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109_『ことばの生まれる景色』/ 辻山良雄

109_『ことばの生まれる景色』/ 辻山良雄

本を読むことは、誰にでも等価にオープンで、そして世の中には読みきれないくらいの本がある。

目眩がするくらいの量の本を図書館で目にするとそれだけでフラフラしてしまうので、どちらかと言うと店主の目線でセレクトされた本屋の書棚というものが好き。

実は訪れたことのない西荻窪にあるtitleの店主の本。

様々な本がnakabanさんの挿絵と共に紹介されている。少しだけホッパーの本を思い出す。

読んだ

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108_『さよならのあとで』 / ヘンリー・スコット・ホランド

108_『さよならのあとで』 / ヘンリー・スコット・ホランド

言葉にならないことを目前にしてなお、生きていくために、拠り所となるのは、もしかしたら言葉なのかもしれない。

死はなんでもないものです。
私はただ
となりの部屋にそっと移っただけ。

から始まる一編の詩。

100ページあまりの一冊に込められた想いをひしひしと感じる。

この本を作るために出版社である夏葉社が立ち上げられたということに深く頷く。そして、深い感謝しかない。

105_『ピンポン』 / パク・ミンギュ

105_『ピンポン』 / パク・ミンギュ

単調な日常の繰り返しに刺激を求めて手に取る一冊。

本の中に広がる、自在の想像力は確かに刺激となる。このパク・ミンギュのその意味での安定感。

サブカルチャーのジャーゴンとして一時的に流行った「セカイ系」の類型が奇しくも当てはまってしまう本作。学校帰りの野原での何気ないやりとりの繰り返しが、最終的には地球の存続にまで繋がってしまう。

ピンポンのラリーのように繰り返す日常。ただ、いつかはスマッシュ

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104_『聖地サンティアゴへ、星の巡礼路を歩く』 / 戸谷美津子

104_『聖地サンティアゴへ、星の巡礼路を歩く』 / 戸谷美津子

巡礼という言葉には、どこか憧れを抱いてしまうのが人の常で、世界には様々な巡礼の形があることを何故だか知っているのも不思議なことで、巡礼というものが主に宗教と結び付いているからか、それ自体が生きることに近くて、遠いようで身近に感じる言葉。

個人として、巡礼を傍で感じる機会があったのは、イスラエルに訪れた時のことで、エルサレムはもちろんのこと、パレスチナにあるベツレヘムで大量の白人の団体を見かけた時

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103_『NEUTRAL COLORS - ISSUE1』

103_『NEUTRAL COLORS - ISSUE1』

無類の本好きであるという自負はあるけれど、好きという点においては、やはり雑誌というものは外せなくて、特に学生時代はお金もなく、ひたすらに本屋さんに寄ってはらゆる雑誌を立ち読みしていた懐かしい記憶、は誰にでもあるだろうと思うけれど、自分にとっても例外ではなく。

インターネットが常なるスタンダードである今とは違って、少し前まではやはり雑誌こそが情報の先端だったのは言うまでもなく、自分にとっても、週刊

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098_『ある一生』 / ローベルト・ゼーターラー

098_『ある一生』 / ローベルト・ゼーターラー

旅行や、仕事、あるいは転居といったように「移動すること」が当たり前の時代。まさか、旅行することの賛否について意見を交わす時代が来るなんて想像していなかった。

一生において、人はどれくらいの距離を移動するのか。訪れた国の数、飛行機に乗った回数、車の走行距離。おそらく、もう記憶を辿っても、正確にはわからないことばかり。

一方で、国を出たことがなければ、自分の生まれた街を出たこともなく、ましてや飛行

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095_『帰れない山』 / パオロ・コニェッティ

095_『帰れない山』 / パオロ・コニェッティ

日本の山岳小説の類は色々と読んでいて、これまでに自分が実際に登った山の記憶を重ねることもあれば、いつか登りたいと思っている山の情景を想像し、胸を踊らせることもある。

人が山に惹きつけられる理由。

それは当然のことながら一様ではないけれど、それらに共通するのは、その日に登った山、その日に歩いた道は、完全に自分だけのものであるということ。そして、誰かと一緒に山に登ることがあれば、その体験はかけがえ

