見出し画像

犬としもべ

うちには義理堅い犬がいる。

転勤族だった我が家は16年前、父の異動を機に、待ちに待った犬のいる生活を検討しました。
ペット可マンションという住宅事情と、フリスビーで一緒に遊びたい!という夢があった父の意見を考慮し、小型犬だけど筋肉質で毎日1〜2時間は運動が必要な「ジャックラッセルテリア」という犬種に決定。





念願叶って迎えた「りん」はフリスビーに全く興味なし。

だれも取り上げたこともないのに、いつも急いでご飯を食べてむせがち。食欲めっちゃある。

雷と、びりっというテープを剥がす音がすると逃げていき、なぜかお風呂のお湯を入れる音に吠える。


多少想定とは違う犬のいる生活に慣れたころ、「うちの犬はだっこをせがむのよ」「少し座ると膝に乗ってきて大変」という話を他所で聞き、りんは自由を愛する義理堅い性格だということに家族がだんだん気づきはじめる。

家族が出かける素振りをすると、付いてきて足元に背中だけくっつけて座る。なんなら人の足ちょっと踏む。
家族が帰宅すると寝ていても必ず起きて、15秒くらいしっぽを振って振り返らずにまた寝る。このときを手洗いうがいなどしていて逃すと家族みんな凹む。
だっこはどうやら好きではなく、されてる間は義務感満載の顔をする。



私が会社員になってからは、りんの生活費は全て私が出すようにした。
母は夕方散歩にいくので分業制度を導入したのだ。

母が私のことをパトロンだとりんに教えたことが効いたのか、ドッグフードを注文したと報告した日は長めにしっぽを振ってくれるようになった。なんならお腹も触らせてくれる。渾身の義理堅い。


そんなりんも15歳になり、人でいうところの70〜80代。
父は視力の落ちたりんが壁やドアに顔をぶつけないよう、プチプチを配置する職人と化した。

だんだん足腰が弱くなり、自慢の筋力でソファに飛び乗ることもできなくなった。そんなときはニンゲンという昇降機が活躍するのでなんら問題はない。

トイレの場所もたまに見失っているが、そんなときはニンゲントイレワープ機能が作動するのでなんら問題はない。

15年一緒にいると、もうずっと一緒にいるような気がする。
控えめに言っても犬を中心に世界が回っているし。

りんは、急にいなくなってショックを与えてはわるいと、以前できていたことができなくなることを家族に見せて時間の経過を感じさせてくれているのかもしれない。何歳になっても義理堅い。


先日、動物病院で癌を告げられた。
残り時間の少なさに全然納得できなくて涙が出たけど、じゃあどれくらいの時間なら納得できるのだろうと考えてみて、私は「ずっとが良い」というわがままを心の底で望んでいることに気づいた。
実現できないわがままにこだわっていると気づくことができて、どうやったら残りの時間をりんに快適に過ごしてもらえるか、治療方針も含めて改めて考えるようになった。もうおやつも出し渋らない。


半目ですやすや寝ているりんを見て、たまに出ている鼻水を拭って差し上げては、犬と過ごす時間を増やすために転職しておいて良かったと本当に思う。

今日も義理堅い犬の幸せな介護をして過ごしています。

この記事が参加している募集

我が家のペット自慢

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?