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信念が結晶化した、時代を切り裂く力作

放送開始されるや多くの視聴者を飲み込み、現象化した社会派ドラマ『エルピス ー希望、あるいは災いー』の魅力を、3つのポイントに分けて紹介。

国内地上波ドラマの“常識”を超える、覚悟のテーマ

観た者が口をそろえて「力作」「凄い」と評するドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』。その要因の一つは、我々が知らず知らず「こんなものだろう」と設定してしまっていた地上波ドラマの“表現の幅”を、覚悟を持って飛び越えてきたところにあるのではないか。『大豆田とわ子と三人の元夫』の佐野亜裕美プロデューサーが『ジョゼと虎と魚たち』の脚本家・渡辺あやに掛け合い、約6年の歳月をかけて完成させた執念の作品であるこのドラマは「冤罪」「報道の自由と責任」「忖度・癒着・政治腐敗」といったこれまであまり触れてこられなかったテーマに真っ向から挑み、我々がいま生きているこの国、この社会の歪さを詳らかにする。本作によって、目を覚まさせられた視聴者は多いはずだ。

社会派×エンタメ性が完璧に両立した「見ごたえ」と「面白さ」

攻めた社会派の作品でありつつ、「物語の面白さ」「演出の斬新さ」等々、エンタメ性が十二分に備わっているのも『エルピス―希望、あるいは災い―』の大きな魅力。惰性で続いている深夜バラエティ番組「フライデーボンボン」のスタッフは、左遷されたアナウンサーやディレクターの吹き溜まり。しかしそのメンバーが「死刑囚の冤罪疑惑」を調査し、真実に肉薄していく(そのきっかけもひねりが利いていて秀逸)。ジャイアントキリング的な「底辺が国家権力に挑む」構造、次々に新事実が明かされる怒涛の展開、権力の闇を赤裸々に描くサスペンス、皮肉たっぷりのエンディング映像――渡辺あや×『バクマン。』の大根仁監督という異色のコラボが見事に溶け合い、社会性とエンタメ性が完璧に組み合わさった仕上がりに。

キャラクターの「変化」に呼応する豪華俳優陣の熱演

エルピス―希望、あるいは災い―』のもう一つの面白さ、それはキャラクターの変化だ。恋愛スキャンダルで転落した女子アナウンサー・浅川恵那は心を殺したような状態で事なかれ主義的に生きていたが、冤罪疑惑を調査するなかで人間的感情を取り戻していく。彼女と組む若手ディレクターの岸本拓朗(眞栄田郷敦)は真実を追求する使命感に燃えるジャーナリストへと変貌。浅川の元恋人で報道局のエースだった斎藤正一(鈴木亮平)は次第に権力へと加担していく。ハラスメント発言ばかりのプロデューサー・村井喬一(岡部たかし)は内に秘めた正義感が周囲に知られることとなる。こうしたキャラクターの印象変化を体現しているのが、俳優陣の気合が入りまくった演技。俳優陣と呼応する、成長一直線ではなく、絶望したり闇堕ちしたりとアップダウンを繰り返しながら痛みと共に進んでいく“過程のドラマ”に引き込まれる。

Text/SYO

SYOプロフィール

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て、2020年に独立。映画・アニメ・ドラマ・小説・漫画・音楽などカルチャー系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トーク番組等の出演も行う。Twitter:@SyoCinema

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