20240221 コンチェルト

食事をしている。

正しくは自分が食事をしているわけではなく、正面に座った女性が食事をしている。自分の前には湯気の立った珈琲が置かれているだけだ。その女性の前には英国式の紅茶と見事にツノの立った大きなシフォンケーキが置かれている。

窓際の小さな丸テーブルであることに加え、それほど混雑していないことを考えると相席ではないはずだ。女性の顔に見覚えはない。だが、長い黒髪につかないよう、器用に生クリームとスポンジケーキを交互に口へ運ぶ姿はどこか懐かしさを覚えずにはいられなかった。

仕方がないので、彼女がシフォンケーキを平らげていく姿を眺める。ふと耳を澄ませると、店内に音楽が流れていることに気づいた。

「ブランデンブルク協奏曲第三番第一楽章」

そう言って彼女は店員を呼ぶと、さらにケーキを注文した。

「さぁ、これから最後の仕上げにかかるのよ。あなたはついてこれるかしら。」


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