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評判の悪い『ユア・ストーリー』

ドラクエシリーズはそう熱心に遊んできた方ではなく、『7』までと『4』のリメイクを最後にそれ以降はチラっと触った程度なんですが、たまにちょっと遊びたくなることがあります。

そして先日、少しだけプレイしていたDQ10を再開してみるのもいいかな~なんて考えているときに思い出したのです。映画『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』の存在を。

2019年に公開された『ユア・ストーリー』は結婚イベントがよく話題になる『ドラクエV』をベースにしたCGアニメ映画。公開当時、めちゃくちゃ評判が悪いことが評判になり、ある意味ヒットした作品です。

評判が悪いと聞いて、続々と劇場へ向かう日本人! さすが国民的RPG! SNSでは「気になったから観てきた! たしかに(以下、批判)」といった報告が相次ぎました。自分のタイムラインで(リツイートされたものが多めでしたが)あんなに映画鑑賞報告を見たのは、「君の名は」以来だったかと思います。

そういえば『君の名は』って英語表記は"your name."なんですよね。日本人はそんなに「ユア」好きなんでしょうか。このnoteのタイトルも明日から『ユアアイコンには言われたかない』にしたら国民的人気を博すかもしれませんがめちゃくちゃ感じ悪いのでやめておきましょう。うーん、自分にもっと愛国心があれば思い切れたかもしれないのに残念(?)です。

そんなに悪くなかった

本題に戻ります。『ユア・ストーリー』は先日NETFLIXで観たのですが、全体の感想としては「悪くない」でした。

細かいことを言えば、序盤の展開が近頃よくある「飽きさせないために間を置かずにどんどん話を進める早回し構成」で情緒もへったくれもない作りなのは気になりました。ネット配信も想定していたにせよ劇場映画なんだから「逃がさない」手法はとらなくていいでしょ、と思いましたが微妙に世界設定に関係しているようなのであまり批判するのは不当かもしれません。

ただ、「早回し構成」は途中まで。中盤以降は、丁寧な描き方をしていてけっこう良い出来だと感じました。個人的に「早回し構成」は大嫌いですが、物語に緩急をつけるためなら少しくらいは許してやってもいいよ、みたいな謎の上から目線で視聴は続きます。

枠内にダイレクトではないネタバレあり

そして「けっこういいじゃない、何が悪いの?」と自問して思い出しました。終盤……

……メタな展開があることが批判の中心だったことを。
メタな展開というのは、劇中でドラクエのプレイヤーに対するメッセージがあること。
しかも、それが極めてネガティブなものということです。
ただし、ネガティブなメッセージは制作者からのものではありません。
あくまで登場人物が発する言葉であり、作品としてそれを肯定してはいないのです。

終盤の展開に対する批判を考える(ネタバレなし)

『ユア・ストーリー』は終盤の展開のなかでネガティブな表現があったことで強い批判を受けましたが、その批判に正当性があるとは言えないと思います。

よく、ポリコレ批判や、誤った表現の自由に関する言説に「違法だからと表現を禁じれば、『ルパン三世』もアウト」(泥棒を肯定する物語だから)といった極論がありますが、『ユア・ストーリー』に対する批判はこの『ルパン三世』に対する誤った見方に似ているかもしれません。

ルパン三世は確かに泥棒を主役とし、現実なら多くの国で禁じられている武器を所持し、使用する物語です。しかし、劇中においてルパンたちは警察に追われていることで、その行動を"否定"されています。決して表現の自由があるから許されているヤバイ作品というわけではありません。

『ユア・ストーリー』のネガティブな表現は犯罪とは違いますが、批判の対象となっている「表現」は劇中で否定され、むしろポジティブに展開していることを見過ごすべきではありません。

とはいえ!

ただし、一度ネガティブな気持ちになってしまえば、その後いくらフォローしても取り返しが付かないことがあるのも事実です。

『ユア・ストーリー』のネガティブ表現は、ドラクエを強く愛する人にこそ「痛恨の一撃」となるものです。そこで頭に血がのぼってしまえば、その後の物語が頭に入ってこないこともあり得ます。

ほかにも良い意味ではなく「気になる」ポイントがいくつかあります。『ドラクエV』に因んでいないタイトル、鳥山絵ではないキャラクター、いくつかのちょっとした違和感のあるセリフなどなど。

それは本作の設定上では辻褄があっており、終盤の展開の伏線になっているものもあります。この「本作の設定」が曲者で、劇中では仄めかしも含めてきちんと表現されているのですが、好き嫌いとなるとまた別の問題です。中盤の出来が良いだけに、終盤の展開が気に入らないこともあるでしょう。

嫌いなら嫌いで、批判するのはかまわないと思います。ただ、「嫌い」と「悪い」は違いますし、批判のしどころについての正当性は必要です。

もっとも、この作品に対する批判の多くは、作品に隠されていた伏線・仄めかしがわからなかったり、好まない展開だったり、あるいは原作至上主義者による暴動などというよりも、なにより「この作品は批判するのがトレンド」という流れによって起きたのではないでしょうか。

そこまで「国民的」になれたのだから、ドラクエの映画化としての『ユア・ストーリー』は、大成功だったと言わざるを得ません。ぼくの物語では、なかったけれど。

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