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【SDGs/ESG/ISO/人的資本経営】「ジョブ型」を捉えなおす。

1.「人的資本の情報開示」研究会の活動について

 なぜ、米国でヒューマンキャピタル・レポーティングが義務化されたか?その背景を「個人のキャリア」の視点から考えることを目的として、このような「サークル」を主宰している。(★新メンバー募集中★

 ここでは毎週、SDGsやESG投資の流れの中で「個人の働き方」をどのように変えていくべきかについて活発にディスカッションを行っている。

 議論のための素材としては、私自身の講演資料、セミナー資料、書籍等の他に、人事やHRテクノロジーに関連する記事やSNS投稿の内容なども広く扱っている。
 つい先日はこちらの連載対談記事(第1回~第4回)(以降、「Yahoo記事」と呼ぶ)について、私なりにコメントをまとめたうえで研究会メンバーからも様々な意見を聞き、3時間近く活発なディスカッションを行った。それによって自分の頭の中も整理し、「ジョブ型」を「今風に」捉えなおしてみようと試みた。

 ここで、上記のサークル活動の方針として、普段はサークル内で閉じたディスカッションを行って議論のまとめ(記事)もサークルメンバー限定公開とするものの、月に一度くらいのペースでそれらの内容を広く(SNS等を通じて)発信していこう、というものがある。本noteの記事はそれを目的としたものであり、次節以降で「ジョブ型」の正しい捉え方について考察してみる。

2.「ジョブ・ディスクリプション」とは

 Yahoo記事の中で最も気になったことであるが、まず、「ジョブ・ディスクリプション」(以上、「JD」とする)の定義が違う。そもそもタスクベースで定義すべきではない。Yahoo記事「第2回」の「識者コメント」も、残念ながら3人とも不正解だ。(ただし、牛島氏の「個別タスクは日々変わるから、それを書くのは危険」というのはそのコメントの一部のみが切り取られている感があり、コメントの内容そのものは正しい。「JDとは、タスクを記載するものだ」というのは誤りだ。)

 「JDは役割を終えた」という議論はたしかに一時期あったのかもしれないが、JDはHRテクノロジーの登場・進展の中で価値が見直された。少なくとも、真の適材適所の実現(ジョブマッチ)やパーソナライズされた従業員体験の提供を実現する際の「共通言語」「共通のモノサシ」となるのだ。

 ちなみに、ジョブ定義についてのあるべき姿(一応の正解と考えている)についてはこちらの記事を参照して頂きたい。

「難易度の高い仕事は抽象的であり、具体的なタスクを書いても意味をなさない」

というのはまさにその通りである。ただ、この考え方をあらゆる職種に貫くべきだと私は考える。
 メンバークラスにも抽象的な仕事(タスク)がある。したがってそもそもタスクベースで定義すべきではなく、スキルコンピテンシーベースで定義を行うべきなのだ。

3.「日本型」との折衷案

 Yahoo記事「第2回」の中で、「日本型」については「(『エンジニア』等の)特定の職種で無限定雇用」という表現で説明されている。

「日本の問題は、スペシャリストコースといっても、職種別の総合職を作っているだけ」
「こんなものは意味がない」

 また、次のような記載もある。

「職責ミッショングレードはすでにある職責・役割等級の焼き直しであり、欧米ではあり得ない属人等級です。」

 これらの制度・仕組みについては、「日本型」の良い部分は日本独自のやり方として残していけば良いのではないか。
 ここで、サークル内で「折衷案」の是非についてディスカッションを行った。すると、メンバーからは次のような意見が出た。

◆人事領域の経験が長い人は、人事制度の解像度を上げることにフォーカスしがちで人や組織戦略が置いていかれがち。

◆制度は経営戦略に沿う(アラインしていく)必要がある。戦略を実現するための制度でなくてはならない。

◆人事の立場で考えると、データという信頼できる材料がまだあまりない(蓄積が足りない)ため、「考え方」や「コンセプト」に人事が振り回されてしまう。現場の情報や経営の方向性などが人事に集まると進めやすい。

◆日本企業はこれまでメンバーシップ型でやってきたが、ようやくジョブ型へ移行しようという動きが出てきている。特にグローバル企業の場合は、国境を越えて考えていく必要がある。たとえば、日本企業の米国支社の制度と、日本HQの制度とのギャップがある場合にはどうすればよいのか?日本は日本特有でいいのか?

