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コンパコラム(2) ~換算質量~

今回は、力学分野におけるチョット面白い換算質量という概念を扱う。さっそく考えていこう。

まず、下の画像を見てほしい。

高校物理-11

2つの質点(誰が何と言おうとサッカーボールと雲に乗った男は質点である。いや、質点でないといけないかというと実はそうでもないのだが。)BとGが互いにfの力を及ぼしあって運動している。このときのB,Gそれぞれの加速度をα,βとしている。もちろん2質点をつなぐ糸(棒?)は軽く、伸び縮みしない。また、2質点それぞれの質量はm,Mである。

この現象を解析したいのだが、最初に何をすれば良いだろうか。尋ねるまでもないことを願っている。もちろん最初はEoMの立式だ。それでは立ててみよう。

高校物理-11 2

このようになる。ここで、片方から見た相対的な運動を考えるときに出てくるのが換算質量というものなので、ここではGから見たBの運動について考えてみよう。もちろん、相対的なEoMを立てることから始める。

高校物理-11 3

相対加速度はα-βである。先ほどの2つのEoMを用いてα,βをそれぞれm,M,fで表して差をとり、変形することで相対的なEoMを導くことができた。右辺は力の項である。2質点間にはfしか働いておらず、今は系に外力がはたらいていない状態を考えているので、相対的な運動においても働く力はfだけとなる。したがって、EoM(G→B)というのは、相対加速度と相対的な力をつなぐ式である。では、mM/(m+M)というのは何だろうか。察しの良い方はわかるだろう。これが換算質量である。すなわち、換算質量とは一方から見た相対運動を考えるときの見かけの質量のことである。Gから見ると、Bの質量はmM/(m+M)になっているように見えるということだ。

この概念がどこで利用できるのか気になるのではないだろうか。一つ例を挙げておく。

高校物理-11 4

(月は地球の周りをまわっているが、月の質量もかなり大きいため、実際には地球も月の周りをまわろうとする。そのため、上図のように、月は大きい円を描き、地球は小さい円を描いて動くモデルとして考えることができる。)

上図は重○問題集から抜粋したものである。同じ角速度で等速円運動する地球と月の運動周期Tを求めるという問題だ。一般的な解法は○要問題集の解答冊子を見ればわかるので紹介しない。ここでは換算質量を使うことで簡単に周期がわかることを紹介する。さっそく解法を見てみよう。

高校物理-11 5

記述すべきはこれだけだ。地球から見た月の相対EoM(月から見た地球のEoMでも良い)を立てる。このとき、質量の部分には換算質量を書くように気を付ける。あとはωを求め、周期の定義からすぐにTが求められる。どうだろう。換算質量はとても便利なものだろう。感動しないだろうか。

私も初めは感動した。しかし、換算質量を使うことができる場面はかなり少ない。そもそも質点数が3つ以上の問題には使えないし、2質点の問題であっても、及ぼしあう力にも気を遣わなくてはならない。だから、換算質量の概念を理解できたとしても、日頃問題を解くときに真っ先にこのやり方を試すことはオススメしない。たとえ上手くいったとしても、それでは物理の問題を解く力がついたとは言えないだろう。各物体に対してEoMを立て、運動を解くことを日頃から心がけ、換算質量は別解として考えるか、検算として使うくらいがちょうど良いだろう。

今回は換算質量を扱ったが、上記の通り、むやみやたらに使えるものではない。面白い概念もあるのだと頭の片隅においておくくらいで良い。これをコラムに位置付けた理由もそこにある。

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