マガジンのカバー画像

小説

252
物語です。
運営しているクリエイター

#異世界ファンタジー

魔剣騒動 23(後日談)

 騒動の原因となった魔剣もどきを破壊し、休憩を挟んで地上に戻った空也達だったがその後も面倒な出来事は続いた。
 まず、地上に戻った空也とアベル達を出迎えたのは完全武装した状態で待ち構えていた遺跡発掘キャンプを仕切っていた傭兵団の面々であった。
 やる気満々の傭兵連中にため息を吐きつつ、最低限の説明責任を果たすためレイアが前に出て説明を始めた。
 短い問答こそ挟んだものの、結局はすぐに戦闘となった。

もっとみる

魔剣騒動 22

 「――さて、ここからは私の出番だな」
 会話の途切れた間に差し込まれるように声が響いた。
 空也が振り向くと、後方に居たレイアが意気揚々と腰から(おそらく解析用だと思われる)スティック型の魔導器を取り出したところだった。
 「君のおかげで貴重な上位個体のゴーレムをゆっくりと細部まで解析できそうだ」
 「いや、倒せたのは俺の手柄だけじゃないですよ」
 「魔剣もどきをブチ折ることは私には出来なかった

もっとみる

魔剣騒動 21

 空也は、直線にして十メートル程度の距離を飛ぶように駆け抜け、瞬時に間合いを詰める。
 その勢いを削ぐこと無く迅速かつ滑らかに手にした無骨な剣を上段へと構えた。
 魔法陣が浮かぶようなことは無い。
 魔力の流れすら最小限。
 しかし、空也が剣を構えた、それだけで周囲の空気が変わる。
 不必要な装飾が一切取り払われた無骨な剣が空間を支配する。
 
 空也が剣を振り下ろす、その直前。
 動きの完全に止

もっとみる

魔剣騒動 20

 魔剣もどきが持ち出したゴーレムは、上層に居たゴーレムよりもさらに高性能な代物であった。
 中でも特別に備え付けられた機能の一つが『装甲部即時再生』だった。
 内蔵魔力や外部から供給される魔力を用いて、万一に戦闘中に装甲が破壊された際にそれらを修復・再生させる技術。
 だから、仮にアベルの発動させた魔法が『強力な一撃』であったなら、ゴーレムはすぐに破壊された装甲を再生させ、反撃の態勢に移っただろう

もっとみる

魔剣騒動 19

 (いける……!)
 室内に響き渡る金属質の高音の中、レイアは確かな手応えを感じていた。
 いかに一流冒険者であるレイアであっても魔剣やそれに類するものと戦闘した数はそう多くない。
 まして、直接的に破壊しようなどというのはさらに、だ。
 故に、レイアが自身の剣を信用しているといっても不安はあった。
 特別製魔導機ではあるが、名のある特別な剣ではない剣が、特別な剣に打ち勝つことが出来るのか、と。

もっとみる

魔剣騒動 18

 首なし死体がとんでもない速度で襲いかかったのは空也でもアベルでもなく、後方で魔法陣を待機状態で構えていたアレンだった。
 「っ! 俺かよ!」
 素早く反応し、魔剣の振り下ろしを避けようと身を捻るが、一瞬間に合わない。
 凶刃がアレンに襲い掛かる、そのほんの手前でアレンの前にレイアが割り込んだ。
 「シッ!!」
 短い気合と共にレイアが振り下ろされた魔剣を迎撃するように、手に持った剣を下からすくい

もっとみる

魔剣騒動 17

「 ……あれはもう助からなそうだね」
 もとより、仮に無事だったとしても助けるつもりはなかっただろうが、明らかに引き返せない雰囲気を見てアベルがそう呟いた。
 返答する者は誰もいなかったが、アベルの意見に反論する者もいなかった。
 おそらく目の前の彼の意識は既に剣に取り込まれてしまったのだろう。
 空也は視線を逸らさないままそう結論した。
 人の自意識を喰らい尽くす、ということを考えれば目の前の剣