◆法人ごとやビジネス単位ごとに変わっていいのではないか。とはいえ共通する精神が必要だ。HRテクノロジーの活用により法人ごとのきめ細やかな表現ができるようになってきた。

◆現地の法人ごとに違っていて当然だ。ただし、バリューやミッションは共通であるべきだ。

4.異動・配置のあり方

 同じくYahoo記事「第2回」の、

「本人同意がない限り、配置転換はできない」

という点については、基本的にはむしろそうあるべきと私は考える。「キャリアオーナーシップ」はメンバー側に持たせるべきだ。もちろん、組織戦略上はその例外もあり得るわけで、企業側と出来るだけ対等な立場で建設的な話し合いを行えるような体制づくりが望まれる。
 若手層はこれを望んでいる。特にミレニアル以降の世代にはデータで根拠を示すことも必要だ。

 この論点について、サークルメンバーからは次のような意見が出た。

◆配置転換される側、する側で対話が必要だ。アンラーニング(学びほぐし:一旦学習した知識や既存の価値観を意識的に捨て去り、新たに学習し直すこと)で違うキャリアを歩むような機会提供も必要ではないか。

◆なぜこのポストなのか?会社としての意味、その人にとっての価値は?
会社への信頼感を培わないと納得感を持って配置が進められない。配置転換にも個人同意が必要。人事やマネージャーに求められるスキルもますます高度になっていきそうだ。

◆本人同意なしの配置転換がまかり通っている中で、本人の違和感や家庭不和の問題をどう解決している?米国だとパワーハラスメント扱いされて訴えられそうだ。

◆現場の実態としては、「不和」が出ないように、管理職がメンバーに対して取り繕い、最大限サポートして、組織全体の動きをフォローしてきた。なんとか取り繕い、説得等をして本人のやる気を促していた。

◆法政大学石山教授のリサーチ「日本企業のタレントマネジメント」が参考になる。「人材像」の有無(これがしっかりと先に定義されているか)により変わってくる。

◆某メガバンクでは、50代などのセカンドキャリア支援が行われている。金融機関の配置転換については全般的に従業員側が受け身の姿勢。セカンドキャリアについても受け身。出世コースの人以外は会社の外に出ていく。会社の力が強すぎて、自律的なキャリア形成の視点が抜けている。そんなことで、50代からキャリア形成できるのか?

◆上記の銀行の例は、「アメリカ軍」がイメージと近い。退役までほんの20年。その先に学費や生活の支援があるのでなんとか我慢する。日本の金融機関はまるで軍隊のようだ。
→【民岡コメント】
 アメリカ軍に限らず、軍人には愛国心がある。職務を全うするための大義名分というか、ミッションは「国家防衛」なのでスケールも違う。耐えるだけの意味もあり価値もある。それに対して、たとえメガバンクであっても「私企業」であり、国家に比べればいつなくなってもおかしくない存在といえる。それに対する忠誠心と軍(国家)に対するそれは同列に語れないはずだ。

◆日本企業は、とにかく事業継続させることを中心に考える。しかし昨今は、事業構造が大きく変わることが求められる。事業の浮き沈みも激しい中、柔軟な配置転換も求められる。この点、昔ながらの企業ではこれらの仕組みはうまく回らないだろう。

