コメディの冬

コロナ禍において、身体的な接触は出来るだけ避けましょう、という風潮というか、欧米社会の文化として出会った際にキスやハグをするのがダメだ!ということになりました。日本では挨拶で接触することはありませんので、その習慣の方がいいとも言われましたが、だからと言って日本人がまるっきり接触しないわけでもありません。

漫才を始めとするコメディアン、バラエティ番組などで、ボケた人にツッコミとして頭を叩くことはよくあります。もちろん日本人でも簡単に人の頭を叩くものではないのですけれど、外国では当然ながら失礼な仕草です。

キスもハグもしないけれど漫才でのツッコミで頭を叩くのはポピュラーという日本ですが、日本では身体的な接触が非日常的だから、ツッコミで叩くことが成り立つのでしょうか?

失礼かどうかという問題もありますが、それよりも社会的に重視されるポリティカルコレクトネスはどんな分野でも求められるようになってきました。それそのものは結構な考えですし、全てを否定するつもりは毛頭ありませんが、何か踏み込んだことを発言すると、引っかかってしまう恐れを考えると、なかなか難しいものがあります。

現実の人や組織などを取り上げる際には注意すべきなのは当然ですが、ハリウッド映画に代表されるようにフィクションでも同等の厳しさは感じられます。

フィクションの中でも真面目なもの、シリアスなものならまだいいでしょうが、観て笑っておしまいでいいはずのコメディでもそういう厳しさが求められると、笑っている場合でもなくなります。

そもそも笑いは誰かを馬鹿にするものです。馬鹿にされる側が了解の上であればちゃんとした笑いとして成立し、了解していなければ揉め事になります。その点では非常に難しい、高度な文化的行動です。

誰かをネタにして笑いを取ろうとして、ポリコレ的な判断を誤れば即炎上です。そのこと自体は否定しません。そういう時代と言えばそれまでですが、19世紀には小人症や身体障害者の人がそのことをネタにするサーカスや見世物小屋で働くことは珍しくありませんでした。今では当然不可能ですしするべきでもないですし嫌悪感を誰もが持つでしょう。かつて一世を風靡したシャネルズのようなキャラクターももはや出来ませんしやろうとも思わないでしょう。時代が変われば笑いもネタも変わります。

ネタが変わるのは当然ですが、演者側のパーソナリティも今後変わってくるのでしょうか。二人組の漫才で言えば、男性+男性、男性+女性、女性+女性の内で、単純に数として一番多いのは男性+男性の組合せです。ここに、LGBTですとか、人種、民族、宗教とかが絡んでくる時代がやってくるのでしょうか。

白人、黒人、スパニッシュ、アジアン、ネイティブアメリカン、男性、女性、LGBT、カトリック、プロテスタント、イスラム教スンニ派、シーア派、大乗仏教、上座部仏教、神道といったバリエーションを揃えても不足は絶対に出てきます。この中の全てを網羅するような人間がいない以上、二人組の漫才をやったとしたら他の属性への配慮が足りないということになるのでしょうか?

これはさすがに極論過ぎますが、フィクションの冬の時代、コメディの冬の時代が近付いているような気がしてなりません。

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