もっとみる

魔剣騒動 16

 隔壁の先は天井に点々と永久発光体が灯っていて、通路を薄暗く照らしていた。
 ここまで進めば『剣の勇者』神月空也でなくともトップクラスの冒険者である三人は剣の放つ圧力を感じ取れるようだった。
 そんな中でもアベルはいつもと変わらず楽しそうに笑みを浮かべていたが、流石に空気を茶化すようなことは無く四人の口数は自然と減り、最低限の会話をしながら通路を進んでいった。

 いくつかの隔壁(全て乱雑に破壊さ

もっとみる

魔剣騒動 15

 ゴーレムの居た部屋から先は一本道だった。
 途中、いくつかの部屋はあったものの迷うことは無かった。
 ゴーレムも何体か配置されてはいたが、最上位に位置する冒険者が四人揃い、その上敵のデータも揃っていれば苦戦のしようもなかった。
 不思議な事と言えば、ダンジョンの上の方に比べ深部に行くほど瘴気が薄くなってきている事だった。
 一般的にダンジョンというのは深く潜れば潜るほどに瘴気が濃くなっていくはず

もっとみる

魔剣騒動 14

 どうやらアベルの爆破で内部の魔導機関ごと壊されたようでこれ以上ゴーレムが出現することはないだろう、というのがわかったのはレイアがゴーレムを調べ始めてすぐだった。
 アベルが爆破しなかった四体のゴーレムに関しても、レイアとアレンが何やら短く話し合い、アレンの魔法を使って魔導機関を止めたらしい。

 そんな訳で差し迫った脅威を対処したところで、先に進もうかとアベルと空也が提案したのだがレイアが拒否し

もっとみる

魔剣騒動 13

 「いやぁ、助かったよクウヤくん」
 そこかしこに転がる先程までゴーレムだった残骸を蹴り飛ばしながらアベルは空也に声を掛けた。

 あの状況からアベルが発動させた魔法は端的に言ってえげつないものだった。
 具体的には空也の倒した2体を含めた計7体のゴーレムを内部から爆破した。
 そのせいで、あたり一面はゴーレムの残骸が埋め尽くしていた。

 「……相変わらず、随分派手にやりましたね」
 空也は咄嗟

もっとみる

魔剣騒動 12

 その、集中の分散が原因だったのだろう。
 「あ、ヤバ……」
 アベルの動きを学習したゴーレムの一体が丁度他のゴーレムの攻撃を回避した直後のアベルへ不可避の位置、不可避の速度で攻撃を仕掛けてきた。
 『爆発の勇者』アベルは一流の冒険者である。
 その中でもさらに上澄みの上澄み。
 だから、不可避のその一撃ですら捌くことは可能だ。
 しかし、問題はそのあと。
 そのあとに続く、無理をして攻撃を捌きバ

もっとみる

魔剣騒動 11

 始まった戦いは正に混線と呼ぶにふさわしいものだった。
 人間よりも大きなゴーレムが十も揃えば、部屋がそれなりの大きさであっても狭苦しくなってしまう。
 そうなれば当然ゴーレム側よりも小回りの利くアベル達人間側が有利になる、と思いきやどうやらゴーレムはゴーレム同士で相互通信を行っているらしく部屋の大きさを含めた上で綺麗な連携を見せ、その不利はあっさりと払拭された。
 しかし、それでも会敵の瞬間を優

もっとみる

魔剣騒動 10

 「ん……?」
 すっかり気の抜けた雰囲気の流れる中で、レイア・ウルトゥスがその違和感に気が付けたのは、やはり彼女が一流の冒険者で、尚且つ一流の遺物調査官だったからなのだろう。
 本当に小さな、ごく些細な違和感。
 検体していたゴーレムの装甲下を流れる幾流の魔力の流れの中に極細い流れが存在していた。
 レイアは無言のまま、一瞬考えを巡らせる。
 装甲下の魔力の流れはそれぞれ役割を持っている。
 そ

もっとみる