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オリーとダンが日本へやって来る。その知らせに、静かに狂喜乱舞、

 オリーとダンが日本へやって来る。その知らせに、静かに狂喜乱舞、興奮した。実際に、部屋で小躍りをしてしまった。眠れなかった夜は何処かへ行った。狭い部屋の中で醜い生き物が肩と尻を揺らすその様は、監視カメラでもあったら異様な光景だっただろう。
 それからというもの日に何度も何度もオリーとダンのSNSをチェックした。が、「日本へ行く」と投稿されてからそれっきり、彼等の投稿は何もなかった。だが、良くも悪くも私はその凪の間に気持ちを落ち着かせることができた。そして、私自身の希望の所在を明らかにすることもできた。
 それは、万一、オリーとダンに会ったらどうするか、ということだ。数年間、ずっと追い続けてきた二人が目の前に現れたら、どうする。人生の終わりに後悔のないように、どのような行動を取るべきなのか事前に決めておく必要があった。チャンスは一生に一度しかないだろう。それほど、大変に貴重で重要なことだった。
 できれば、お礼を言いたい。あなた達と出会って、あなた達の関係を影ながら愛でることができて、私はとても幸せです。これからも、二人の写真を投稿し続けてください。贅沢は言いません。本当にたまにでいいです。ずっと二人が幸せでいられることを心から祈っています。ちなみに、これは私のアカウントです。大した写真はないけれど、フォローしてくださると嬉しいです。これは、日本のお土産です。お納め下さい。そう言って菓子折りを渡し、感謝を、感謝を伝えたい。
 しかし、と私は我にかえる。もし突然、こんな知りもしない奴が話しかけてきたら恐怖でしかないのではないか。しかも遠い異国で。自分達のプライベートな写真が世界の片隅の赤の他人に見られていると知ったら、恐れおののいて投稿をやめてしまうかもしれない。非公開設定にしてしまうかもしれない。最悪の場合、アカウントまで削除してしまう危険がある。もちろん、彼等のアカウントは非公開のアカウントではない。全世界から誰でも見ることができる公開アカウントだ。しかし、オリーのフォロワーは百名程度であり、ダンに至ってはその半数にも満たない。おそらく、彼等は知り合いの知り合い程度にしか自分達のアカウントは見られていないと思っているだろう。わざわざ遠く離れた日本から彼等を無数のネット網から探し出し、プライベートな投稿のみのアカウントをチェックしている人間が存在するとは思っていないに違いない。
 彼等が、もしSNSのアカウントを全て削除してしまったら、私の世界は終わる。冗談ではなく、おそらく数年は寝込み、社会生活を送れなくなる。だから、お願いします。どうかアカウントだけは消さないでいてほしい。更新がなくても、そこにアカウントがあるというだけで、まだ希望が持てる。非公開アカウントになったとしても、いつかまた公開アカウントに戻り、新しい写真が投稿されるかもしれない、プロフィール文に新しい一言が追加されるかもしれない、そういった可能性である。アカウントが消されたり、新しく作り直されたら、二度と彼等のアカウントを探し出せる自信がない。そう考えると、今繋がっているネット網の中の一本の筋は、かろうじて繋がっている糸のように感じた。プツンと切れたら、地獄へ舞い戻る。その細さは、蜘蛛がお尻から出す糸ほどの細さであった。
 私は、そんな恐怖に身震いして、もし奇跡的にオリーとダンに会えたとしても、遠くから見つめるだけで、話しかけないことに決めた。その上で、彼等を見つけ出したい。彼等の仲睦まじい姿を見るだけで満足だ。

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