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【DAY 29】恋がしたくなる映画 「宮本から君へ」

DAY 29
a film that makes you want to fall in love.
恋がしたくなる映画

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「宮本から君へ」(2019)
真利子哲也監督
池松壮亮、蒼井優、一ノ瀬ワタル、井浦新、ピエール瀧、佐藤二朗、松山ケンイチ

文具メーカーの新卒の営業マン宮本(池松壮亮)は、靖子(蒼井優)に恋をした。彼女に付きまとうヒモ男・風間(井浦新)に、「この女は俺が守る!」と宣言したことがきっかけで、2人は結ばれることになった。しかしある日、会社の取引先の部長(ピエール瀧)を居酒屋で接待した日の夜、その息子である巨体のラグビー選手・拓馬(一ノ瀬ワタル)に彼女をレイプされてしまう。飲み会で無茶な飲み方をした宮本は、靖子と拓馬と同じ部屋にいたにも関わらず、その間、全く気づかずに泥酔して眠り込んでいたのだった。

それがきっかけで靖子に拒絶される宮本。しかしその直後、彼女が妊娠をしていることがわかった。父親は彼なのか風間なのか拓馬なのか、はっきりとはわからない状況だが、彼は靖子の気持ちを取り戻すために、拓馬と決闘をすることを決心する。

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30DayFilmChallengeで、ここまで僕が選んだ作品のうち、日本人監督の映画は「千と千尋の神隠し」「LOFT ロフト」だけ。日本に住む純日本人のくせに邦画をあんまり観ないのだ。理由はいくつかある。

まず、セリフが聞き取りにくい、ということ。映画を字幕で観るのに慣れきってしまったのだ。だから、いちおうキャストが発する音声はサウンドエフェクトとして聞いておくんだけれど、ストーリーを進行させる台詞については文字で読む、という知覚の仕方をすることにしちゃった。作った側には何の責任もなくて、かんぺきに僕の問題である。

だから、そうなってくると、日本映画には字幕がないから、登場人物が何言ってるのか、うまく聞き取れないことが多いんだよな。日本映画なのに日本語字幕をつけて観ることがあるくらいだ。

とすると、「洋画の日本語吹替はどういうことになるのか?」と言われそうだ。でも、「聞きやすさ」だけで言えば、声のプロがきっちり後付けしてくれているから、むしろ問題なく聞き取れる。昔は「吹替なんて改竄された映画体験じゃないかよ、オリジナルの肉声じゃないと何の意味もないじゃんか」という頑固な価値観があったんだけど、さいきんではすっかり丸くなり、むしろ吹替の方が、画面のすみずみまでをじっくり見尽くすことができるなあ、と思って、そこまでこだわりなく観るようになった。ややこしいことに、たまーに、洋画を、「日本語吹替」にして「日本語字幕」もつけて観る、ということもある。でもこの裏技、blu-rayやNetflixではできるんだけど、DVDやAmazon Prime、U-NEXTではできないんだよな。

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脱線したけど、邦画を観る割合が少ないもう1つの理由が、映画の「技術の革新」を観るのが好きということ。ハリウッド資本で作られるアメリカ映画の場合、最新技術のCGや、縦横無尽に飛び回るカメラワークや、独創的なアイデアのアクションや、すっかり原型を留めないメイキャップなど、とんでもなくコストのかかる世界最高峰のテクニックを披露する。それは日本の映画界には無理だし、別にそこを目指しているわけではない。映画の本質はそこではないからだ。

しかしそんな中、ひと目みて「これは面白い!」と思える日本映画に、久しぶりに出会った。真利子哲也、すごい。

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拓馬がとにかく強すぎる。この絶大なるパワーに立ち向かう無力感といったら、「ドラゴンボール」で言うところのフリーザが出てきたときのようなものだ。「スラムダンク」だったら河田。「アベンジャーズ」のサノス。「鬼滅の刃」の鬼舞辻無惨だ。(僕は鬼滅の刃を読んだことないため、流行りに乗じるためにわざわざググった。)

しかし、そんな彼に対して、とにかく真っ向からぶん殴りに行こうとする宮本の熱量がすごい。質量の感じられるよだれと汗と血が、画面いっぱいにほとばしる。池松壮亮は、宮本を演じるために、ほんとうに前歯を抜こうとしたらしい。三国連太郎の時代ならありえたのかもしれないけれど、今はメイク技術も発達してるんだからやめときなよ。でも心意気は伝わったよ。

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そして、ど直球の感情表現は、その敵だけではなく、恋人である靖子に対しても向けられる。そしたら、彼女も全力で打ち返すのだ。これもすごかった。
正直、蒼井優は、ちょっと本格派女優「ぶってる」だけだよなあ、と思うところがあったんだけれど、もしかしたらこれまで観てきた作品がたまたま悪かったのかもしれない、この映画ですっかり見直すことになった。
小綺麗な女優オーラをすっかり消して、どこにでもいそうな普通の女性を装い、怒っているときほど笑ってしまうような、泣きたいときほど無表情になるような、随分と巧みな感情表現を披露していて、これは「ぶってる」人にはできないものだった。ごめんなさい。

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既婚で37際の僕には、こんな熱量を持って恋愛をすることは、完全にありえない。でも、だからこそ、こういうフィクションが僕たちには必要であり、「飛ばして」くれるわけで、やっぱり、映画って、「なくてもいいもの」なんかじゃない。

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