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本当はいらないかもしれない…。大学案内の役目と扱いをもう一度考え直すと、大学の個性を考えざる得なくなる?

オープンキャンパスを例年のように開催できないこともあり、今年度はどの大学もオンラインでの情報発信を強化しています。この流れは来年以降も続くことが予想でき、おそらくそこで大きな課題として持ち上がってくるのが大学案内のウェブ化のように感じています。

本当は高校生と相性が悪い大学案内

今回の新型コロナで世の中全体のオンライン化が急激に進み、生活様式も変わりました。こういったなかで、以前と同じ情報発信にこだわる理由はありません。さらにいうと、身もふたもないのですが、高校生への情報発信として、紙媒体はあまり適していません。

内閣府による「令和元年度 青少年のインターネット利用環境実態調査」によると、1日に5時間以上インターネットを利用している高校生は3割以上。3時間以上なら7割近くにのぼります。一方、「第65回学校読書調査(2019年)」によると、2019年5月に1冊も本を読んでいない高校生は55.3%、なんと半分を超しているのです。大きく内容の異なる調査結果を並べてはいるものの、それでも高校生にとって、冊子とネットではどちらが身近なのかは一目瞭然です。

高校生のネット使用時間

内閣府「令和元年度青少年のインターネット利用環境実態調査」より作成

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公益社団法人全国学校図書館協議会「第65回学校読書調査(2019年)」より引用

大学の入試広報は、高校生との接点が多く、わざわざ数字を出す必要もなく、肌感覚としてこのような状況を理解しているように思います。そうであっても、莫大な費用と労力をかけて大学案内をつくり続けているのは、なぜなのか。おそらく、それぞれに何かしらの理由があるのでしょうが、なくてもいいんじゃない?と思っている大学は、絶対にたくさんあるはず。そういう大学が、今回のコロナでとうとう踏ん切りをつけるように思うのです。

大学案内をなくして何をする?

では、大学案内をどのように廃止するのかですが、まず思いつくのが、完璧に止めてしまって、オンラインに情報を集約するというやり方です。これは2013年に大学案内を廃止して話題になった、東洋大学が当てはまります。東洋大学は現在、「TOYO WebStyle」というサイトに受験生向けの情報を一本化しています。やり方として思い切っている分、うまくいくと効果があるように思います。ただリスクが高いためか、話題になったものの、同じ路線で入試広報を展開する大学は、私が知っている範囲だと、今のところ見当たりません。

もう一つは、段階的に移行するという考え方です。これを実践する大学案内として、今年度の大正大学のものは、なかなか興味深いです。この大学案内は、半分がQRによってウェブサイトと連動した大学の紹介で、もう半分がなんと小説なんですね。QRによる連動はよくある手法ですが、もう半分の小説というのが考えさせられます。というのも、大学案内を廃止した先として、ウェブに集約するという東洋大学的なアプローチもありますが、大学案内とは違う、新たな紙媒体を生み出していくという考え方もあるのではないかと気付かされたからです。

じゃあ、大学案内とは異なる紙媒体とは何であるべきか。これは、ウェブではできないもの、つまりは紙の特性を上手に使ったものであるべきです。紙の特性としてすぐ浮かぶものをいくつか挙げるとすると、重量や質感など視覚情報以外の情報があること、情報を固まりとして提供できること、情報が並列でなく1ページ目からはじまるストーリーとして届けられること、などでしょうか。ここらへんの特性と、小説というのは、わりかし相性がいいように思いました。また、小説でなくても、世界観をしっかり表現したコンセプトブックであったり、学生たちのリアルな姿を追ったルポルタージュなんかもいいかもしれません。

大学案内の扱いを“選ぶ”とき

高校生の情報収集先が、紙よりウェブになっているのは明らかですし、これはコロナでさらに加速するように思います。そういう意味では、(ウェブと同じような情報が載っている)大学案内の必要性は今後さらに減っていくでしょう。でも、大学案内がいらないのと、紙媒体がいらないというのは、別の話です。もちろん、いらなくなる可能性もあるのですが、違う表現、違う役目を持たせて、高校生に届けるということも考えられます。

大学案内がなくなれば、当然その分の予算や労力を何かに使えるようになります。これの使い方によって、大学の個性であったり、何を大切にしているかがより顕著に見えてくるように思います。もちろん、大学案内を廃止しないという選択も、一つの大学の個性だといえます。何にしろ世の中の状況が変わってきているので、大学案内をどう扱うかを考えて選ばなくてはいけない、そんな状況がもうそこまでやってきているように思います。

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