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ブックデザインあれこれ 1 | The New Masters’ Houses in Dessau 1925–2014(Edition Bauhaus 46)

だいたい週1くらいのペースで、個人的に気になったブックデザインについて好き勝手書いています。取り上げる本はISBNがついている、もしくは一般に流通している(していた)モノという以外、特にルールはありません。


「Edition Bauhaus」シリーズの第46作。「Edition Bauhaus」はバウハウス・デッサウ財団が製作している書籍のシリーズで、内容は過去の研究内容だったり現在のワークショップのドキュメントであったりと多岐にわたり、本の体裁も毎回バラバラで、特にデザイン上の統一感は無い。出版は同じくドイツのSpector Books。

今回の『The New Masters’ Houses in Dessau』は、1945年に爆撃により破壊されたモホリ=ナジらが居住していたMasters’ Houses(先生のための住宅)の復元にまつわるドキュメント。バウハウスの校舎から歩いてすぐのところにある3棟か4棟からなる建物らしく、元々の設計は校舎同様ヴァルター・グロピウス。

製本はドイツ装。背にもボール紙が入っている上に三方断ちしているのでとにかく四角い。実際の建物の印象を踏襲しているのかもしれない。ちなみに〈ドイツ装〉というのはおそらく日本だけの名称で、バウハウスだからドイツでこの製本、ということではない。

ドイツ装のソリッドな角
背の文字の下端と、表紙の写真の下端を揃えている(たぶん)

本文のデザインについては、フォーマット上のいろいろな仕掛け(?)が施されていて、英語なので読めないこともないが、見ているだけでも楽しい。

例えば下のページは章の頭なのだが、文章の始まる位置がなんだか中途半端で、さらに章タイトルとノンブルが同じ高さにある。

165ページ 章トビラ

なんでこんな位置なんだろうと思って見ていると、目次に答えがあった。

目次(165に注目)

どうやら目次にある各章のタイトルとノンブルの位置が、そのまま後ろの該当ページのレイアウトに反映されるシステムらしい。

また、本文中の写真のレイアウトについては、写真の対向には文字を入れないルールになっていたり、

本文中の写真のレイアウト(贅沢な紙面の使い方…)

座談会のページは話し手毎にインデントを変えることで、ぱっと見で誰の話なのかわかるようになっていたりと、レイアウトの仕組みを読み取れると面白い。

座談会のページ

とはいえ文字メインの堅い内容ばかりではなく、Armin LinkeとHeidi Speckerによるビジュアルページもあったりする。

Heidi Speckerの写真

何はともあれ一番驚いたのは、ここまで見て勘のいい人なら気づいたかもしれないが、一冊を通して文字の書体、サイズが全て同じということだ。表紙の「EDITION BAUHAUS 46」以外、各章タイトルから本文、キャプション、ノンブル、奥付にいたるまで全て同じ(色は濃度違いで2種類あり)。
なかなか勇気のいるデザインシステムである。いわゆる「引き算のデザイン」へのアプローチはいろいろあると思うが、ここまで割り切ったものはなかなか無いのではないだろうか。
デザインやルールに固執するあまり可読性を損なったり意味が分かりにくくなったりすることも多々あるが、この本の場合はそういった問題はなさそうである。

巻末のクレジット 文字色はグレー
[左ページ]人名の長さによってプロフィールの文字ブロックの幅が変わる

全体的なレイアウトの特徴として言えるのは、1ページ1ページを丁寧に美しくレイアウトするというより、システム的な美しさを追求しているということだと思う。1枚1枚のナイスなグラフィックデザインの集積ではなく、本というメディアの特性を活かしたデザインルールを作っている。
ルールをしっかり作って、レイアウトはそこから自動生成されるくらいのイメージだろうか。むしろプログラミングに近いような気もする。

そもそもバウハウスの教育理念の根底にあるのは合理主義、機能主義といった考えで、それは単に「これキレイだよね」「美しいよね」ではなく、「なぜその形になったのか」という合理的で明確な根拠があるということ。この本のデザインもその理念の体現ということなのだろう(だいぶ尖った体現とは思うが)。

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