5.「ポジション」か、「人」か、

 同じくYahoo記事「第2回」の、

「人はある会社に入ったのではなくて、あるポジションで会社につながっているだけ」

という表現についてだが、「だけ」と書くとネガティブなイメージになるが、実はここは「主体的なキャリア形成」という観点からは重要なポイントとなろう。「就社ではなく就職」というやつだ。

 この点に関しても、サークルメンバーから様々な意見が出た。

◆「キャリア自立」のひとつの完成形ではあるだろう。とはいえ、ジョブ型の制度の下でも「誰と働くか」は大事だ。

◆「ポジション」ではなく「ジョブ」と置き換えると違和感はない。自分の周りをみると、半分強が仕事の中身よりも会社ブランドから与えられた役割を意識しているように感じる。

◆外資系IT企業には、従業員の親やその他の家族を呼ぶ日(Family Day)(という仕組み)がある。それ以外にも、社員運動会、ファミリーパーティ、ファミリーBBQ、ハロウィン等により、この会社で働いていることのバリューやプライドを家族にまで感じてもらう機会をつくっている。外資系企業(特にアメリカ)の課題として、「この会社を好きだから辞めない」という状況をどうつくるか。

→【民岡コメント】
 まずジョブとつながっていて、そこにはプロ意識もあり独立心もあり、その上で会社組織に対する愛社精神や忠誠心を持つという順序であれば健全だ。
 しかしこれとは逆に、まず組織に対する忠誠があって「個」を捨て、組織の言いなりになるというのは幸せでないしリスクもはらむ。

 では、健全な忠誠心はどのように醸成していくべきか?

◆職務経歴書を見直したことのある人は、企業との間合いが取れる。新卒からずっと同じ会社だと、会社と距離が置きづらくなる。

◆学生時代に本格的なインターンシップを経験する、という仕組みを日本企業も取り入れるべきではないか。そこでは正社員と同じような仕事を経験でき、会社と個人の間合いが形成されるはずだ。

 同じくYahoo記事「第2回」の中で触れられている

「企業は人事異動できる権利を持っているのだから、『ポストがなくなってもクビにせず、異動でしのいでください』ということなのです。」

という仕組みも、「日本型」の良さとしてそのまま活かせば良い。

6.「人事権」について

 他方で、

「人事権がないということは、企業は個人のことを成長に応じて動かして育てるということが難しい。だから、自分でキャリアを考えていかなければいけないということ」

という点については疑問だ。それぞれの関係性が分からない。
 まず、従業員自身が自分のキャリアを自分で考えていくというのは決して悪いことではないし、従業員の考えや希望を尊重して「成長に応じて動かして育てる」ことを企業側はなぜ出来ないのか?それをサポートするのも企業側の責務であろう。責務を全うするための人事権は必要なのではないか。

 この点についても、サークルメンバーから様々な意見が出た。

◆人事のパーソナライゼーション(個別人事)のあり方を考えると、目の前の上司が人事権を行使できるよう育つ必要がある。

◆転職したことのある人が増えれば、それぞれの組織における社員の意識も変わるのではないか。それにより、個人の選択肢が増えていくのではないか。若手層の思考も変わってきているので、期待できる。

 また、そもそも「企業に人事権がなくなる」とあるが本当か。少なくとも、人事部から各現場に人事権が移行されるのではないか。
 この点については、サークルメンバーから次のような意見が出た。

◆企業ではなく、人事が人事権を失うということではないか。

◆人事から現場への移譲は、現場に混乱が生じそうだ。本当に実現できるのか疑問もある。「HRBPまつり」が数年前からある。「ジョブ型まつり」にも似ている。日本なりのHRBPのあり方を模索すべきだ。その会社の目指す方向性で、本部人事と部門人事(HRBP)との関係性や役割も変わるはずだ。

