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マーケティングの基本は情報収集。

スズは翌日からディアの道具屋《ユピテル魔道具店》で店番を始めた。

隣の工房では、ディアが昨日取ってきた薬草でポーションを作っている。

「ポーション以外にも結構、色んな商品があるんだなー。早く商品の知識を憶えていかないとお客さんに質問されても答えられないなー。」
スズはお店の商品を物色しながら独り言を言っていた。

昨晩、スズはディアから売れ筋商品のポーションの説明だけ聞いていた。

ポーションは使う薬草の種類によって回復効果に段階があり、さらに毒消しなどの特殊効果を付与することができる。他にも魔法効果を付与したマジックポーションと呼ばれるものもあり、ポーションの種類は無数にあるらしい。
凄いものだと、蘇りのポーションや若返りのポーションなんてのもあるらしい。つまりなんでもありってことだ。

午前中は、ディアから言われたとおり、カウンターに座って待機し、お客さんが来たら接客をするつもりでいたが、来店はなかった。

お昼時になるとポーション作りが一段落したディアが工房から戻ってきて、一緒にランチを作って食べた。

午後の来店に備えて、カウンターで待機していたが、一向にお客さんが入ってくる気配がなかった。
流石に暇なので、カウンター周りや陳列棚の掃除や整理を行ったが、とうとう夜になってもお客さんが来店することがなかった。

「・・・。嘘でしょ?」orz

スズは、まさかとは思ったがディアに質問をしてみた。

「ディア。お店にはいつもどのくらいのお客さんが来るのかな?」

「え?うーん。ご近所の方が週に何回か来ますね。」
「他には?」
「冒険者の方がたまに来ますね。ほら、ウチって村の出入り口に一番近いから、忘れ物があったりすると中央に戻るのが面倒なので、寄ってくれるみたいです。あとは、旅の業者さんが来ます。」
「・・・。僕の店番っていらなくない?」
「そ、そんなことないですよ!裏のおばあちゃんも薬が切れた時にお店が留守で困ったと言ってましたし。」
「そっか。まあ、僕も行くところがないので、仕事をもらえるのは、助かるんだけど、ディアの迷惑になってないかなって思って。」
「そんなことないですよ!ずっと一人でやってきたから家族が出来たみたいで嬉しいですし、これから忙しくなりますから!」
「えっ!何か忙しくなるイベントとかあるの?」
「うっ。特に何もないですけど。」
「ちょっ、流石に無計画すぎない??聞いていいかわからないけど、お店の経営、本当に大丈夫?」
「・・・。実は、結構赤字です・・・。」
「ほらー!何か策はあるの?」
「ないです・・・。スズさんどうしましょう?」
「えー。うーん。僕にどこまでできるかわからないけど、元の世界ではマーケティングを勉強していたんだ。だから僕なりに策を考えてみるよ。」
「はい!ありがとうございます!・・・。でもマーケティングってなんですか?」
「ごめんね。わからないよね。マーケティングっていうのは、簡単に言うと売れる仕組みづくりのことだよ。」
「売れる仕組みなんてあるんですね!凄いですね!じゃあ、スズさんにお任せすれば、うちのお店もお客さんがたくさん来るようになりますか?」
ディアは感動で目を輝かせて、スズに聞いてきた。

「僕の専門はWEBマーケティングだから、異世界の店舗のマーケティングは、やったことがないので自信はないけど、ディアにはお世話になりっぱなしだから、頑張ってやってみるよ!」
「はい!ありがとうございます!」
ディアは笑顔で答えた。

スズの異世界でのマーケティングが開始した。

**********

夕食を食べたあと、スズは一人、部屋で考え事をしていた。

マーケティング知識で策を考えると言ったものの、異世界で元いた世界のマーケティングが通用するのかわからなかった。しかし、このままではお店が潰れてしまうのは確実だし、なんとかしないと。

「でもディアは、ポーションを作っているってことは、売れてはいるんだよね?じゃーなんで、こんなに赤字なんだろ?」

「うーん。情報が少なすぎるな。まずはリサーチを始めなきゃ!」

バンっ

スズは勢いよく部屋をでて、ディアの部屋に向かった。

「ディア、起きてる?」

スズはディアの部屋の前で話しかけて見た。

「あ、はい。どうしました?」

すぐに扉が開いてディアが出てきた。

「色々考えたんだけど、お店をどうにかする前に、この村の現状とか、知りたいので明日、村を案内してくれないかな?」
「もちろんいいですよ!であれば商人ギルドに一緒に行きましょう!ギルドの方がいろいろ教えてくれますよ!あとマーケットエリアにも行ってみましょう。」
「そんなのがあるんだね!じゃあ、明日お願いしてもいいかな?」
「はい。わかりました!」
「遅くにごめんね!また明日!おやすみ!」
「はい。おやすみなさい!」

翌朝、スズたちは村の中心にあるギルドにやってきた。
ギルド中にはカウンターが二つあり、右が冒険者ギルド、左が商人ギルドの受付となっていた。

「商人ギルド エムブラ支店にようこそ!黒髪の美少女の入会を歓迎いたします!当ギルドでは皆様の預金管理やドロップアイテムの換金などを行っております。本日はご入会希望ということで?」
無駄にテンションが高いギルド職員だった。