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094_『ガルヴェイアスの犬』 / ジョゼ・ルイス・ペイショット

094_『ガルヴェイアスの犬』 / ジョゼ・ルイス・ペイショット

太陽、地球、月。
それぞれに名前がある。
けれど、夜空に一瞬だけ現れる流星に名前はなくて、それでも、その軌跡に不思議な感傷を覚えてしまうのだから不思議。

偶然なのか、何かが引き寄せたのか『ガルヴェイアスの犬』という本を読んでいたら、深夜、東京の上空に現れた流星のニュースを知った。

人は名前を付けたがるもので、それはきっと名前を付けることで安心したいから。

逆に言うと、名前がない物は得体の知れ

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091_『本屋さんしか行きたいとこがない』 / 島田潤一郎

091_『本屋さんしか行きたいとこがない』 / 島田潤一郎

旅行をすることがあれば、その街に良さそうな本屋がないか、必ず事前調査をするし、場合によっては本屋さんのために旅程を弄ることも厭わない。それくらい本屋さんが好きというか、自分にとっては身近な存在。

最寄駅に降り立てば、自宅に直帰するのではなく、いつもの本屋さんに寄って棚を一通り見てしまう。

多分、そういった類の人種というのは少なくなくて、だから本屋さんという商売が成り立っているのだなとも思う。

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090_『逃亡派』 / オルガ・トカルチュク

090_『逃亡派』 / オルガ・トカルチュク

またも素晴らしい作品との邂逅。
いや、正確に言えば、再会。

数ヶ月前、一度図書館で借りたものの、返却期間が来てしまい断念した作品。

返却してしまったあとも、頭の中にずっとその余韻が残っていて、改めて手元に届き、無事に読了。

初見ではなかなか読み進めることができなかった作品。

少し特殊な作品かもしれない。作品に内包される情景と読者の想像力が共鳴してようやく、物語に踏み込んでいくことのできるか

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087_『すべての雑貨』 / 三品輝起

087_『すべての雑貨』 / 三品輝起

『雑貨化する社会』 と帯にある通り「雑貨化」という視点は世の中を捉える上では非常に強力なフィルターで、眼に映るモノすべてを雑貨化することを一度始めてしまうと、途端にその眼鏡を外すことが難しくなる。

西荻窪にあるFALLという雑貨屋さんの本。エッセイというよりは論述の集積。

なので、雑貨/エッセイというタグ付けだけを頼りに読み進めると、その内容にすっかり裏切られる。

これはもはや、ボードリヤー

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084_『私は幽霊を見ない』 / 藤野可織

084_『私は幽霊を見ない』 / 藤野可織

怖い話が、怖い。

何故怖いのか。それは想像力。
想像してしまう自分の想像力こそが一番怖いことを知っている。

だから、怖い話は聞きたくないし、ましてや幽霊を見るとか見ないとか、見えるとか見えないとか、できればそういったところから縁遠く生きていきたいと思って生きている。進行形で。

そういった類の人はきっと世の中にはたくさんいて、一方で、幽霊の話を聞き集める人もいる訳で。

藤野可織の『私は幽霊を

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078_『うたかたの日々』/ ボリス・ヴィアン

昨夜は眠りにつけず、色々な記憶に思いを巡らせながらも、最後に頭に浮かんだのは、この作品だった。

文学史において、突出した傑作というわけではないけれど、時折、触れたくなる作品。少なからず、昨日の自分の心に平穏をもたらしてくれたことは確か。

ボリス・ヴィアンの『L'écume des jours』

直訳するならば『日々の泡』
邦題は『うたかたの日々』

英題『Mood indigo』は、言わずと

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069_『山小屋の灯』 / 小林百合子、野川かさね

069_『山小屋の灯』 / 小林百合子、野川かさね

もう、1ヶ月以上も山に登っていなくて、次にいつ山に登ることができるのか、まったく先の見えない今。

一方で、外出自粛ムードの中、少し外を歩いただけでも、肌で春の到来を感じる。それは、同時に登山がこの上なく気持ちの良い季節がきたということ。

きっと、今日も山は確かに変わらず存在していて、そして、本来であれば、山小屋には今夜、光が灯っているはずで。

山の上で過ごす時間は、その一瞬一瞬が美しくて、中

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