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【読書記録】『ルポ塾歴社会』

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『ルポ塾歴社会』

関東の中学受験塾において、最難関校に数多くの合格者を輩出しているサピックス。そしてサピックスが対象とするような関東最難関校を主な対象とし、東大や国立医学部に余裕を持って合格させることを目標とする「秘密結社」鉄緑会。

半ばエスカレーターのようにして、サピックス→難関中高・鉄緑会→東大というルートを確立させ、日本の頭脳を確立させていると言っても過言ではない塾歴社会が生じている。

しかし塾は本来、教育を多様にするもののはずであったのに、塾によって進路の「王道」が作られることにより、その多様性がなくなり、受験の制度疲労を起こしていると筆者は主張する。

また、サピックスも鉄緑会も課題の量が極めて多く、授業や周りのレベルも非常に高度である。元々「できる子」はこうした課題をこなし、塾でのクラスも上位、そして難関校に難なく進学していくが、そうでない「普通の子」はこれによって潰されてしまう。そして学校も塾も中途半端になってしまうこともあるという。


感想

桜蔭も灘も開成も、学校では受験指導に力を入れないと言われています。それよりも特徴的な教育方針を打ち出し、難関校では盛大な理科の実験や自由研究、卒業論文などで、生徒の興味関心を最大限に尊重し、多様な人間を教育させています。
それは筆者の本を中心に、私立最難関校を取材した本によく書かれていることです。

しかしこうした学校でも、授業中に鉄緑会の宿題を内職する光景が当たり前のようです。
生徒(もしかしたら保護者も)の関心は教育理念よりも進学と将来の安定であり、教育を金銭的な利益のためのものとしか考えられない日本人らしい行為と言えます(これは以前に読んだ付属校の本にも同じことが言えるのですが)。


 大学は人種の坩堝です。そのため、大学生活を送ることは今までの価値観に刺激を与え、時には困惑もし、逞しく成長することができる機会だと思っています。
しかし、塾歴の王道を突っ走ってきた人は、そう簡単に価値観が変わるとは思えないし、極めて保守的な人間になるのではないでしょうか(この場合の保守的とは、既存の社会規範を疑わずに安定志向でいることだけでなく、国際貢献やボランティアをしなければならないという使命感など、社会に阿るような姿勢全般を指しています)。

筆者も指摘するように、多様性のない社会は変化に弱いです。社会情勢の混乱に柔軟に対応できるような人を育てることこそ、最上の教育なのではないでしょうか。その意味でも、塾歴社会には一定程度の問題があると言えます。

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