「こんにちは、マルスさん」
「これはこれはディアーナ様、おお、あなたのお連れ様でしたか。これは失礼いたしました。」
「いいえ。今日はこちらのスズさんにこの村のことをもっと知っていただきたくて連れてきました。」
「おお、そうでしたか、この村のどんなことが知りたいですか?」

ディアは、スズが異世界人であること、自分の道具屋に住み込みで働いてもらっていることを簡潔に伝えた。

「なるほど、異世界人ですか。興味深いですね。」
「もしかすると、スズ様も偉大な力が授かっているかもしれないですね。」
「えっ!僕にもチート能力が!?」
自分にはチート能力は、ないものと決めつけていたスズは、マルスの言葉に正直ワクワクした。

「当ギルドにご入会いただければ、スズ様のステータスをお調べすることができるのですが?もちろん入会費用などはかかりません。預金管理やアイテムの売買の際に少し手数料をいただきますが。」

ディアの方を見るとウンウンと頷いていたのでお願いした。

「承知しました。ではこちらの魔法石に手をかざしてください。」

魔法石と呼ばれた黒い石は、立方体に綺麗にカットしてあり、表面は、まるで、タブレットPCを思わせるようなモノだった。スズは魔法石の上に手をかざすと、手から青白いモヤのようなものがでてきて、直ぐに魔法石に吸い込まれて行った。しばらくすると、文字のようなものが、魔法石の表面に浮かび上がってきた。

「登録の準備が完了したようです。登録名を魔法石にお伝えください。通り名でも登録可能ですよ。」
スズは小さくうなずいて答えた。
「スズ!僕の名前は、スズだよ!」

名前を言い終わると、魔法石は、全体が青く光り、徐々に輝きを落として言った

「はい。以上で登録完了です。魔法石に手をかざしていただくだけで、ステータスの確認をすることができますので、ギルドに来た先は、是非ご利用ください。」
「へー。凄いシステムですねー。」
「魔力で感知するので、例えば魔法で姿をカエルに変えられてしまっていてもご利用いただけますよ!」

うん。だいぶ嫌な例え方をする人だ。
っていうか、カエルに変える魔法があるの?やだ。怖い。

スズは試しに、魔法石に手をかざして見た。
すると、さっきとは違い赤い光で文字が浮かんできた。

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名前:スズ
性別:女性
種族:異世界人
職業:なし
Lv:1
筋力:10
体力:10
敏捷:10
魔力:10
技能:言語理解 Lv.1、鑑定 Lv.2
ステータスポイント:100
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うわっ。チートのかけらもないなっ!

「おやおや、初期状態で鑑定レベルが2ですか。すごいですね。」
「これってすごいことなんですか?」
「この世界の人でも極稀に生まれたときから技能を持っている方はいらっしゃいますが、最初からレベル2の方はなかなかいないですね。鑑定の技能コストが50ポイントなので、レベル2なら100ポイント必要ですし、言語理解の技能コストも100なので、スズ様は、最初から300ポイント分のステータスポイントをお持ちのようですね!一般男性の初期ポイントが100~200ポイントぐらいなので、高いと思いますよ。」

へー。僕って一般男性の初期ポイントより高いんだ。
能力が低いと思っていたので、正直うれしい。

「ちなみに伝説の勇者はどれくらいだったんですか?」
「私も直接拝見したわけではないですが、噂によると、ステータスは、レベル1の時から100を超え、ほとんどの運動系スキル、魔法系スキルが最上位のレベル5だったと言われています。」
「え?ちょっ。100!?私の10倍もあったんですね!!」

同じ異世界人でも、勇者と比べると、残念ながらチートと呼べるほどのステータスではなかった。

「し、しかし、あくまでも噂ですし、魔王がいない現在では、そこまで高いステータスは必要ないかと思いますので、スズ様の鑑定スキルのほうが十分に有用なスキルだと思いますよ。」

あきらかにがっかりした顔をしていたようで、慰められてしまった。
恥ずかしい・・・。

「ステータスポイントもまだ100ありますので、どのようなスキルを習得していくかじっくり考えて見てはいかがでしょうか。」
「はい。ありがとうございます。」

スズは、ステータス以外にレベルやスキルのこと、商人ギルド・冒険者ギルドでできること、近隣に出没するモンスターのことなどを聞いた。

ギルドを出たあと、スズたちは、村のマーケットにもよって自宅へ戻った。

スズは、自宅に戻ると調べた情報をまとめ始めた。

・エムブラの村の人口は700~800人程度。
・クエスト中の補給で立ち寄る冒険者が常時50パーティくらい。
・冒険者のお目当ては、ギンヌンガの森。
・冒険者ランクは、Dランク、Cランクが多い。
・同業者は、店舗型の道具屋が1件、中央市場に露天商が4件ある。
・その他は、武器屋1店舗、防具屋1店舗、宿屋1店舗、治療所1軒がある
・冒険者ギルドの採取依頼は、薬草関連が多い
・納品依頼は、キラービーの羽の依頼が多い
・討伐依頼は、レッドボアの依頼が多い
・近隣で出没するモンスターは、レッドボア・ラビットホーン・キラービー・ヒポグリフあたりが多く生息している。
・キラービーは毒がある

こんな感じ。

さて、どんな戦略を立てようかな?

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