マガジンのカバー画像

小説

252
物語です。
運営しているクリエイター

2021年12月の記事一覧

ライフインホワイト 14

 廊下を出来る限り音を殺して歩いていく。
 ケガがあることと人一人を背負っているので当然上手くいくはずが無いが気にしないことはできない。
 部屋を出た先の廊下にはいくつかの扉があり、それがしばらく続いているのが分かった。
 おそらく扉の先は俺たちが監禁されていたような部屋があるのだろう。
 廊下はしばらく続いていてこの施設がかなりの広さを持っていることを示していた。
 とはいえ廊下が迷路のように入

もっとみる

ライフインホワイト 13

 「おいてめぇ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
 男は火が点いたように激昂しながらこちらににじるように近づいた。
 俺は、冷静に相手の一挙手一投足に注意を払う。
 読み間違えれば勝利はない。
 背後の綾瀬さんが震えているのがわかる。
 彼女も護らなければならない。
 思考が積み重なっていく。
 やがて男は俺の前に立ちはだかった。
 決して低くはない俺よりも身長はあるようだ。
 男は俺を見下ろすよう

もっとみる

ライフインホワイト 12

 項垂れていた彼女が顔を上げた。
 きっと泣きたいのは今も同じだろう。
 それでも綾瀬さんは苦笑を浮かべてくれた。
 「ふふふ……」
 別に冗談だと捉えてくれていい、実際俺にとっても半分以上は質の悪い冗談なのだから。
 今、この場で綾瀬さんが前を向くために力になってくれるなら、それでいい。
 「だから、大丈夫です」
 綾瀬さんの肩から手を離すと、彼女は立ち上がってくれた。
 「宇野さんって頼もしい

もっとみる

ライフインホワイト 11

5/
 真っ黒な闇の中でふわふわと宙を漂っているような、そんな不思議な感覚。
 なぜだか俺はその感覚を知っている。
 右も左も、前も後ろも、上も下もわからない。
 自分と他人の境界が曖昧になるような、そんな心地。
 微睡んでいるのか、或いは夢の中のなのかわからない永遠の微睡み。
 俺はきっとこの場所を知っていた。

 「――さんっ!! ――!!」
遠くで誰かの声がしている。
 何処かで聞いたことが

もっとみる

ライフインホワイト 10

 「宇野……君」
 「有村会長……」
 そこにいたのはよく見知った女性だった。
 有村夕夏。
 宇野耕輔の通っていた高校の一年先輩で、生徒会長を務め、そしてかつて『宇野耕輔』の仲間だった女性だ。
 俺が彼女の姿を見たのは実に彼女の卒業式以来のことで、三年近く会うことはなかった。
 「……」
 「……」
 お互いに気まずい沈黙が流れ、思わず顔を逸らしてしまった。
 何故三年も顔を合わせることがなかっ

もっとみる