7.新しい「キャリア」のあり方

 同じくYahoo記事「第2回」には、

「本当にジョブ型になってきますと、企業が何とかしてくれるわけではないので、キャリアは自分で考えなければいけなくなってきます。」

という記載がある。私は、むしろそれが「ジョブ型」のメリットではないかと考える。

 また、

「もし『この人のことを育てたいからこちらに移したほうがいいだろう』と思っても、同意を取らなければなりません。1つは本人の同意ですが、もう1つは今そのポストにいる人にどいてもらうための同意です。これは困難なので、もし無限定になったら人のことを育てるための異動というのはなかなかできなくなります。」

という局面こそ、HRテクノロジーの出番だ。データの力で人に納得感を与えることが出来るようになる。「同意」も飛躍的に取りやすくなるのではないか。
 性格特性、職業適性、求められるスキルコンピテンシー・経験等のデータを拠り所としてマッチ率を出すことができれば、「別のジョブ(ポジション)に行けばマッチ率が今現在よりも高まる」ということなども可視化して議論しやすくなるかもしれない。すなわち、「同意」を取りやすくすることにHRテクノロジーが寄与し、さらに従業員側としてみれば、これまで身につけることが困難であると思いこんでいたスキルを獲得するチャンスも広がるのではないだろうか。

 この論点についても、サークルメンバーから様々な意見が出た。

◆データでキャリアの可能性や選択肢を考える事について、Amazonの本やNetflixの映画のレコメンドのように選択肢が示されると価値観や好奇心が刺激されて、セレンディピティをくすぐるようなキャリアの可能性が示せるようになるとわくわくする。
→【民岡コメント】
 ラーニングメニューのレコメンドなどはまさにNetflixやAmazonと同じ仕組み。ラーニング促進をAIがサポートする。本人も気づかなかったことを根拠を持ってAIが提示してくれる。ラーニングメニューのみならず、新たなポジションとの出会いという効果もあるのではないか?

◆エンジンはまだ初歩的だが過去の情報(ポジション・仕事)をもとに、あなたの仕事をこれまでやっていた人は(次のキャリアとして)何割ぐらいこのジョブに行った、プロモーションした…と言うのを見せてくれるものはある。スキルギャップを可視化してそれを埋めるためのトレーニングを示してくれたり、メンターをやってくれる人の候補者を示すところまでやってもらえる。

◆Fuel50もその代表例だ。ただし、社内でJDが徹底して整備されていることが前提。

◆workdayは無償で「ジョブ定義集(スキルライブラリー)」を提供している。workdayが保有しているジョブプロファイルの情報から取捨選択してもらって、顧客企業に対して「この中に近いものはありますか?」という会話をしている。会社の中での(従業員保有スキル等の)ビッグデータ分析をするのは難しいが、3000万社以上の社員を匿名化してそれらのジョブプロファイル情報を保有していることによってベンチマーキングすることができるので、企業規模、エンジニアのランク等によっての給与情報(報酬額水準)等を参照できる。

◆(人事コンサルの立場として)日本の古典的な企業様とのお付き合いが多い。数千人規模のお客様と深いお付き合いをしている。彼らの多くは、様々な目的別にそれぞれ異なるシステムを使っているため、データがバラバラに存在している。上記のようなソリューションを活用したいが、情報がどこにあるかが不明、バラバラ。どこから手を付けたらいいのか?

◆15年前まではアメリカ企業もそうだった。人事の担当者毎に別々に権限を与えるとそうなってしまう。会社組織の中で、誰がどのような責任でどんな仕事をしているのか、をベースにして意思決定していかないと「一体化」できない。日本はITと人事が仲が悪い、又はITはIT子会社に任せっきりになっていて、財務や人事に言われたことをやるという仕組みになっているケースが多かった。SaaS系のソリューションが出てきたことによりITインフラとして人のデータを中心としたインフォメーションプラットフォームを作らなくてはいけないという機運が高まった。
→【民岡コメント】
 ISO 30414が出しているメッセージもまさに同じ。
 給与&勤怠管理は、従業員IDを主キーとしてCoreHRと連携できれば足りる。タレントマネジメント/ラーニングが核なのでこれはいいものを徹底的に選ぶ。ラーニング側の思想がスキルコンピテンシーベースでタレントマネジメント側も発想が同じであれば連携できる。あとは、物理的に散在したデータの繋ぎのポイント(仮想的な一元化)が重要。Panalytが良くできている。
参考:パナリットの統合可能なデータ
https://www.panalyt-ja.com/integrations-jp

