイントロで泣いた。すげえ好きです。ごめんここらへん完全に知ってる人向けに書いてる。ねえめちゃくちゃいいセトリじゃない??

で。

最後。映画『帝一の國』の主題歌「イト」が終わって、
トリはこの曲だった。



栞。

繊細で、でも尖っていて、夜中に怒りと悲しみで泣きながら聴くための曲ばかり作ってくれていたバンドの、死ぬほどキャッチーでポップで明るい曲。
PVには日本武道館でのライブ映像が使われている。そんな曲。

ウワーーーーー。少年漫画!!!と、思った。



クリープハイプの初期の曲に、こういう歌詞があります。

曲も演奏もすごくいいのになんかあの声が受け付けない
もっと普通の声で歌えばいいのに
もっと普通の恋を歌えばいいのに
でもどうしてもあんな声しか出せないからあんな声で歌ってるんなら
可哀想だからもう少し我慢して聴いてあげようかなって
余計なお世話だよ


ボーカルの尾崎世界観が書き、自分の本名をタイトルにつけた「祐介」という半自叙伝を読んだことがある。売れないバンドマンの、汚く無様で、貧乏たらしく救いもなく、どこまでもみっともない日々の話だった。絶望感と閉塞感と怒りに満ちていた。もう夢と呼んでもいいのかわからないそれにしがみつき、進めば進むほど明るい未来どころか憂鬱と闇が待っている様に、休憩を挟まないと読み終えることが出来なかった。

世間に受け入れられるまで時間がかかったバンドだと、勝手にだけど、そう思う。
本当のことを書くとわたしも昔、特徴的な声が受け入れられなくて苦手だった。

演奏が終わり、メンバーがはけたステージを眺めながら、小説の中にあったいろんなシーンを思い出していた。貧乏で、ライブハウスのノルマを払うのにもいっぱいいっぱいで、水道が止まり、「こんなバンド売れるわけない」と嘆きながらも辞められず、唯一の心の支えはバンドマン狂いの激安ピンサロ嬢で、そんな毎日の鬱憤を数少ない女ファンを雑に抱いて晴らす主人公。ずっと思い出していた。
「HE IS MINE」で始まり、「栞」で終わる意味を、ずっとずっと、考えていた。


観終わったあと乾杯するために合流した後輩が「クリープハイプはもっと夜中に小さいステージで聴きたかった」と言っていた。
その気持ちもわかる。わたしも、クリープハイプにはそういう風に聴きたい曲の方が多いと思う。けれど、そういう曲をやってきたバンドが、真夏の真昼間、明るい太陽の下で、一番大きなステージの上で、世間に受け入れられなかった頃の曲と、世間に受け入れられるようになった後の曲を、両方演奏した。
その事実だけで涙が出た。

深夜に働いているのはライブハウスにノルマを払う為
1年前に出たはずの実家には週に一度は帰っているらしい
笑っちゃうねそれ
バイト先では虫けらみたいで 君の前では飼い犬みたいだ
もう俺にはこれしかないなと意気込んで歌うけど
君が稼いできたお金でノルマを払って今から帰るね

こんな曲ばかり歌っていたのに。

ああ。青空の下で「桜散る 桜散る ひらひら舞う文字が綺麗」とか、言って。なんだよそれ。なんだそのめちゃくちゃ受け入れられやすい歌詞。どうしちゃったんだ。最高だな。そんなの少年漫画じゃん。ほとんどNARUTOだろ。
そう思って胸がアツくなった。
こんなの、月曜日に240円だけ握りしめてコンビニに通っていた人間が大好きな展開だってばよ。


おれたちのうずまきナルトこと尾崎世界観は、MCで、数年前にRSRに出た時はもっと小さなステージで、大雨で、思うような演奏が出来なくて悔しかった、と言って、今日このステージに立てて良かったというような意味のことを言った。
そんなことここにいるほとんどの人が思ってる。思ってるよ。今日このステージに立っているクリープハイプを観ることが出来て良かった。こんなアツい展開、現実にあんのかよ。
みんな好きじゃん。そういうの。わたしは好きだよ。序盤で出てきた敵キャラがボス戦で味方につくとか、もともと非戦闘要員だったキャラの思いがけない熱戦、飄々としたおとぼけキャラの回想で明かされる重い過去、あとは1話で出てきたセリフが最終話付近にまた出てくるみたいな。ああ、落ちこぼれだった主人公が大勢の人に認められて陽の光の下で歌っている、と思ったら堪らなかった。

正直なことを書くと、最近のクリープハイプの曲を聴いて泣いたり吐いたりすることはもうほとんどない。栞も、初めて聴いたとき、今までのクリープハイプの歌詞に描かれていたような毎日への苛立ちみたいなものが全く感じられなくて驚いてしまった。変わっていっているなあと思っていた。
でもいいです。そういうのも引っ括めて最高の展開だ。いいぞ。もっとやれ。変わっていっても、なにがどうなっても、1話と同じセリフをもう一度言ってくれるようなバンドだということも、わかっている。


わたしが好きなクリープハイプの曲を紹介して終わります。



最後に、さっきも少し書いたけど、RSRで一番泣かせてくれた曲。30歳になる瞬間に聴くと決めています。


でもあんまり夜中にクリープハイプ聴くんじゃないよ。心の風邪には気を付けてね。またね。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?