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超短篇『強制コミュニケーション社会』


2030年、SNSは進化してメタバースなどのオンラインコミュニティーが加速度的に進化していた。

人々は直接誰かと会うのも嫌い、外出をせず、オンラインでの仕事やサービスで生活する事が当たり前になっていた。

結婚率や出生率の低下。
離婚率の著しい増加が起き、社会はもはや崩壊寸前だった。

日本政府は、生活保護や医療費、失業保険などの生活保障制度を大きく廃止し、年に決められた金額を全国民に支給すると言う「ベーシックインカム制度」を強行採決した。

しかし物議をかもしたのは、
「1日15分見ず知らずの他人とコミニケーションをする」
と言う条件であった。

大手のメタバース企業と政府は結託しベーシックインカムポイント制度を確立。

AIによる判断で各個人に評価をつけ、公開に踏み切る。

政策に絶対な自信と、やむに止まれぬ社会的な大改革であった。

今かけているスマートグラスには、街ゆく人の評価ポイント数や口コミ、レビューが映し出されている。

ポイントの低い人に話しかけ、コミュニケーションを取る事で大幅にポイントが稼げる。

企業にも影響し、人や環境への貢献度合いで、従業員のポイントも高くなり、ベーシックインカムの支給額に影響した。

自然と悪辣な企業には人と金が集まらない仕組みも社会が浄化されて行き世界的にこの政策が注目を受けた。

口コミサイトが次第に増え、困っている人や街や企業が掲載され、獲得ポイントが記載されている。
サイトの上には『目玉クエスト』なんて書いてある。

迷子から遭難、ひとたび災害が起きると、沢山のボランティアが集まり、ボランティアを支援する人も合わせて大挙をなした。

介護や福祉に従事する企業は、一流企業とされ株価も上がる。
サービス業は人気のある職業となっていった。

おのずと、ポイントが低い者や社会的弱者と積極的にコミュニケーションを取る人が増えていった。

対する、人々は極力笑顔で接し、自分の評価が下がらない様にする必要がある。
獲得出来るポイントが高い案件は、リスクも高いのだ。

とはいえ、各々はスキルを上げ、社会的弱者には多くの人の「優しさ」が集まった。

理想的な「優しい社会」が出来上がった。

はずだった。

次第に、日々のコミュニケーションの中で疑問が噴出しだす。

「この優しさはポイント取得のためだろうか?」

「この優しさは本当の優しさだろうか」

人々は、身近な人に常に疑念を持ちながら、自らも笑顔で接する。


この後、数十年にわたり結婚率、出生率ともに過去最低を更新しつづけた。
皆、笑顔で過ごしている。
犯罪も最近ではほとんど聞かない。

ゴミひとつ落ちてない、この街は不気味なほど美しかった。

【解説】

※メタバース=仮想現実社会、すでに、オンライン上で自分のキャラクターをもしたアバターでコミュニケーションを取る人が増えている。
ビジネスやレジャーなどオンライン上でのコミュニケーションやコミュニティが現実的になっている。
Facebook社が2021年11月 この分野が110兆円規模のビジネスチャンスがあるとして、すでに1兆1一千億円を研究施設に投じたとあり話題に。

ベーシックインカム=社会福祉の一環で予算を組み替え、毎月一定額を国民に支給する事で、生活の安定を図るという政策。
突然の失業や災害時にも最低限の生活が確保され社会を安定させる。
各国で検討されている。
近年、日本でも話題に。

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