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最終回「てる屋天ぷら店」
あれはたしか、2019年の夏だった。オープン間もない仮設市場をぶらついていると、籠にお弁当を入れて配達する人を見かけた。店名が記されたTシャツを見に纏っている上に、金色に染められた髪が目を引いた。第一牧志公設市場の二階には食堂街があり、そこに出前を注文する市場事業者はよく見かけるけれど、市場の外から出前をとるのは物珍しい光景に感じられた。あれは一体、どこのお店から配達してもらっているのだろう。配
もっとみる第9回「プレタポルテ」
那覇の市場は“県民の台所”と呼ばれ、沖縄の食文化を担ってきた。公設市場が建て替え工事を迎えた今、新しい潮流も生まれつつある。そのひとつが、のうれんプラザの向かいに昨年オープンしたパン屋さん「ブーランジェリー・プレタポルテ」だ。
店主の高倉郷嗣さん(49歳)は徳島県出身。香川との県境近くに生まれ育ち、小さい頃から母の実家のうどん屋さんを手伝っていた。
「香川に行くと讃岐うどんになるんですけど
第7回「お食事処 信」
街を取材するとき、まずは界隈を散策する。そこがどんな街か、何が起きているのか、ぶらつきながら観察する。昼間はとにかく歩き、話を聞かせてもらう。日が暮れると酒場に入り、グラスを傾けながらぼんやり過ごす。そこには僕が生まれてもいない時代を知っている誰かがいて、かつてその街で起きた出来事や、そこにあった風景を教えてくれる。そんな行きつけの店が、何軒かある。そのひとつが、公設市場のそばにあった「お食事処
もっとみる第6回「市場中央通り第1アーケード協議会アドバイザー」
まちぐゎーには、アーケードが張り巡らされている。このアーケードは、県内各地にスーパーマーケットが増え始めた時代に、お客さんを繋ぎとめようと通り会が独自に設置したものだ。年季の入ったアーケードを見上げ、継ぎ目をみると、時代の断層に触れたような心地がする。
那覇市第一牧志公設市場の建て替えが始まると、市場に面した三面のアーケードは撤去された。市場の北側と西側の通りはアーケードを再整備しない道を選
第4回「セブン‐イレブン新天地浮島店」
かつて沖縄は、全国で唯一セブン‐イレブンがない空白地帯だった。そんな沖縄にセブン-イレブンが進出したのは、今から3年前のこと。2019年7月11日、県内各地にオープンした14店舗の中には、まちぐゎーエリアのお店もあった。「セブン‐イレブン新天地浮島店」だ。
オーナーの角屋隆司さん(55歳)は東京生まれ。お母さんが沖縄・久米島出身だったこともあり、幼い頃から頻繁に沖縄に足を運び、二十歳の頃に沖
第3回「琉球菓子処 琉宮」
きっかけは物産展だった。営業の仕事をしていた明石光博さんはある日、ルートをめぐる途中で博多井筒屋に立ち寄った。そこで開催されていたのは沖縄物産展だった。時代は昭和から平成に変わる頃で、沖縄の食材や料理は今ほど内地に浸透しておらず、初めて目にする品々に魅了された。
「22歳のとき、上司と独立して会社を立ち上げたんですけど、その上司に夜逃げされたんですよ。それで『とにかく稼がないといかん』と、2
第2回「翁長たばこ店」
今年の春あたりから、国際通りや市場本通りを行き交う観光客や修学旅行生を見かけるようになった。少し肌寒い季節でも、観光客はお揃いのTシャツやアロハシャツを身にまとって歩いている。ただ、市場本通りの入り口にある「翁長たばこ店」の翁長清子さん(77歳)は、春になってもジャンパーを羽織って店番をしている。
「ここは風がふきつけるから、結構寒いんですよ。ときどき突風が吹いて、たばこを並べている台が倒れた
第1回「MIYOSHI SOUR STAND」
囲いの向こうに、鉄骨が組み上げられてゆく。長く続いた基礎工事を経て、いよいよ新しい公設市場が建ち始めた2022年の春、すぐ隣の松尾19号線でも内装工事がおこなわれていた。かつて「三芳商店」という果物屋さんがあった場所に、「MIYOSHI SOUR STAND」がオープンしたのは、4月3日のことだ。
店主の池田裕司さん(40歳)は宮城県仙台育ち。二十歳で海外に出て、数十か国を渡り歩いた池田さん