『若おかみは小学生!』感想

知り合いの間で絶賛されてた『若おかみは小学生!』を見てきたので手短に感想。

小学6年生の主人公おっこが突然、祖母が営む温泉旅館の若おかみになってしまって奮闘するという、講談社青い鳥文庫の大ヒット作。『なかよし』でマンガ連載、深夜枠だがテレビアニメ化もされている。どうみても女児ターゲットな作品であるわけだが、どうしたものか男女問わず大人たちが絶賛してるとなれば、加えて高坂希太郎監督の15年ぶりの新作となれば、どうしたって気になるではないか。

キャラクターは最近の女児向け作品に多い目のやたらに大きいマンガ系の絵柄で正直ちょっと苦手だが、原作挿絵以来のキャラクターイメージをきちんと生かしている。絵柄ということでいうなら、エンディングのスタッフロールの背景に流れる絵コンテの絵が個人的にすごく好みなのだがまあしかたない。ともあれ温泉地の美しい風景やおいしそうな料理など、映像はとても魅力的だ。

とはいえ物語を楽しむには、子どものピュアな心が必要になる。なんせ原作は児童文学であるわけで、児童労働だとかブラック職場だとか、固定的性別役割分担がどうだとか、話がうますぎるとかこの旅館一泊いくらなんだろうとか、そういうことばが浮かんでくるような汚れちゃった大人の心は脇に置いとかないといけない。そうすれば大人たちも、メインターゲットである子どもたちが感情移入しやすい等身大の主人公が新たな環境に飛び込んで失敗を重ねつつも仲間と助け合い成長していくさまを親になった気持ちではらはらしながら見守ったり、あるいは客の目線で「ああ温泉行きたい」などと思ったりすることができるというわけだ。

周囲の絶賛ポイントがどのあたりなのか、詳しく聞いたわけではないのでよくわからないが、物語のクライマックスである、主人公おっこがつらい記憶と向き合い克服していく経過は多くの人が心を動かされるだろう。おっこにだけ見えるユーレイたち(いわゆるイマジナリーコンパニオンなのだろうか)がおっこを取り巻く人たちに対して抱く切ない思いも味わい深い。

何より「悪人」が1人も出てこない物語がいい。つまらないあれこれにとらわれず、人間っていいな、働くっていいな、自分もがんばろう、などという前向きな気持ちに自然となれるのは、やはり物語の力なのだろう。しばらく前によくあった日常系ほのぼのアニメは、見ていて安心して癒されるという楽しみ方があったわけだが、この作品は見ていて安心してがんばろうって思えるのが大人目線でのよさであるように思う。

最初と最後に出てくる神楽はオリジナルのものだそうだが、これが物語を引き締めている。最初は見る立場だったおっこが最後には舞う立場になる。おっこの成長を示すものでもあり、世代を超えて引き継がれていく営みを象徴するものでもある。ああこの温泉はこうやって続いていくんだな、これからもがんばれ、と声をかけたくなる。

というわけで、きれいな心を取り戻したい大人の皆さんにお勧め。

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