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双子

小学校の頃、双子の姉妹の姉の方を好きになったことがある.確かきっかけは、その双子がある日、家でオムライスが出て、そのお母さんが「卵の上に二人が学校で好きな男の子の名前を書いてごらん」と言われ、姉の方がケチャップで「ひろあき」と書いたことだ.そのお母さんがその話を僕のお母さんに話して、僕がそれを聞いて、意識するようになって、バレンタインでチョコ貰って、僕も好きになった.

小学生のカップルはバレンタインチョコが婚約指輪みたいなところがあるから、当時僕と彼女は学年全員が認める正式なカップルだったと思う.僕はリレーの選手にギリ選ばれるくらい、男子の矜持がなんとか保たれるくらいに足が速かったし、少年野球をやっていたおかげでドッチボールも強かった.その子から2月14日にバレンタインチョコを貰ったときは遂に50メートル走のタイムや日頃のドッチボールでの成果が実を結んだという思いがした.何かを受賞したような気持ちでチョコを玄関で受け取ったのを覚えている.その双子は学校でも人気の二人だったから、チョコを貰えたという名誉が一番の贈り物で、チョコレート自体は副賞に過ぎなかった.とにかくとても嬉しかった.

その双子は二人ともめちゃくちゃ可愛かった.広瀬姉妹でどっち派?をやるよりも前に僕達の学年ではその姉妹のどっち派?を経験している.妹の方は僕達が中学に上がってまだ右も左もわからない4月半ばに野球部の3年生のキャプテンと付き合い始めた.別の小学校から来た生徒はその妹を見るやいなや色めき立ち、それと同時に、もう到底抗えない相手が既に彼女をものにしている事実を受け止めなければならなかった.そういったやるせなさは彼らを少しだけ大人に成長させた.

あるとき中学校からの帰り道でその双子が二人で帰っているのを見た.二人がそれぞれ別の友達と楽しくおしゃべりしたり、男子からちょっかい掛けられながら下校しているのはよく見たが、それは初めてだった.とても神聖な光景に見えた.笑っているでもなく話に熱中するでもなく、ただただ二人で並んで自転車を漕いで何かを話していた.

双子という関係性とはどんなものなんだろう?他人よりは近くて自分ではない、半分自分みたいな他人.何かを確認し合っているというか、二人でしかわからない領域の話を二人だけの世界で話し合っているようだった.

もし自分が双子だったら、どんなに仲がいい友達にも言わないような、むしろ自分ですら言語化しにくい部分を共有してみたい.「この感じってやっぱりこのDNAを持った人間には感じるようになってるよな?」「わかる、その感じ、なんかあるよね、いやわかる・・うん」みたいな

伊坂幸太郎:フーガはユーガ

双子の神秘的な世界のはなし

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