回転寿司の艦長
久しぶりに郊外の回転寿司屋に行った。昼時だったこともあり二十分待ち。サーモンフェアをやっていた。五皿ほど頂いた後、ふと厨房の方に目をやる。白いスモークガラスで仕切られており寿司職人の人数程度しかわからない。目当てのマグロはまだ流れてこないのだが、次に握るネタはどうやって決めているのだろうか。各自の判断というわけではあるまい。ベルトコンベアをカメラで監視している人がいるのか、カメラ画像を元にコンピュータが判断して指示を出しているのか。小規模な店ではオーバル型のコンベアの中央に寿司職人がいて見るだけで確認できていたはずだが、今はコンベアが客席に蛇行するように流れており人が全体を見渡すことはできないのだ。
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回転寿司といえばある映像を思い出す。1999年頃から急激に伸びた回転寿司チェーン店をテレビで特集していた。一号店は大規模な作りで常時大勢の客で賑わい、店内の喧騒もかなりのものだった。個別に寿司ネタを注文するようなシステムはなく、コンベアには客が欲しがるものを滞りなく流す必要があった。この店は当時これをどう解決していたのか。
テロップが印象的だったのでよく覚えている。鬼塚平蔵(65)。彼は寿司を握らない。11時30分になると「第一種戦闘配置」のアナウンスが流れる。彼はせり上がるシートと共に登場する。店内の高い位置で双眼鏡を手に、流れるコンベアを監視してマイクで厨房に指示を出していた。「左舷マグロ6サーモン4」厨房からも元気な応答がある。「左舷マグロ6サーモン4ヨーソロー」客はそのやり取りを聞いて、新鮮なネタがこれから流れてくるのを期待する。軍艦巻きからの連想だろうか、彼は艦長と呼ばれていた。艦長を目当てに訪れる客も多かったとのことだ。忙しい時間になると細かい個数の指示はなくなる。「前方ネギトロ斉射!」店内では拍手が起こったという。
ユニークな店だったがリーマン・ショック後に業績が急激に悪化、いったん店舗を閉鎖してしまう。最近再開したが艦長はおらず、他の回転寿司と変わらない店になってしまった。いま艦長は何をしておられるのだろうか。たまには回転寿司には行かれているのだろうか。
*印以下はフィクションです。以降空白
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