エルの紋章

祈り終わった検分士は改めて現場を見渡した。
凄惨な光景だ。
目の前では魔法学者のモーガン・レヴィットが机に向かったまま死んでいた。殺されたのだ。
執務室にかけられていた何本もの魔法杖はなぎ倒され、色とりどりの石が床に散らばっている。
「レヴィット教授…どうして」
検分士は呟いた。彼はレヴィットに師事したこともあった。故に今度の事件は流石の彼も動揺が隠せなかった。そしていつもの叫び声も、一層煩わしく聞こえたのだった。
「検分士様!私は見たのでございます!」
気ぶりのモルテア。彼の仕事場にいつも「たまたま」いて…事件を見つけ…訳の分からないことを言っては、仕事を邪魔する。
「そうか、それで何を見たのだ」
「それは、お、恐ろしすぎて、私の口からはとてもとても…ヒイイイイ!」
検分士はため息をついた。いつもこうだ。
見たと言いながら、何を見たのかはいつも言わない。彼が事件の解決に役立ったことは、皆無だ。
「一応…拘束しておけ」
彼は従者にそう命じた。モルテアは引きずられていく。
彼は改めて遺体を見た。胸からの出血が致命傷。何があったか探ろうにも、これだけ部屋が荒れていたのではすぐには分かりそうもない。そもそも凶器は刃物か、魔法か。
考え込んでいる彼の目に、奇妙なものが飛び込んできた。遺体の目の前。机の上に置かれた奇妙な黒い物体。彼はそれを手に取った。
なんだ、これは。ずっしりと重い。金属製か。形はどことなくレヴィット家の紋章に大きくあしらわれた「L」の飾り文字に似ていた。
それを机に戻そうとした次の瞬間。
「L」からパァン、と音が響いた。同時に遺体の後ろの棚の硝子が割れた。そして「L」を持つ検分士の手に衝撃が走った。
ヒイイイィ。モルテアの叫び声が遠くで聞こえた。
…何だ今のは。まさか、これが?
検分士は直感した。凶器はこの「L」だ。
そして気づいた。その手元側に刻まれた紋章。
これは…〈死の天使〉?
もしや、奴らと関わりが?

【続く】

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