8.ジョブ・ローテーションと適材適所

 Yahoo記事「第3回」には、次のような記載がある。

「人事の8割は昇格ではありません。ヨコ異動。同職の人をスライドさせて埋める。」

というのは良いが、どうせやるならもっと科学的にやったほうが良い。「ヨコ異動」は「Lateral Assign」「Lateral Promotion」としてHRテクノロジー領域でも注目されており、これを如何に巧く、データの力で科学的に行えるかが真の意味の人材の流動性を高めることに繋がり、その結果優秀人材(特に若手層)のリテンションに役立つと言われている。

 また、ISO 30414でも「内部異動率」という項目(Metric)があり、これは「垂直方向の異動」と「水平方向の異動」(ヨコ異動)の比率を算出せよ、というものであるが、暗に「水平方向の異動の比率を高めよ」とのメッセージが込められていると受け取るべきだ。

「ヨコヨコたまにタテ、を繰り返してくると、最終的に空席は組織末端に寄せられます。組織末端のやわな仕事であれば、ある程度ポテンシャルが高く、しかも社風に合っていて言うことをちゃんと聞く若造一人とれば埋められる」

 いわゆる「(日本の)ジョブローテーション」を柔軟に行うために、「玉突き人事」は1つの工夫だった。一番初歩的な、誰がやっても良い仕事を新卒で担う、個性がない仕事を担保する仕組み。

 しかしながら、末端の「若造」についてはさておき、真ん中あたりの人たちに納得感はあるのか?「従業員体験」やエンゲージメントの向上のためには、やはり科学的手法の導入が必要になってくるだろう。それを実現するための具体的ソリューションは実際に存在しており、ジョブの定義があり、従業員側からスキル・コンピテンシーの情報がとれていればテクノロジーの活用により可能である。

 ここで、「水平方向の異動」を科学的な方法で行い、真の流動性を高めることについて、サークルメンバーから様々な意見が出た。

◆賛否両論出るのではないか。「横異動」で良いと思える人もいればそれによってキャリアが狭められたと思う人もいる。

◆アメリカはマネージャールートとは別にスペシャリストルートを目指すインセンティブがある。課長になると管理仕事ばかりになるから、という理由もある。

◆AI人材などに関しては少し変わってきている。ゼネラリストからスペシャリストへの(戻す)パスというのは、研究の進化のスピ―ドに戻せるのか?という問題がある。

◆研究職の中にもマネージャーがいるわけであり、そこの行き来が流動的になっているといいなと思う。

【民岡コメント】
 プロファイルズ社のProfileXTというアセスメントの活用により、たとえば「専門職型かマネジメント型か」、という診断結果が出る。
https://www.profiles.co.jp/products/products-profilext.html
 マネジメントルートでTOPに上り詰めることが出来る者はごくわずかで、「枠」に限りがある。そこで、途中からスペシャリストルートに戻るようなパターンもある。他方、スペシャリスト⇒マネジメントに行くパターンもあり得る。

◆グローバル企業は経営者というよりも経営チームという意識がすごく強い。他方、日本企業はお山の大将という意識が強い。

 同じくYahoo記事「第3回」には、次のような記載もある。

「ポストの数が合理的に先に決まり、人が余ったらクビ、足りない場合は、例えばリーダーやサブリーダーの席が空いた場合でも、50歳の人を強引に採用して埋めちゃったりする。こんな、ポストオリエテッドな人事管理をしているんです。」

 これからはここを強引な手法ではなく科学的なやり方に変えていこう、という話だ。

「人よりもポストしか見ていない」、「ジョブ型とはそういうもの」

とあるが、そうでもないだろう。

 以上のように、ジョブ型的発想をするとまずポストの数が決まり、足りないと無理矢理誰かを持ってくる、そして余るとクビ…という議論になっているが、「人よりもジョブしか見ていない」ということが逆説的に人を大事にすることに繋がるのではないか?
 企業戦略上の設計に基づいたものであれば、まず初めに人を育成しておくべき方向性を考えるので、人に対して正しい育成の方法を示すのではないか?逆に、「まず人ありき」というのは無責任なのではないか?

