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ブックデザインあれこれ 4 | Artist | Work | Lisson

だいたい週1くらいのペースで、個人的に気になったブックデザインについて好き勝手書いています。取り上げる本はISBNがついている、もしくは一般に流通している(していた)モノという以外、特にルールはありません。


ロンドンにあるリッソン・ギャラリー(Lisson Gallery)の設立50年(1967–2017)を記念したアーカイブ本。
リッソン・ギャラリーは現代アーティストを取り扱うギャラリーで、ざっと見てもアイ・ウェイウェイやドナルド・ジャッド、リー・ウーファン、オノ・ヨーコなど、あまり詳しくない自分でも知っている名前が並んでいるので現代アートを幅広く網羅している、のだろう。

サイズはA4 厚さは4.5cmくらい

内容としては過去の展示の記録がアーティストごとに名前順(A-Z)で掲載されており、マリーナ・アブラモビッチ(Marina Abramović)に始まり、最後がシャロン・ヤーリ(Sharon Ya’ari)。

左上はアーティストの名前 右上は展示が開催されたされた年

それから各アルファベットの先頭ページには寄稿文(例えば「CONTEXT」というタイトルの文が「C」の頭に入っている)であったり、沿革(HISTORY)が「H」の頭に入っていたりする。要するに全てのコンテンツをA-Z順に並べる、という編集方針のようだ。

H[History]のページ トビラにあたるページだけ文字が赤

ざっと数えて150名ほどのアーティストが掲載されていて、ページ数は1,150くらい。
製本はコデックスなので開きはいいが、トレペのように薄い紙が使われていて(実際に透けまくる)、本の最初から最後まで全く同じ紙になっている。つまり表紙を厚めの紙にして耐久性を持たせたり、持ちやすくするといった配慮は全く無く、正直なところ読みにくいというか扱いにくい。A4のコピー用紙の束をどさっと持っているイメージが近いかもしれない。
OHPシートのような透明なカバーが付いているが、またこれが割れやすい上に滑る。もし書店で立ち読み用に置かれていたら、1週間でボロボロになるに違いない。

見返し(?)にあたる部分

デザインしたのはオランダのイルマ・ボーム(Irma Boom)という人。一度だけ会ったことがあるが、自分(180cm)と同じくらい身長があって明るくフレンドリーな女性で、この本以外にもかなりとんがった本をたくさんデザインしている。

造本についてネガティブな書き方をしたが、読みやすいことは何も必ず正しいわけではない。耐久性に難のあるモノは出版社や取次が嫌がることはあるが、それすら絶対にそうでなければならないわけでもない。少々大げさに言えば情報が伝達できていれば他のこと、例えば耐久性は多少目をつぶる、という割り切り方もできるのかもしれない。また、デザイナーに都合よく解釈すれば、そういった割り切った本が置かれる余地が市場にあることが、その国の出版文化の懐の深さというか余裕みたいなものを表している気もする。

歴史のある美術館やギャラリーがアーカイブ本を出すことは珍しいことではなく、日本でもよくあるが、有名なギャラリーであっても大抵は当たり障りのない、記録としての編集・デザインとなることが多い。
この本にしても例えば掲載している画像をもっと小さくすればページ数を減らすことができ、ウラ透けしない紙を使い、ちょっとコシのある紙でカバーでも付けてやればもっと読みやすい、いわゆる「普通の」本が出来上がるわけだが、当然ながら意図的にそういうことをしていない。
「普通の本なんて作ってもしょうがないでしょうよ」と、イルマさんが言ったかどうかは知らないが、言っているような気もする。少なくともそんな気概を感じとることはできる。


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