義体不幸鳥急行殺人事件Ⅶ

つづきでーす  明かされる事件の謎

 「いいかね。謎を少しずつ解いていこう。はじめに、オルルェだ。この事件にはなんと、『不幸鳥』は3人いたんだ」
左腕でチベスナを捕らえ、右手の凶悪パンダを突き付けているパンダは聞いているのか聞いてないのかわからない顔をしている。チベスナは3人…?と小さく呟いた。警察もざわついている。
「まず、このオルルェ。本物の不幸鳥。次に、あんた。パンダ氏、彼女が第2の不幸鳥。そして……もう一人は……」
「……まさか、日向寺さん…!?」
チベスナは声を上げた。不幸鳥は指を鳴らし、助手を指差した。
「Jackpot。この事件の二人めの被害者、日向寺皐月さん……我々と親しかった人物だ。なぜ、これほどにも不幸鳥入り交じる快事件になったんだろうね?これから説明しましょう」
彼女はその場を右往左往しながら解説をする。動くなと言われたものの右往左往し出す彼女を駄目仙人は怒ったような、呆れたような表情でハラハラと見守る。パンダは説明に興味があるらしく、あまりその様子を咎めるつもりはないようだ。ここで、どくどく庵女将が軽く挙手をし、質問をした。
「あのう、最初の事件で不幸鳥さまが犯人にされたのは一体……?証拠写真までありましたし」
「そのオルルェはパンダ氏だ。わざと駄目仙人ちゃんの写真に写り込むように動いたのでしょう。で、恐らくだが……殺す相手は誰でもよかった」
投げ掛けるような目線をパンダに送る。パンダは肯定とも否定とも取れる笑みを浮かべたままだ。少しコケる素振りをし、質問に戻る不幸鳥。
「じゃあつぎぼく!!容疑者不幸鳥君が死んだ件はなんだったの!?」
ゴリラ入間が元気よく質問した。拡声器を使って。大きな声で。不幸鳥は片耳に栓をするポーズをし、顔をしかめたのちに答えた。
「元、容疑者です。その死んだオルルェこそが日向寺ちゃんだったわけだけどね、その時オルルェは失踪していたんだ。当日、お手洗いに行くと行ってチベスナちゃんと別れたのち……彼女が現れた」
「そっか……日向寺さん、センセイを守るために」
チベスナは視線を落とし、か細く言った。センセイも苦々しく顔を曇らせ、頷いた。
「察しがいいな、Lassie。その通り。日向寺ちゃんはオルルェが狙われることを知っていたみたいだ。だからオルルェを隠し、オルルェの格好をし……」
再び使おうと構えた拡声器をRichardにぶん取られつつ、ゴリラ入間は納得したような様子を見せていた。だがもうひとつ疑問点があるようだ。
「でもさ、誰だかわかんないほど鎖ぐるぐる施錠ガチャガチャだったじゃん?その隙間から僅かに本物の不幸鳥君の皮膚や髪が覗いてたのは?」
「そこなんだ。そこだけはオルルェにもわからないんだが……Criminal?これも推測だが、またわざとなんじゃあないかね?答えろよ!これは答えてくれよな!」
渋々といった具合に、パンダは口を開いた。
「よくわかったじゃない、探偵さん。流石にあれはあんたじゃあないなって気付いた。気付いたのちに……」
どういうつもりか、パンダは途中で言葉を切った。皆は次の言葉を待つ。彼女はのんびりと欠伸などした。皆はコケた。耐えかねたRichardが拡声器とピストルを構えたところで、暢気に再び口を開く。そしてとんでもないことを口走った。
「あのー、実はあの人死んだのも事故みたいなものでー、本物はどこにいるのか聞き出そうとしてたんだよね。そうやってたらー……なんか死んじゃったよね」
不幸鳥はパンダに掴みかかろうとした。それを若女将と駄目仙人がなんとか抑え込んだ。チベスナもキッとパンダを睨んだ。パンダは気にも留めず、凶悪パンダを彼女に近づけてみせる。
「しぶとかったなあ。なんとなくカマをかけたりしたらビンゴ。そのまま隠し場所で伸びてた探偵さん殺してもよかったんだけど、もっと面白いことしようかと」
「その際に、失神している不幸鳥元容疑者から髪と皮膚を採取し、偽不幸鳥元容疑者に付けたと。我々の目を欺く為に」
Richardはピストルを持った手を下ろさぬまま淡々と犯人へ言った。パンダは薄笑いで肯定する。これで事件の謎は解明された。
「全部あんたが企んだんだな……列車に乗ってたときから、これは計画されてたんだな」
チベスナは言った。それから全てに合点がいった。あの時見た過去の映像は事件のヒントだったのだろう。それをうまくいかせなかったのが、こんなことになったのが悔しいけれど。
「あとは警察の仕事だな。お縄に就けCriminal」
「素直にお縄に就くと思う?」
パンダはじり…とチベスナごと後ろに退く。背後は崖である。不幸鳥はわざとらしくチッチッチッと指を振った。それなりに苛立ちを誘う。
「No~~~way。女将ー!例のもの持ってらっしゃい」
「かしこまりました」
若女将は一旦物陰に駆けていき、「例のもの」を拾うと不幸鳥へ向かって投げた。それを慣れた手つきで彼女はキャッチした。大筆だ。それと何かチューブに入った絵の具のようなものも。
「えい」
透明なそれを筆につけ、右手凶悪パンダ目掛け一振りした。パンダは防御姿勢をとるが遅かった。透明な絵の具のようなものは糊だったのだ!
「わっ…うわ、うわうわ……ベタベタ。自慢のパンダが!!」
彼女は思わずチベスナを放し、右手凶悪パンダの惨状を嘆いた。その隙にチベスナは「ウオオオ」などと声を上げつつ素早く走り、センセイの陰へ隠れた。不幸鳥はよしよしとチベスナの頭を軽く撫でた。
「確保ーーーー!!」
ゴリラ入間は拡声器を使い叫び、率いる警察たちと共に犯人へと走った。とはいえ後ろは崖だ。犯人が落ちようとするとも限らない。しかしそれは杞憂だった。
「ご安心を。犯人は逃げられませんわ!」
駄目仙人だ。ゴタゴタの隙に、パンダをしっかりと捕縛していたのだ。見事な縄遣いであった。Richardも感心するほどに。


「午後2時25分、犯人逮捕ーーー!!」


たった今、事件が終息したことを、ゴリラ入間の大声が告げた。



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