 「スキルエコノミー」「スキル中心の世界」ということが叫ばれる昨今では「まず人ありき」ではないことは確かだが、初めに戦略的にポジション(≒ジョブ)が定義されて、そこにはスキルコンピテンシーが割り当てられる。それに対して人を貼り付けることにより、一体どのようなスキルコンピテンシーを持っているべきなのか(持っていなければ、新たに身につけるべきは何か)がより明確になるため、「まず人ありき」と無責任に言ってのけるよりも結果としてはるかに人にやさしい(人材育成を真剣に考えた)姿が実現される。

 このような論点についても、サークルメンバーから様々な意見が出た。

◆企業としてアウトプットを出して貢献するとなったらそのための仕事があり、その仕事をやってもらうために人がいると考えた時に、ジョブ型というのは基本的にはそういう事だと思っている。

◆最後(底辺のところの調整)は若造(新卒入社)で…みたいなところについては、部長が空席になったとしてそれが重要なポストだったら中から上げるのがいいのか外から取ってくるべきなのかという視点があるべき。

◆多くの日本企業においては、人は自分が教えられる人を採用しようとする。外から持ってくる場合に「自分たちにないものを取ってくる」という思想がない。染め上げたい人を採用したいという風潮がある。本来は、採用の意図をしっかり考え、どんなスキルを持っている人を採用したら企業として成長できるかを考えましょうということが大事。
→【民岡コメント】
 採用のKPIが「採用人数」だと厳しい。Quality of Hireという項目(Metric)がISO 30414の中にある。採用時のポテンシャル(期待値)を何らかの方法で測る。その後、一定期間経過後の実際のパフォーマンス発揮度を可視化する、という指標だ。これにより、採用のKPIは劇的に変化していくことが期待される。

◆日本企業も変わってきている気がする。CxOがいない(空席となった)場合、下の候補者を上げるためにどうするか、外から採るならどんな人を持ってくるかという前提で議論できるようになってきたのは大きな変化。

◆日本企業だから変われないとかではなく、しっかりと議論をしてロジカルに考えれば「ジョブ型」に寄って行くのではないかと思う。

9.スキルの獲得

 ただ、「ポストで給与が決まっている場合、いくら能力を上げても給与は上がらない」という問題はどうにかしなければならない。
 スキルを身につけるほど(ただし、企業側が求めるものを優先的に)それが報われる仕組みにしなければならない。

 企業の中で自発的に色々なスキルを持ちたいと思える制度があると良い。「バッジ制度」などを採り入れ、会社の中でホットな(重要視されている)スキルを目に見える形で示せるとよい。

 サークルメンバーからは次のような意見も出た。

報酬額の水準についてのガイドラインはあるしベンチマークもあるが、給与(報酬)については基本的にネゴシエーションの世界なので、やっていること(出来ること)と報酬をリンクさせるのはやめた方が良い。プロフェッショナル人材の報酬と仕事(内容)はリンクしていないし、ガイドライン上の金額幅も倍ぐらい。ちなみに、「同一労働同一賃金」は「レイバー」(労働者)の世界の発想だ。
例えば、英会話教室の講師について、英語しか話せないA講師とドイツ語と英語の両方を話せるB講師、どちらの報酬が高いか?…という中では、これも結局は雇用主との交渉次第のはずだ。将来のビジネス戦略とも絡めて、「交渉能力」が報酬水準を決めると言っても良い。

