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小説

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2019年8月の記事一覧

『ラスボス前のセーブポイントでありそうな話』

 ダンジョンがひしめき、魔物が跋扈する世界。
 人々は剣と魔法を引っ提げて、世界の開拓を目指している。

 そんな世界の片隅。
 約三十年前に突如として発見された古城があった。
 古城までのルートが複数の難関ダンジョンに囲まれた上、その古めかしい城自体もほんの一握りの冒険者だけが探索をできるような高難易度のダンジョンであった。
 そのあまりの難関さに、三十年間数多の冒険者たちが挑んでは敗れ、時には

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『クローン人間』

 夕日が沈み始めているのが廊下の窓から見えた。
 「……ほぅ」
 その綺麗さに思わず感嘆のため息が漏れた。
 
 放課後の学校が結構好きだ。
 部活動の声が響きながらも静寂を保つような、奇妙と評しても遜色のない、ある種危ういバランスの上に保たれている空気感。
 そして、そんな雰囲気に反発することなく、その空間に存在する自分にまるで物語の主人公になったかのような錯覚を覚えられるからだ。
 
 日常の

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『水着回』

 大きな道路に沿って車が走っていくと、やがて大きな青色が車に乗る全員の目に飛び込んできた。
 『海だーー!!』
 楽し気な声が見事に被った。
夏真っ盛り。
 晴天にも恵まれ、砂浜も真っ白に輝いているようだった。
 宇野耕輔、高校二年の夏休み、その初頭の事であった。

1/
 「海?」

 夏休みが始まってまだ数日も経過していない頃、耕輔のスマートフォンが通話の着信を告げた。
 画面を覗いてみれば、

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『願いを叶える○○』

 特別な物には意思と特別な力が宿る。
 例えば職人やプロフェッショナルの使う道具。
 職人が道具を信頼し、職人の全ての力を道具に預ける様に、道具もまた職人を信頼し、道具の全ての力を職人に預けている。
 だからこそ、職人やプロと呼ばれる人々は偉業を成し遂げられるのだ。
 
 そう、物には意思が宿り、それらを使うべき人間がいるのだ。

 昔から僕はそういった特別な物の声を聴くことが出来た。
 意思が存

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