『ある暗殺部隊の話』
軍人の一番の仕事は訓練することだ。
戦闘することじゃない。
その仕事の大部分が訓練に費やされる。
ひとたび戦闘が始まってしまえば人の生死などほんの一瞬のうちに決まってしまう。
戦闘など一瞬のうちに終わる。
だから、軍人の仕事は訓練することなのだ。
時々、そんな訓練の最中に明らかに他の人間と違う者がいる。
決して目立たず、特別な能力が持っていたり、他の者より秀でているわけでもない。
雰囲気。
ただそれが他の者とは違う者たち。
そんな者たちは人知れず軍隊から外れ、別の部隊にスカウトされる。
1/
夜闇に紛れる。
作戦行動の基本だ。
音を立てず、4人の部隊が同時に動く。
決して動きを乱さず、全員が同時に動く。
ターゲットを確認する。
ターゲットの周囲には屈強なSPが数人、ターゲットを守っている。
その他に人の気配は無い。
部隊の一人が銃を構え、引き金を引いた。
消音された銃声が小さく甲高く響いた。
それが合図。
一斉にターゲットと周囲のSPに近づき、事態を理解されるよりも早く全員を絶命させた。
ターゲットとSP全員が冷たい床に倒れる。
合図もなく、全員が同時にその場を後にする。
あとの片づけは『掃除屋』がやるだろう。
部隊の仕事はただターゲットを『殺す』ことだけ。
2/
部隊の訓練施設には食堂が併設されている。
適当なメニューを選び、注文する。
不愛想な食堂の係がトレーに乗ったメニューを雑に差し出してくる。
軽く礼を告げ、トレーを受け取り、今度は適当な席を探す。
席を探す、と言ってもこの訓練施設を使う人間の数などたかが知れており、この食堂が混むような所を見たことはないので、自分の座りやすい席を探すかまたは顔見知りでも探すか。
「お」
今日は運よく知り合いを見つけた。
食事を摂る相手に近づいていく。
「お久しぶりです」
「ん? おぉ、久しぶりだな」
顔見知りのベテラン隊員だった。
二人掛けのテーブルの空いている方にトレイを置き、席に着き、食事を始める。
「昨日仕事だったのか?」
しばらく沈黙のまま食事を摂っていたが、相手の方が口を開いた。
「なんでわかったんですか?」
「なんとなく」
おそらく僅かな所作や雰囲気から読み取ったのだろう。
ベテランの部隊員程、『仕事』があった事を決して誰にも悟らせない。
それを悟られてしまったということはまだまだ未熟だということだろう。
「訓練が足りないですね」
「お前は相変わらず真面目だな」
食堂は相変わらず静かで、調理場から聴こえる音と食事で食器から出る音ぐらいで他には聴こえない。
「最近は……」
食事を続けていたベテラン隊員が口を開いた。
「最近は『仕事』も随分減った」
「昔はもっと忙しかったんですか?」
「そうだな、忙しかった。まぁ、俺たちの『仕事』が減るのはいいことなんだろう」
ベテランの隊員は遠くを見つめた。
「最近は安価な殺し屋も増えてきているようでな、上からしてみればそういう連中を使った方が足も付かなくていいのだろう。フリーの殺し屋なら『仕事』が終わった後に消せばいいだけだからな」
いつの間に食事を終えていたのか、ベテランの隊員は空の食器を載せたトレイを持って立ち上がった。
「結局、俺たちに回ってくる『仕事』が減ったところで、世の中から俺たちが請け負っているような『仕事』が減るわけじゃないらしい」
じゃあな、とだけ告げてベテランの隊員は食堂を去っていった。
独り残されてしまった。
残っている料理を口に運ぶ。
食堂は相変わらず静かなままだった。
完
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