 また、同じくYahoo記事「第3回」の

「人を育てるには、少しずつ難しい仕事を任せるしかありません。それは二重の意味でジョブ型では無理なのです。まず、同じポストにいるのに、やさしい仕事をさせることができない。ポストが仕事を決めるんです。」

という点についても、いくらでも工夫の余地があるだろう。
 「ポストが仕事を決める」という考えを杓子定規に適用しなくても、同じポストの範囲内でも「タスク」の単位で「ストレッチアサイン」をきめ細かくやっていく、という方法はどうだろうか。

10.若手の育成

 同じくYahoo記事「第3回」では、

「最初の10年はこのまま(従来のメンバシップ型)で良い」

という感想も述べられているが、「30代半ばから」、つまり10年経ってからは少し長い気がする。半年から1年程度かけて「新卒研修」を実施していくことにより、性格特性や職業適性がある程度見えてくるはずである。それ以外にも行動観察によるコンピテンシーデータの取得により、新卒入社後最初の配属も科学的に行えるのではないか。それ以降も、「ジョブ型人材育成」の考えのもとで科学的なプランに乗せてあげるべきだ。

 「最初の数年間はメンバ―シップ型」、30代半ばくらいからジョブ型に、といったようにミックスさせることの是非も含めて、この点についてもサークルメンバーから様々な意見が出た。

◆グローバル企業でもメンバーシップ型とジョブ型を混在させているケースはある。トランジションの話なのか、あるいは同時並行させられるのか、定義が少し甘い気がする。

◆日本の終身雇用は嘘だ(幻想だ)と思う。日本の大卒20代の離職率は入社後3年で3割。普通の大企業は3年で3割辞めるという比率なのであればもはやメンバーシップ型も何もないのでは…
それよりも、入社後10年経ってからジョブ型人事にのせるということは、つまり30代半ばの人に「明日からジョブ型です」というのは逆に酷なのでは?

◆そのようなやり方では、「尖った人材」はその10年を待ちきれずに愛想をつかして辞めてしまうのでは?

 同じくYahoo記事「第3回」には、

「若い人には、『あれがやりたい、これがやりたい』よりも目の前にある仕事をとりあえず一生懸命頑張りましょうと言いたい」

とあるが、いささか根性論に聞こえる。
 最初の仕事がどうしても自分には合っていない仕事だったら?我慢し続けるべきなのか?再び「電通事件」が起こるのではないか?
 やはり、入社時点や新卒研修の中である程度の「適性」は見ておくべきではないか。

 この点についても、サークルメンバーから様々な意見が出た。

◆日本企業の中に未来が見えない、海外に流れている人が多い。世の中に価値を示すことが出来ればお金が集まるわけだが、その観点で、大企業でできること、自分でできること、を区分けしていくことも重要だ。

◆銀行志望者は究極のモラトリアムが多い。ジョブを複数経験して、その後ようやく自分のやりたいキャリアを考えていく形だ。もちろんデータサイエンティストなど職種別採用していてキャリアの指向性が明確な方は最初からジョブ型。

◆「一生懸命がんばりましょう」と(根性論を)言う人はそのエビデンス(一生懸命やるとどうなるのか?)を示すべき。米国だとやりたくないことは誰もやらない。マネジメントはやりたくなる促しをする必要がある。
「自動販売機じゃないので金を入れたら何かを出すと思わないでほしい」と言う若者が増えている。
ちなみに、ピープルアナリティクスはABテストのようなものなので大企業でないと実践できない。大企業が実践して、中小企業にベストプラクティスを提供する義務があるのでは。

11.幻想を捨てよ。

 Yahoo記事「第3回」には次のような記載もあるが、

「日本型は末端まで出世できる可能性があって、35歳になってもまだ『役員になれるかもしれない』とみんなが思っています。」

というのは、本当か?私には一定の世代以上の人たちが未だに描く幻想としか思えない。
 このYahoo記事の中では終始一貫して、「同じ組織の中でずっと働き続けるに越したことはない。いや、出来ることならそれが理想形だ。」という考えが根底にあるようだ。そして何よりも、HRテクノロジーの活用を視野に入れた議論とは到底言い難い
 改めて、こちらの「HRテクノロジーで人事が変わる」の内容に注目して頂きたい。

12.識者からのコメント

 Yahoo記事については、サークルメンバー以外の識者からもコメントが寄せられているので紹介する。

 人事コンサルタント Hさん

全体的に議論の内容が少し古い。
超重厚長大企業、例えばトヨタとか三菱重工とかに限って(彼らに向かって)講演すればこんな感じになるかなという印象だ。
最近のスタートアップの採用マーケットの動向や、年収よりもやりがいを重視する若手世代のニーズ変化などが全く考慮に入っていないために、10年前の重厚長大系企業の人事責任者と会話している内容に感じる。

 
 人事ソリューションベンダー Uさん

日本で今「ジョブ型」を議論するときに完全に欠落しているのが、何のためにジョブ型を導入するのかという議論だ。

* 人と仕事のマッチング(適材適所)の精度を高めるためには人と仕事の定義が不可欠で、そのためにはジョブ型が適しているかもしれない。
* 固定費化する正社員の人件費を変動費化するにはジョブ型が適しているかもしれない。
* 社員の自律的成長を促すならジョブ型が適しているかもしれない。

といった議論の上でジョブ型を正しく理解して、自社に合うように工夫して柔軟に取り入れていけば良いはずだ。

しかしながら多くの議論は、

* ジョブ型は日本に馴染むのか。
* 今までの日本型雇用のほうが優れている点があるのではないか。

といったもにの終始しているように思える。

Yahoo記事の内容に関しても、欧米の雇用の理解がまだ不十分だと感じる。
日本型雇用に優れた点があるのはもちろんであるが、人口ボーナス期に高度成長期が重なった幸運な日本だからこそ実現できた特殊は雇用方式であるともいえる。
人は現状を変えたくないものであるが、たとえ日本型雇用にメリットがあった(少なくともこれまでは)としても、今後はそれをずっと続けられないという仮定(前提)に立って、ジョブ型を議論すべきだ。

13.(付録)「持続可能性」判定テスト

【次の質問に答えましょう!】
YesNoで答えてください。
Yesの場合のみ、次に進んでください。
Noとなったらそこで終了です。
(※あなたがもし会社経営に携わっている場合はおそらくその会社も「終了」です。)

①SDGsに関心あるか(共感するか)?

②それに向けた手段としてのESG投資に関心あるか?

③ESGのうちのS「Social(社会問題)」に関心あるか?

④上記社会問題には「人材マネジメント」も含まれており、「持続可能な人材マネジメント」をせよという要請だがこれに関心はあるか?

⑤「持続可能な人材マネジメント」の出来不出来の状態を定量的に可視化して社内外に報告せよという動きに関心はあるか?

⑥「報告」のためのガイドラインやテンプレート(ISO 30414)に関心はあるか?

⑦定量的に可視化するための「モノサシ」としてスキルコンピテンシーが不可欠とされている(ISO 30414もその前提)が、これに納得するか?

⑧上記の「モノサシ」を活用した従業員側の「スキルの棚卸し」が、「定量的に可視化」のために必要であることを理解するか?

⑨従業員の保有スキルを可視化出来たら、スキルコンピテンシーベースで定義された「ジョブ」の情報とぶつけて「マッチ率」「ギャップ率」を測定することの必要性を理解するか?

⑩ここまでで自然と「ジョブ定義」が促進されることになるが、「ジョブ型(人材育成)」への移行を決断できそうか?


 さて、上記質問について「答えようがない」「イマイチぴんと来ない」という場合は、下記のセミナーの受講をおススメする。





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